特別縁故者に関する裁判例の分析①

2014-05-25

 特別縁故者について定める民法958条の3第1項は,被相続人について相続人のあることが明らかでない場合または相続人が存在しない場合において,「被相続人と生計を同じくしていた者」,「被相続人の療養看護に努めた者」,「その他相続人の療養看護に努めた者」,「その他被相続人と特別の縁故があった者」について,家庭裁判所が相続財産の全部または一部を分与することができると規定しています。

問題は,「その他被相続人と特別の縁故があったもの」の具体的な内容です。

 一般的には,「生計同一者,療養看護者に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な交渉があり,相続財産の全部又はその一部をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に被相続人と密接な関係にあった者」をいうと解されています(大阪高決昭和46年5月18日判タ278号404頁)。

 上記要件の有無の判断について,東京高等裁判所平成26年5月21日決定の要旨は参考となります。

当該事案の概要は以下のとおりです。

① 特別縁故の申立者(X)は被相続人(A)の従兄妹。
② 昭和60年ころから,Aは,Aの父でありXの母の妹であるDと確執が生じて,Xが,A宅に行っても,Aが話に加わることはなくなった。
③ 平成13年ころから,Xは,Aと意思疎通を図ることも困難となった。
④ Xは,平成18年ころ,Dから,Aを頼むと依頼された。
⑤ その後,Xは,Aが死亡する平成23年に至る約5年の間に合計5回から6回程度,A宅を訪問して,A宅の害虫駆除作業,建物の修理等を行ったほか,民生委員や近隣と連絡を取り,緊急連絡先として,Xの連絡先を伝えて,時々はAの安否の確認を行っていた。
⑥ Xは,Aの死亡時には遺体の発見に立ち合い,その遺体を引き取り,被相続人の葬儀

も執り行った。

 本件決定は,「Xは,Dに代わってDの葬儀を執り行っただけではなく,同人の死後は,同人の依頼に基づいて,自宅に引きこもりがちとなり,周囲との円滑な交際が難しくなったAに代わり,A宅の害虫駆除作業や建物の修理等の重要な対外的活動を行い,民生委員や近隣と連絡を取り,緊急連絡先としてXの連絡先を伝え,時々はAの安否の確認を行ったうえ,被相続人の送致も執り行ったのであるから・・・被相続人と「特別の縁故があった者」に該当すると認められるのが相当である」と認定しています。そのうえで,「本件に現れた抗告人と被相続人との縁故関係の濃淡,程度,抗告人が具体的に被相続人に対してとった行動等や,被相続人と父Bとの親痕関係の状況等を踏まえるならば,抗告人が被相続人の遺体の発見に立ち会い,その遺体を引き取り,親族として葬儀を執り行ったことや,平成24年×月×日現在における被相続人の相続財産の総額が3億7825万2012円に上るものであったことなどを考慮しても,被相続人の相続財産から抗告人に対して分与すべき財産の額は300万円とするのが相当というべきである。」としている。

 本件決定で興味深いのは,Xが,5年間の間に,A宅を合計5回から6回程度訪問しただけで,特別縁故者に該当するとした点です。本件においては,Xが,Aと意思疎通が困難となった原因は,ひきこもりに象徴されるAの精神的問題にあったことが背景にあり,当該事情は,上記決定の重要な考慮要素となったものと思料されます。ただ,それでも,上記頻度の状況で特別縁故者に該当すると,単に,申立人と被相続人の交流の状況の濃淡だけで判断すべきものでないことを示しています。被相続人と申立者間に「具体的かつ現実的な交渉」があったものと認めることが困難な事案でも,特別縁故者として認める余地があるということになります。

 また,死後縁故に関する事情(⑥)があったとしても,それだけで,特別縁故者とは認められないというのが通説です。しかしながら,当該決定は,生前縁故がある場合に当該事情を補強する事情として用いることは可能ということも示しています。

 一方で,分与額を300万円としたことも特徴的です。財産総額の1%程度の金額しか分与するとしなかったのは,申立人と被相続人の交流が盛んではなかったことが影響しているものと思われます。

 この決定からは,審判では,特別縁故者として認める範囲は比較的広くとるものの,分与金額を減額するなどして,バランスをとろうという姿勢が強いのではないかと思います。

(続く)

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