特別縁故者~相続人がいない場合~

2014-05-22

1 特別縁故者とは?

 特別縁故者に対する相続財産分与制度とは,相続人が不存在の場合,相続人と一定の関係(これを,「特別な縁故」といいます。)があったものに対して,特別に相続財産を取得できるようにするという制度です(民法958条の3)。

 要するに,相続人がいない場合には,相続人でなくても,相続財産を取得することができる可能性があるのです。

 日本では,必ずしも,遺言書を作成するという習慣が広まっていません。
 一方,内縁の配偶者や事実上の養子などは,遺言書がなければ,相続財産を全く承継することができません。ただ,仮に,被相続人が,遺言書を作成していたのであれば,内縁配偶者,事実上の養子に財産を取得させようと考えるであろうという事案も少なくありません。
 そこで,昭和37年の民法改正により,当該特別縁故者に対する相続財産分与制度が創設されました(当該制度創設時点では,特に,内縁配偶者の保護が強く意識されていたようです。)。

 特別縁故者の申し立てを希望する場合には,まずは,相続財産の管理人の選任の申立をする必要があります。裁判所が,相続財産管理人を選任して,同管理人が,相続債権者等に対する弁済(民法957条),相続人の捜索の公告(民法958条)等の手続きをとり,一定期間内に,相続人としての権利を主張するものがあらわれないときに,特別縁故者として財産の分与の申立をすることができます。

 当事務所では,相続財産管理人選任・特別縁故者の申立,相続人・相続財産の調査等の業務を行っております。お気軽に御連絡ください。

2 特別縁故者の範囲

 特別縁故者に該当するものには,以下の3つの類型があります。相続人おらず,以下に該当するのではないかとお考えの方は,弁護士に御相談されることをおすすめします。

① 被相続人と生計を同じくしていたもの
「被相続人と生計を同じくする」とは,要するに,同一の世帯に属するということを意味します。「内縁の配偶者」,「事実上の養子」といわれるものが,これに該当します。以下,事例を紹介します。
ア 内縁の配偶者
 ・東京家庭裁判所審判昭和38年10月7日
 30年以上にわたり,事実上の夫婦として内縁関係を結び,生活を共にし,被相続人の死後は,その葬儀を営んだ内縁の妻を特別縁故者と認定しています。
 ・千葉家庭裁判所審判昭和38年12月9日
 20年以上にわたり,内縁の夫婦として同棲し生計を同じくし,実質は夫婦の共有財産と認められる不動産を買い求め,死後は負債の支払いもしてきたものを特別縁故者と認定しています。
イ 事実上の養子
 ・大阪家庭裁判所審判昭和40年3月11日
 被相続人を幼少時代実父と信じて,成長後は養父として慕い,30年以上共同生活をしてきた事実上の養子
 ・熊本家裁天草支部審判昭和43年11月15日
 約3年半,被相続人と同居の上生計を立て,相続財酸を維持管理してきた内縁の夫の養子

 また,以下のとおり,おじ・おばや継親子について,「被相続人と生計を同じくしていたもの」と認定された事案もあります。
ウ おじ・おば
 ・岡山家庭裁判所玉野出張所審判昭和38年11月7日
 被相続人と生計を同一にして,親代わりとして一切の世話をし,死後は祭祀を主宰するなどした叔父
 ・大阪家庭裁判所審判昭和41年11月28日
 被相続人夫婦と同居し,家事一切の世話をし,農地を耕作することにより,生計の一端を担い,死後は祭祀を営んだ叔母
エ 継親子
 ・京都家庭裁判所審判昭和38年12月7日
 被相続人名義の不動産の購入資金を半分ねん出し,被相続人の死後は相続債務や葬儀費用,固定資産税等の立て替え払いをした継母
 ・大阪家庭裁判所審判昭和40年12月18日
 親子として同居し,生活一切を世話し,療養看護に努め,死後は葬儀を主宰し,法要供養を続けてきた継子

