養育費や婚姻費用の増額・減額の始期について(ほかでは聞けない養育費・婚姻費用の話し②)

2016-10-29

 養育費・婚姻員費用は,一度,当事者間の協議,調停,審判等で決まった場合であっても,その後の事情の変更があった場合には,その事情に応じて,増額・減額が認められることがあります。減額事由としては,義務者の減収,権利者の増収,義務者の扶養家族の増加(義務者が,再婚して,再婚相手との間で新たに子をもうけたという事情が該当します。),子の就職等の事情があげられます。一方,増額事由としては,義務者の増収,権利者の減収,子の進学等があげられます。この点に関しては,「養育費や婚姻費用の増額・減額の請求について」をご参照ください

 また,養育費・婚姻費用の増額,減額の請求の事件については,最終的な解決まで時間がかかるので,増額・減額の始期が問題となることが少なくありません。増額,減額の金額も重要なのですが,それとともにいつから増額になるのか,いつから減額になるのかという点が重要になることがあるのです。

 例えば,以下のような事案があったとします。

XYは,平成26年2月に離婚。その際に,XYは,Xが,Yに対して,養育費として毎月5万円を支払うことを合意。

Xは,平成27年2月に失職。収入が0円となる。

Xは,Yに対して,平成27年6月に対して,養育費5万円を支払うことができないことから,減額してほしいという要請をするようになる。もっとも,協議はまとまらない。

Xは,平成27年7月に養育費減額の調停を申し立てる。

XYは,平成28年1月に本調停において,Xが,Yに対して,養育費として月額1万円を支払うことを合意(養育費を4万円減額することになった。)。

 以上のような事案の場合,Xが,Yに対する養育費の支払いが,月額1万円になるのはいつからでしょうか。失職した,つまり減額事由のあった平成27年2月からでしょうか。あるいは,減額の要請をした平成27年6月からでしょうか。それとも,調停の申立をした平成27年7月でしょうか。また,調停において合意がなされた平成28年1月からでしょうか。

 ケース研究327号〔家庭事件研究会〕の「養育費・婚姻費用の増減額の始期について」という論文は,この点について,いくつかの事例をもとに分析を加えています。ここに掲載されている事例を分析すると,基本的な,裁判所の考え方も見えてきます。以下では当該論文を基にして説明をいたします。

 養育費,婚姻費用の増額,減額の始期は,従来の家庭裁判所の実務においては,原則として請求時点(あるいは調停・申立時点)とされています。要するに,上記の事例ですと,請求をした平成27年6月かあるいは平成27年7月が減額の始期となるのが原則ということになります。

 上記論文は以下のように,養育費,婚姻費用の増額,減額の始期が,原則として請求時点(あるいは調停・申立時点)であることを説明をしております。

「増減額の事由が発生した以降,家裁の合理的な裁量によってその増減額の始期を定めることができると解されており,原則として,請求時(調停・審判申立時)とする考え方も,家裁の合理的な裁量の一つの帰結であるということもできる。」

もっとも,上記論文に掲載されている事例を見ると,必ずしも,申立時になっていない事案も散見されます。どういった場合にどういった理由から例外的な処理がされるのでしょうか。審判例を見ながら理由を探っていきたいと思います。

例えば,養育費の事例ですと,以下のような判断がされているようです。

1 減額の場合

1) 減額事由
義務者の扶養家族の増加       13件
義務者の減収            12件
権利者の増収             3件

  (2)  減額の始期
請求時(調停・審判申立時)     12件
審判時                5件
減額事由発生時            3件
その他                4件

 

2 増額の場合

(1) 増額事由
子の進学                  8件
義務者の増収             3件
権利者の減収             2件


(2) 増額の始期
請求時(調停・審判申立時)      3件
審判時                0件
増額事由発生時            4件
(内請求時より後に発生3件,前に発生1件)
その他                3件 

 上記は養育費の場合ですが,婚姻費用の場合も,大きな傾向は変わりがありません。

 おおよそ,以下の点を指摘することができると思います(あくまで,掲載された事例から帰納したもので,どのような事件にも適用されるというものではありません。)。

[減額の場合]

・始期は,請求時(調停・審判申立時)が原則で,半分近くの事案が請求時(調停・審判申立時)となる。
・減額事由発生時とする事例は少ない。
・減額事由発生時とした事案は,減額事由が「義務者の減収」のものに限定される。
・減額事由発生時とした事案で,減額事由が「義務者の扶養家族の増加」のものはない。
・逆に,審判時とした事案は,ほとんどが,減額事由が,「義務者の扶養家族の増加」のものである。
 要するに,
①請求時を原則としつつ,
②「義務者の減収」を理由とする減額請求の場合には,請求時より前から認められる余地がそれなりにあるが,
「義務者の扶養家族の増加」を理由とする減額事由の場合には,請求時より前から認められることは少なく,
さらに,「義務者の扶養家族の増加」と理由とする減額事由の場合には,請求時より後の審判時となる事例もそれなりにありうるということがいえると思います。
一般論として,「義務者の減収」の場合には,ある程度の減収が認められなければ,そもそも,減額は認められません。そうすると,減収が認められるケースの中には,義務者が相当に困窮して,とても,従前の婚姻費用・養育費を支払うことができなくなっている事例が多数存在するものと思われます。一方で,「義務者の扶養家族の増加」があると,そのような事情だけで基本的には減額が認められますが,扶養家族が増加しただけで,義務者が直ちに困窮するということも通常は考え難いと思います。そのような事情が,家庭裁判所の判断の背景にあるのではないかと思います。

[増額の場合]

・始期は,請求時(調停・審判申立時)が原則。 
・審判時とする例はなかった。
・増額事由発生時とする事例もあるが,実質的には(請求時より前に発生したのは),1件だけ。
・当該1件は増額事由発生の原因が「子の進学」。
 要するに,増額の場合には,
①請求時より前を始期とするものはまれで,
特に,「子の進学」以外の理由だとほとんど認められない
ということがいえると思います。
「子の進学」の場合には,請求時より前を始期とするものもあります。「子の進学」という事情は,義務者においても,ある程度,予期できるものということができる場合も少なくないということが,家庭裁判所の判断の背景にあるのではないかと思います。

★養育費等に関する説明は以下もご参照ください。
   養育費について

 

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