発達障害と少年事件

2016-10-01

 1 少年事件で発達障害を知る意味

 少年事件を多く扱っていると発達障害をかかえた少年と接することが多くあります。

 発達障害が直接非行に結びつくことはありません。ただし,例えば,発達障害を持った少年が,いじめ等の負の体験をすることにより,非行化傾向を深めていくということはあります。発達障害に合併する障害,あるいは二次的障害が,少年非行の可能性を高めることがあるのです。

 少年事件では,担当弁護士は,少年による再非行の可能性を少なくするためにはどうしたらよいのかを考えます。そこで,少年が発達障害をかかえている場合,弁護士は,発達障害が非行の発生に影響したのか,影響したのであればどういうメカニズムで影響したのかを検討する必要があります。その前提として,発達障害に関する知見を深めることは,少年事件を扱う実務法曹として絶対に必要なことです。

 ただ,発達障害というのは,実は非常に分かりにくい概念です。発達障害は,その名が幅広く知れ渡るようになった昨今でも,内容を正確に理解している人は少ないと思います。実際,発達障害という言葉自体は誰もが知っていますが,発達障害の正確な意味を知っている人はどれだけいるでしょうか?発達障害が分かりにくいのは,発達障害の定義があいまいで,非常に多種多様なものを含んだ概念となっていることが大きな原因だと思います。

 そのような事情もあり,昨今,発達障害という言葉だけが独り歩きしてしまっている印象があります。少年事件との関係でいえば,「非行の背景には発達障害がある」と聞いただけで,非行の原因が分かった気になってしまいがちです。例えば,重大な事件の加害少年が,発達障害だった!と報道されることがあります。ただ,そのような説明にどれほどの意味があるのでしょうか。既に説明したとおり,発達障害が直接非行に結びつくことはありません。そのため,このような報道がされただけでは,何も説明したことにならず,結局,発達障害と事件の関連性は分からないままです。さらにより問題なのは,それを聞いた多くの人は,非行の原因を分かった気になってしまっているということです。少年の発達障害がどのようなものか,どのようなメカニズムを経て非行に結びついたのか,そういった点を考えていかなければ意味はないのです。

 以下では,まずは,発達障害の意味を検討したうえで,発達障害をかかえた少年の矯正という観点から発達障害について考察していきたいと思います。

2 発達障害は脳機能の障害?

 そもそも,発達障害とは何でしょうか。実は,発達障害を定義すること自体非常に難しいことです。

 よく,発達障害が,「脳機能の障害」であるといわれることがあります。発達障害が「脳機能の障害」であることは,発達障害に関する本の中ではよく説明されています。「脳機能の障害」発達障害が「脳機能の障害」と捉えることは重要な意味があります。これにより,本人の努力不足,親のしつけが悪いというような,いわれのない非難に歯止めをかけることができるようになったからです。

 ただし,発達障害が全て「脳機能の障害」であるとしても,「脳機能の障害」が全て発達障害というわけではありません。実際,「脳機能の障害」が発生する疾病には,脳性麻痺,てんかんなどもありますが,これらは,発達障害と捉えられているわけではありません。

 では,「脳機能の障害」という点を精緻化することで発達障害を定義することはできるでしょうか。例えば,脳のどこの部分がどのように障害されるかという点を明らかにして,発達障害を定義づけることはできないでしょうか。
 しかし,結論から言えば,このような定義付は不可能です。そもそも,
発達障害が,脳のどこにどのような障害に起因するものなのか医学的に証明されているわけではありません。近代医学であれば,病気は,部位と病因と病理に基づいてカテゴライズされるのが一般です。しかしながら,発達障害は,脳のどこの部位が何によってどのように障害されているのかを証明することはできないのです(これは,精神医学一般にあてはまることだと思いすす。)。発達障害=脳の○○部分が○○の状態になっているという定義づけができないのです。

 結局,発達障害とは,あくまで患者の行動の在り方によって,病気をカテゴライズしているのであって,脳の状態を検査して,病気をカテゴライズしているわけではないし,それをすることもできません。

 「脳機能の障害」という点を突き詰めていっても,発達障害を正確に理解できるわけではないようです。

3 分かりやすい発達障害の定義

 「発達障害と少年非行」(「家庭と法の裁判」8号8頁以下)は,発達障害の特徴を抽出して,そこから発達障害の定義づけを試みています。

 まず,発達障害の特徴として挙げられているのは,以下のものです。

・乳幼児期に症状が発現する。

・生まれつきのものである。

・遺伝子が発症に関与している。

・脳の基本的機能に障害はないが高次機能に障害がある。

・集団生活,社会生活あるいは教育の場面においてさまざまな困難がでてくる。

・女児より男児より多い。

・行動や精神機能の二次障害が多い。

・小児期の精神障害の中でもっとも発生率が高い。

 以上を前提として,上記論考は,発達障害について,「複数の遺伝子が関与して引き起こされる,生得的な実行機能などの脳の高次機能の障害であって,低年齢に発現し,集団生活,社会生活,あるいは学習における様々な技能(スキル)の困難を示すものである。理由は不明であるが,男児に多く,また,他のタイプの発達障害との併存や行動や精神機能の二次障害をきたすことが多い。小児期で最も発生頻度の高い脳機能障害である。」と定義しています。

 このような定義は,発達障害の特徴をもれなく網羅しているだけに正確ではありますが,それだけに非常に分かりにくくなっていることは否めないところだと思います。

 とりあえず,「発達障害とは,子どもの発達途上において,何らかの理由により,発達の特定の領域に,社会的な適応上の問題を引き起こす凹凸を生じたもの」という程度を理解していればよいのではないかと思います(「発達障害のパラダイム転換」そだちの科学8号5頁以下を参照)(続)。

 

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