 さらに,全く親族関係にないものであっても,「被相続人と生計を同じくしていた者」に該当するとした事例がいくつかあります。

② 被相続人の療養看護に努めたもの
 家政婦や看護師など正当な報酬を得て,職業的に被相続人の療養看護に努めたものは,特別の事情にない限り,特別縁故者とは認められないとされています。
 もっとも,対価としての報酬以上に献身的に被相続人の監護に尽くした場合には,特別の事情がある場合に該当し,特別縁故者として認められます(神戸家審昭和51年4月24日を参照。)。同様に,成年後見人は,被後見人の身上監護義務があり(民法858条),特別縁故者と認められるためには,成年後見人としての職務の程度を超えて被相続人の療養看護に尽くしたことが必要となります。
 神戸家庭裁判所審判昭和51年4月24日は,「正当な報酬を得て稼働していた者は特別の事情がない限りは民法958条の3にいう被相続人の療養看護に努めた者とはといえず,したがって,原則としては,特別縁故者とは認めれないが,対価としての報酬以上に献身的に被相続人の看護に尽くした場合には,特別の事情がある場合に該当し,例外的に特別縁故者に該当すると解すべき」としたうえで,申立人について「2年以上者関連日誠心誠意被相続人の看護に努め,その看護ぶり,看護態度および申立人の報酬額からみて,対価として得ていた報酬以上に被相続人の看護に尽力したものであるといえる」と判示して,特別縁故者と認定しています。

③ その他被相続人と特別の縁故にあったもの
 いろいろな事情を考慮して,①②に準ずる程度の密接な関係にあったものをいうとされています。審判例(大阪高裁決定昭和46年5月18日判タ278号404頁,東京家審昭和60年11月19日判タ575号56頁等)では,「その他被相続人と特別の縁故にあったもの」とは,「具体的且つ現実的な精神的・物資的に密接な交渉にあった者で,その者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあった者をいう」とされております。最近の審判例を見ますと,親族関係,血縁関係の有無とは関係なく,客観的に「密接に交渉があった者」か否かが問われている事例が多いように思います。
 具体的な事例は
「特別縁故者に関する裁判例の分析➀」
「特別縁故者に関する裁判例の分析➁」
「特別縁故者に関する裁判例の分析⓷」

もご参照ください。

3 分与の金額・分与の相当性について

 民法953条の3は,「清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。」と規定するだけで,特別縁故者に分与すべき具体的な財産の内容について明確に定めていません。したがって,被相続人の財産からどの財産をどの程度,特別縁故者に分与すべきかについては,縁故関係の内容,程度,特別縁故者の年齢,職業,教育程度,残存する相続財産の種 類,数量,所在等の一切の事情を考慮して,裁判所が裁量により決定するものとされています。
 東京高等裁判所平成26年5月21日の決定は,被相続人の従兄を特別縁故者と認定しつつ,「実質的な縁故の程度程度が濃密なものであったとは認められない」ことなどを根拠として,相続財産合計約3億7800万円のうえ,300万円だけを分与するのが相当であると判断しています。

 民法958条の3第1項は,上記①ないし③の要件に加えて,「相当と認めるとき」に,相続財産の全部または一部を与えることができると規定しており,分与の相当性を要件にしています。もっとも,一般的には,この分与の相当性判断は,上記①ないし③の要件の有無の判断の中に取り込まれることが多いです。すなわち,上記①ないし③の要件を充足して,特別縁故者に該当するということであれば,分与の相当性も認められるのが一般的です。

 なお,特別縁故者に基づく分与請求があれば,請求者は分与に対する一種の期待権を有することになり,相続の対象たりうるとされています(大阪家審昭和39年7月22日)。一方,分与請求の前であれば,相続の対象にはならないとするのが一般的です。

4 特別縁故者を申立てる場合の弁護士費用について

 当事務所に特別縁故者を申立てる場合の弁護士費用については,おおよそ以下の金額となります。また,申立に際して,実費が必要となります。また,そもそも,相続人がいるか分からない場合,相続財産となる財産があるか分からない場合には,相続人調査・相続財産調査等だけをお受けすることも可能です(この場合の費用は1万円から3万円程度です。)。

経済的利益の金額 着手金 報酬金
金300万円以下の場合 10万円から20万円(消費税別)程度 16%(税別)
金300万円超え金3000万円以下の場合 10%+18万円(税別)
金3000万円超え金3億円以下の場合 6%+138万円(税別)
金3億円超えの場合 4%+738万円(税別)

 

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