家庭裁判所調査官の少年事件における役割

2016-01-06

 1 家庭裁判所調査官はどんな人?

 少年事件は,家庭裁判所で審理をされます(裁判所法24条2号,33条1項2号)。警察や検察が捜査を終了したら,事件を家庭裁判所に送ることになっています(少年法41条,42条)。少年事件は全件送致主義が採用されておりますので,犯罪の嫌疑がある限り,原則として家庭裁判所に送致されます。全件送致主義については, 少年事件と全件送致主義で解説しましたが,家庭裁判所調査官がいるから,全件送致主義が採用されているといっても過言ではありません。家庭裁判所に送致されたあとは,家庭裁判所調査官の出番です。

 家庭裁判所に裁判官のほかに,家庭裁判所調査官が配属されています。少年事件の特徴の一つとして,家庭裁判所の調査官が重要な役割を担っていて,裁判官と共同して事件の処理にあたることが挙げられます。実際,調査官は非常に大きな役割を果たしています。

 調査官とはどういう人でしょうか?と聞かれることがあります。一般の方には,裁判官はイメージがしやすいものの,調査官はイメージしにくいようです。

 調査官は,基本的には,心理学,教育学,社会学等を専門に勉強してきています。ですので,法律家の裁判官とは別個の観点から,少年の問題点をって,少年の更正のために適切な処遇を考えていることが期待できるのです。ちなみに,少年事件の調査官は,非常にやりがいがある仕事のようで,司法試験を受かっても弁護士にならずに,少年事件に調査官として関与したくて,調査官になった方もいるようです。

   調査官は,裁判所職員(家庭裁判所調査官補)採用Ⅰ種試験に合格した者の中から,家庭裁判所調査官補(裁判所61条の3)として採用されたあと,最高裁判所に置かれた家庭裁判所職員総合研修所において2年間の専門的な養成研修を受けて,正式に家庭裁判所調査官の資格を得ることになります。調査官は,首席調査官,次席調査官,総括主任調査官,主任調査官,一般の調査官に別れています。

 家庭裁判所調査官が,少年事件において非常に重要な役割を果たしていることは間違いないところであり,「家庭裁判所調査官は,家庭裁判所におけるケースワーク的機能・福祉的機能の重要な担い手として,家庭裁判所の人的構成の最も顕著な特色となっている。今日,その専門的能力は,裁判所内外において高い評価を受けているばかりか,諸外国の制度と対比しても,その実務的な能力・資格・養成制度等も含めて,最も優れた水準にあるものといっても過言ではない。」(注釈少年法・田宮裕,廣瀬健二[編]118頁)との評価も受けています。

2 調査前置主義と社会調査

 家庭裁判所に事件が送られると,必ず,事件についての「調査」がされます(少年法8条1項)。これを調査前置主義といいます。

 ここでいう「調査」は,大きく二つに分かれます。

 一つ目が,非行事実の存否に関する調査です。要するに,少年が非行をしたのかどうかという点を調べる調査です。これを「法的調査」といいます。

 二つ目が,要保護性に関する調査です。要保護性とは,簡単にいうと,少年は,どれくらい,再非行の可能性があるか,どういうことをすれば,再非行の可能性を小さくできるかということです(要保護性の詳しい解説は,「少年事件の要保護生とは?」を参照してください。)。これを「社会調査」といいます。

 法的調査は,法律の専門家である裁判官が行います。

 一方,社会調査は,裁判官の命令により,家庭裁判所調査官が行っています(少年法8条2項)。調査官の重要な役割は,この社会調査を行うことです。

 社会調査の方法は,少年法9条に定められています。

「前条の調査は,なるべく,少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境等について,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用するように努めなければならない」

 具体的には,調査官は,少年や保護者に面接をして話をしたり,学校や職場に照会状を送って回答をしてもらったり,家庭や学校への訪問等をしたりして,調査をしていきます。これらの中でも,中心となるのは,少年や保護者と面接して行う調査です。

 

3 家庭裁判所調査官の調査の流れ

 裁判官による調査命令が出されると,調査官は,保護者や少年に対して,照会状を郵送して,回答を求めます。また,同時に,裁判所に呼び出しを行います。

 照会書で聞かれることや,面接調査で聞かれることは,少年の成育歴,生活状況,性格,家庭状況,(少年・保護者の)経歴,事件の内容・原因についての認識,今後の生活・監督の方針,被害者に対する謝罪・弁償等の状況です。

 最終的に,調査官は,照会書に対する回答や性少年や保護者が面接調査で答えた内容を少年調査票という記録に記載をされていくことになります。少年調査票には,調査官の処遇意見も記載されることになります。処遇意見とは,要するに,少年審判をするのか(あるいは,するまでもないのか),審判をする場合には,処分(少年院送致,保護観察等)をするのが適切か,あるいは特に処分をする必要もないかという点についての意見です。少年調査票に係れている調査官の処遇意見は,裁判官が,審判を開始するかどうか,あるいは審判でどのような処分をするかという判断をするにあたり非常に重要な資料となります。

 

4 家庭裁判所調査官と付添人

 裁判官は,調査官の意見を重視する傾向にあります。また,調査官は多くの情報を持っていて,しかも,持っている情報を専門的な視点から分析することができます。そのため,付添人としては,調査官と面会して,重要な情報の提供を受けたり,調査官の処遇に関する意見を探ったり,また,解決すべき問題点等の意見を交換し合ったりすることが非常に重要になっています。

 そのため,少なくとも,審判が開かれるような事件においては,付添人は,1回は調査官と面会して協議を行うのが一般的だと思います。

 付添人が,調査官と意見交換をした結果,調査官と処遇に関する意見が一致したとしても,調査官として,懸念材料を持っていることも少なくありません。その場合,付添人が,少年や保護者に働きかけて,懸念材料を解消していく活動をすることがあります。また,仮に,付添人と調査官の処遇に関する意見が一致しなかった場合,付添人としては,調査官の考え方を分析して,調査官の意見の前提となっている少年の環境等を変える努力をするなど,調査官の意見を覆すために活動をしていくことになります。

 余談になりますが,調査官との話から,その少年に関することだけでなく,一般論として,少年との接し方,かかわり方等について学べることも少なくなく,付添人の技量の研鑽の場としても有益ではないかと考えています。

 

5 少年審判での家庭裁判所調査官の役割

 調査官は,少年審判にも出席します。ただ,裁判長の許可を得た場合には,調査官は,少年審判に出席しないことができます。実務上は,調査官が全事件の審判に立ち会うことは困難ですし,立ち会う意味が小さい事件もありますので,立ち合いを,観護措置のとられている事件,試験観察相当の意見が付されている事件,試験観察中の事件,裁判官が適切だと判断した事件に限定するという運用が行われているようです。

 少年審判では,調査官も,少年に対して,質問をしたり,さとしたり,時には,説教をしたりすることがあります。裁判官は,少年とじっくり話をするのは,少年審判の日がはじめてというのが一般的ですが,調査官の場合には,少年審判の日までに,時間をかけてじっくり話をしています。少年と信頼関係をきずいている調査官の話は,少年の心を打つことも少なくないようです。

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
     少年事件に強い弁護士

Copyright(c) 2014 品川総合法律事務所 All Rights Reserved.
【対応エリア】東京・神奈川・埼玉・千葉