大沢樹生さんと喜多嶋舞さんの争いが訴訟になった場合の勝負の行方

2014-03-12

父子関係についてのコラムが続いておりますので,巷間を賑わせている大沢樹さんと喜多嶋舞さんの事件の今後の見通しについて少し説明したいと思います(大沢さんとの父子関係が争われている子をA君とします。)。

 現在,大沢さんが,親子関係がないことの確認を求める調停を申し立てているようです。調停は話合いですが,これまでの経緯からすると,話合いがまとまらない可能性が高いと思います。その場合,大沢さんは,訴訟を提起するものと考えられます。

 それでは,訴訟になった場合,どちらが勝つのでしょうか。

 まず,大沢さんとA君の間に生物学的な親子関係があって,大沢さんが証拠として提出するであろうDNA鑑定結果が誤りであるということであれば,当然,大沢さんは敗訴になります。

 逆はどうでしょうか。つまり,大沢さんとA君の間に生物学的な親子関係がなくて,大沢さんが提出した証拠でそれが証明できる場合です。実は,この場合であっても,大沢さんが敗訴する,というのが法律家の一般的な見方だと思います。それはなぜでしょうか。

 実は,父子関係を否定するために争う訴訟形態としては,親子関係不存在確認の訴えのほか,嫡出否認の訴えというものがあります。嫡出否認の訴えは,いわゆる「推定される嫡出子」との間の法律上の父子関係を否定する唯一の方法とされています。

逆にいえば,「推定される嫡出子」の場合には,父子関係不存在の訴えを提起して父子関係を否定することはできないとされているのです。そして,「推定される嫡出子」とは,婚姻成立後200日以内,婚姻解消後300日以内に妊娠した子どものことを言います。そして,A君は,大沢さんと喜多嶋さんお二人の婚姻から7か月後に出生したとのことですので,「推定される嫡出子」に該当します。そこで,大沢さんとしては,「嫡出否認の訴え」を提起しなければ,父子関係を否定することはできません。

ところが,「嫡出否認の訴え」を提起することができるのは,子の出生を知った時から1年以内とされています。そうすると,大沢さんは,嫡出否認の訴えを提起することはできません。

一方,A君は「推定される嫡出子」なので,大沢さんとしては,親子関係不存在確認の訴えを提起することもできません。結局,大沢さんとしては,親子関係を否定する手段がないということになります。

以上は,法律家の間で一般的に認知されている考え方です。この考え方によれば,仮に,大沢さんとA君の間に生物学的な父子関係がなかったとしても,手続論の観点から,来るべき訴訟において大沢さんは決定的に不利益な立場になります。

私自身,当初はそのように思っていたのですが,最近は訴訟の行方が分からなくなってきました。それは,朝日新聞の1月19日付の以下の記事を見たからです。記事の内容は以下のものです。

「DNA型鑑定で血縁関係がないと証明されれば、父子関係を取り消せるかが争われた訴訟の判決で、大阪家裁と大阪高裁が、鑑定結果を根拠に父子関係を取り消していたことがわかった。いったん成立した親子関係を、科学鑑定をもとに否定する司法判断は、極めて異例だ。

訴訟は最高裁で審理中。鑑定の精度が急速に向上し、民間機関での鑑定も容易になるなか、高裁判断が維持されれば、父子関係が覆されるケースが相次ぐ可能性がある。

最高裁は近く判断を示すとみられ、結果次第では、社会に大きな影響を及ぼしそうだ。」

 現行法上,いかなる意味においても,父子関係を「取り消す」ことはできません。その意味で,この記事の内容には明確な誤りがあります。そのこともあり,記事の意味するところは,必ずしも明確ではありません。

ただ推察するに,大阪家庭裁判所,大阪高等裁判所において, DNA鑑定で血縁関係がないことが証明されていれば,親子関係不存在確認の訴えを提起して,法律的な父子関係を否定することができるという判断がされたということなのだろうと思います。

親子関係不存在確認の訴えは,嫡出否認の訴えのように提訴期間の制限等の特別な要件が課せられていません。朝日新聞の記事を見る限り,推定される嫡出子であったとしても,DNA型鑑定で血縁鑑定がないと証明されれば,嫡出否認の訴えをすることなく,親子関係不存在確認の訴えを提起して,親子関係を否定することができると読めるのです。

 記事の中で,高裁の判断が維持されれば,「父子関係が覆されるケースが相次ぐ可能性がある。」と記載されていますが,大沢さんの件でDNA型鑑定により血縁鑑定がないと判断された場合には,まさにこのケースに該当します。すなわち,大沢さんの勝ちです。

 以上のような高裁判断は,嫡出否認の訴えを事実上形骸化することを目的としたもので,最高裁判所で維持されるのかどうか,確定的なことは言えません。ただし,このような高裁判断が出ていること自体,嫡出否認の訴えというものの意義が根本的に揺らいでいるように思います。

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