少年事件で保護観察の遵守事項を守らなかったらどうなる?

2015-05-05

 保護観察を受けている少年が遵守事項を守らなかった場合,保護観察所所長が,必要に応じて,少年に対して,警告を発することになっています。それでも,少年が,遵守事項を守らず,しかも,その程度が重いときは,家庭裁判所等に少年院等の施設に送致する決定をするように申請することができます。家庭裁判所は,その申請に基づき,上記要件を満たして,しかも,保護観察を継続することによっては,本人の更生改善を図ることができないと認めるときは,少年院等の施設に送致する決定を行うことになっています。

 

 平成19年の少年法の改正により,新たに,このような規定がもうけられました。なぜ,このような規定がもうけられたのでしょうか(なお,保護観察一般の説明については,保護観察について をご参照ください。)。

 

 少年院から仮退院中にも保護観察に付されることがあります。このような場合,少年が,遵守事項を守らなかったのであれば,少年院に収容することができます。

 しかし,少年法上の保護観察では,このような処理をすることができず,遵守事項の実効性を担保する手段がありませんでした。そこで,平成19年改正前(少年法26条の4の条項ができるまで)は,保護観察中の少年が,遵守事項の違反を繰り返して,保護観察官や保護司の指示を守らない事例が少なくなく,保護観察が機能不全を起こしているといわれていました。

 もちろん,平成19年改正前も,保護観察中の少年の遵守事項違反に対処する手段がなかったわけではありません。遵守事項違反を繰り返す少年に対して,保護観察所所長が,虞犯事由があるとして,家庭裁判所に通告することがありました。遵守事項に違反しているような少年は,虞犯事由があることも多かったので,家庭裁判所としては,審判により少年院等の施設に送致する処分を行うこともできたのです。ただ,保護司さんに寄り付かなくなった少年については,そもそも,虞犯事由があることを確認することも困難ですし,また,虞犯として家庭裁判所に送致するためには,少年法3条1項の要件を充足しなければならないというハードルもあります。虞犯で通告することができたとしても,保護観察の遵守事項の履行の担保を確保するという観点では不十分であることが明らかでした。

 そこで,平成19年改正により,保護観察中の少年が遵守事項の違反を繰り返した場合,上記の手続により,少年院等の施設送致を行うことも可能となったのです(少年法26条の4)。

 この制度については,以下の指摘がされています。

「少年院等への威嚇によって少年に遵守事項を守らせようとするものであり,保護司と対象者との関係や,ケースワーク支えとする保護観察の性格自体を変容させるとの批判もある。しかし,この制度は,担当者と少年の間の信頼関係を基礎として,少年が自ら改善更生に向けた努力を行うという保護観察の基本的な考え方をかえるものではなく,制度の元々の意図は,遵守事項を守らない少年を,そこで規定された手続を踏むことによってその枠内に引き戻し,できるかぎり保護観察によって少年の改善更生を図ることにある。したがって,本制度の導入により保護観察のあり方が変容するかどうかは,その運用にかかっているといえよう。」(少年法・川出敏裕245頁)。

 警告後はもちろん,申請後においても,保護観察所が,家庭裁判所と連携をとりながら,少年に対して,保護観察の枠組みで更生できるように働きかけていくことは当然に可能ですし,実際に,そういった取り組みがされているようです。例えば,改正法が施行された平成19年から平成21年5月までの期間,全国の保護観察所においてなされた警告の総数は,99件であるのに対して,施設送致申請は5件で,その5件のうち実際に施設送致となったのは3件になっていて,警告=施設送致申請=施設送致という処理はされていないようです。特に,警告と施設送致申請の件数に大きな差異があることからすると,警告がなされた段階でどのような対応をとるかが非常に重要になってくるものと思われます。保護観察の遵守事項違反が問題となられている方は,当事務所まで御相談ください(お問合せフォーム)。

 

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