少年事件と移送について

2016-07-08

 少年事件の管轄(「管轄」とは,裁判所の事件を取扱う権限の分配のことですが,ここでは,家庭裁判所の地域的な権限分配を問題としています。要するに,どこにある家庭裁判所で審判をするかという問題です。)は,「少年の行為地,住所,居所又は現在地による」とされています(少年法5条1項)。この点は,成人の刑事事件と異なるところはありません(成人の事件では,刑事訴訟法2条1項で定められています。)。

しかし,実際には,少年事件と成人の刑事事件では,裁判所の管轄に関して大きく異なる処理がされることがあります。

例えば,
・少年A君は23区内の高校に通学して,同区内で両親とともに生活をしている。
・少年A君は山梨県甲府市に遊びに行き,甲府駅近くで傷害事件を起こして,甲府警察署警察官に現行犯逮捕された。
現在,A君は同警察署に留置されている。
という事案があったとします。

仮に,A君が,成人しているのであれば,甲府警察署から甲府検察庁におくられ,その後,甲府地方裁判所に起訴されて,同裁判所で裁判を行うことになることがほとんどだと思います。

一方,A君が少年であった場合,事件が甲府検察庁を経て,甲府家庭裁判所に送致されるまでは同様です。ただ,その後,すぐに,甲府家庭裁判所から東京家庭裁判所に移送されることになる可能性が高いです。

このような事案の場合,甲府家庭裁判所で調査・少年審判を行うことは,裁判所にとっても,少年の保護者にとっても,負担が重く,適当とはいえません。成人の刑事事件では,「調査」という手続が存在しないので,少年事件とは異なる処理がされるのです。

そこで,本件事件は,甲府家庭裁判所に送致されたのち,「保護の適正を期するため特に必要がある」(少年法5条2項)と判断されて,東京家庭裁判所に移送される可能性が高いのです。移送されても,観護措置の期間に変更はないので,移送の決定は速やかに出されるのが通常です。

結局,A君は,(観護措置が取られる場合)東京少年鑑別所に収容されるということになり,少年の両親は東京家庭裁判所の調査官から調査を受けることになり,少年審判は東京家庭裁判所でひらかれることになります。

当事務所でも,一定の距離がある裁判所への移送が見込まれる事件に出くわすことがあります。少年事件の場合,家庭裁判所の送致後も,少年鑑別所に少年に面会をする,社会記録の閲覧,調査官,審判官との面談,審判期日の出頭等,管轄裁判所や少年鑑別所に行かなければいけない場面が出てきますので,当事務所だけでは事件処理が困難になるおそれが全くないわけではありません。その場合には,住所地の弁護士とチームを組んで担当をさせていただくこともあります。特に,事案によっては,事件発生地で被害者と示談交渉をする弁護士と住所地で審判準備をするなどと,役割分担を図ることがあります(詳細は,当事務所の少年事件の基本ぺージ(少年事件に強い弁護士)を確認のうえ,お問い合わせください。)。いずれにせよ,移送がされることを想定される場合には,移動決定後の付添人活動を見据えて,弁護人を選任する必要があることは間違いありません。また,家庭裁判所送致前と送致後で,なんの前触れもなく,担当の弁護士が変わってしまうのは,少年を困惑させるだけだと思いますので,ある程度,早い段階でどのような処理をするのか決めておく必要があることは間違いありません(私自身の経験上,前の弁護士が全く説明をしておらず,少年が,状況を全く理解してておらず,「前の弁護士さんどうしちゃったの?」ということを聞かれたことがあります。)。

なお,上記の例で,例えば,少年A君の自宅や学校が富士吉田市にある場合,事件が,甲府家庭裁判所から甲府家庭裁判所富士吉田支部に移される可能性が高いと思われます。このように,本庁と支部の間,または支部相互間で事件を移す場合は,移送ではなく「回付」といいます。
     

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