嫡出否認とDNA鑑定の結果について最高裁判所平成26年7月17日第一小法廷判決(平成24年(受)第1402号,平成25年(受)第233号)

2015-01-05

夫(元夫)と民法772条により嫡出の推定を受ける子について,DNA鑑定により生物学的な親子関係が否定された場合であっても,法律上の親子関係を否定することはできないという最高裁判所の判決が出されました。

民法772条1項は,妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定し,同条2項は,婚姻成立の日から200日経過後または婚姻解消の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定すると定めています。この民法772条1項の推定を受けるということになると,父子関係を争う手段は,基本的に嫡出否認の訴えを提起することに限定されます。

父子関係を争う手段としては,嫡出否認の訴えと親子関係不存在確認の訴えという二つの訴えがあります。

嫡出否認の訴えは,提訴権者が夫に限定されること,提訴期間は夫が子の出生を知った時から1年間に限定されるようになります(民法774条,775条,777条)。親子関係不存在確認の訴えにはこのような制限はありません。つまり,子が嫡出推定を受ける場合には,夫が子の出生を知った時から1年を経過すると,父子関係を誰も争えなくなるのが原則です。

しかし,DNA鑑定により親子関係が否定されている場合,すなわち,生物学的な親子関係がないことが判明した場合も,父子関係を覆すための方法が嫡出否認の訴えに限定されるのか,夫が出生をしってから1年を経過した場合には,父子関係を否定することができないのかが問題とされていました。要するに,嫡出推定を受ける子との父子関係の否認=嫡出否認の訴えに限定される,という基本的図式の例外は認められるのかという問題です。

これまでの裁判例は,妊娠した当時の状況から,外形的に妻の子でないことが明白である場合には,嫡出否認の訴えでなくても,法律的な父子関係を否定することができるとされていました。外形的に妻の子でないことが明白であるとは,例えば,別居をしていて性交渉を行う機会がなかったような事情がある場合です。逆にいえば,妊娠した当時,夫婦が同居していたけれど,家庭内別居状態であったという場合には,妻の子でないことが明らかになったとしても,父子関係を否定するためには,嫡出否認の訴えによる方法しか残されていないのです。

今回の件の原審はこれまでの裁判例の主流とは異なり,客観的に親子関係がないことが判明した場合であれば,嫡出否認の訴えでなくて,親子関係不存在確認の訴えにより父子関係を否定することができると判事したので注目されていました。

しかしながら,最高裁判所は,原審判決を破棄して前記の判断をしました。

ただし,学説の中には,子,母,父の三者で合意がある場合には,親子関係不存在確認の訴えを提起することができるという見解もあり,今回の最高裁判所は,そのような見解の当否は判断していません。したがって,今後,この点が争点になる可能性はあると思います。

なお,DNA鑑定により父親となる男性が父子関係を構築するためには,養子縁組をする方法で対応していくことになります。

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