婚外子法定相続分の規定の違憲判決(最高裁平成25年9月4日大法廷決定)が与える影響

2014-01-16

昨年9月4日,最高裁判所は,婚外子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号の規定を違憲だと判断しました。

多くの法律実務家は,近い将来違憲判決が出ることを予感していたように思います。むしろ,法律実務家の間の関心ごとは,「民法900条4号が違憲だと判断された場合,違憲とされた時点以後に行われた遺産分割協議,調停,審判等の効力はどうなるか」という点に移っていたと思います。すでに,平成23年9月の時点で,「もしも最高裁が民法900条4号ただし書の違憲判決を出したら」(東京大学法科大学院ローレビュー,2012年9月号)という論文が書かれており,私の弁護士仲間の間でも話題になっていました。

問題点をもう少し詳しく説明します。

本判決の事案では,被相続人が平成13年7月に死亡して相続が開始となっています。そこで,最高裁は,この相続が開始された平成13年7月時点で民法900条4号が違憲だったと判断しています。

平成13年7月以降平成24年9月4日まで,民法900条4号の規定が有効であることを前提として,たくさんの遺産分割協議,調停,審判等が行われてきました。そうすると,この期間成立した遺産分割協議,調停,審判等の効力はどうなるのでしょうか。また,現在,協議中の場合,あるいは調停を行っていたり,審判の手続を進めていたりする場合は,どのような処理がされるのでしょうか。

当然,最高裁判所もこの点について説明をしています。具体的には,「本決定の違憲判断は,Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき,本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的になった法律関係に影響を及ぼすものではない」と判示しています。

つまり,

①遺産分割協議,調停,審判により法律関係が確定的になった場合は,その裁判や合意の効力は覆ることがない。

② 合意ができていなくて審判もでていないような場合には,民法900条4号が無効であることを前提として処理がされる。

ということです。

より具体的に言うと,

例えば,10年前に成立した遺産分割協議は,民法900条4号が違憲であることを知らずにしたものだから錯誤により無効であるという主張や,5年前に出された遺産分割審判は違憲である民法900条4号を適用して下されたものであるから再審事由があるというような主張はできないということです。

法的な理屈はともかく,結論としては分かりやすいと思います。ただし,「確定的となった法律関係」という判示の解釈は問題となる余地があります。

まず考えられるのが,明確に遺産分割協議は成立していないものの,各相続人がそれぞれ一定の財産を取得していて,そのまま時間が経過してしまっているような事案です。このような場合については,黙示的に「合意」がなされて,法律関係が確定的になったかどうかという問題に帰着すると思われます。

また,銀行預金債権等の債権債務の処理も問題となる余地があります。銀行預金のように,分割できる債権は相続開始により当然に相続人に法定相続分の割合で分割されるということになっています。そのため,相続人が,預金債権を引き出す際には,必ずしも,「合意」をする必要がありませんので(ただし,実際上は多くの場合合意があるとは思います。),どの時点で「法律関係が確定的」になったか不明確になるケースがあると思われます。

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