学校での体罰

2016-02-04

1 体罰の絶対的な禁止
 学校での教師の体罰は禁止されています。誤解されることも多いのですが,教師の体罰は,絶対的に禁止されていて,例外は一切ありません。親権者の体罰は法律上認められると考える余地もありますが,教師の体罰は絶対的に禁止されています。

 学校教育法11条は以下のとおり記載されています。

「校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,児童,生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし,体罰を加えることはできない。

 教師側からは,
「教育上必要な行為だ!」,「愛情に基づくものだ!」「ほかでもやっている!」「子どもも分かってくれている!」などという言い分が出てくることもありますが,いずれも,全く理由がありません。体罰禁止のリーディングケースとして取り上げられるのが,大阪高等裁判所昭和30年5月16日判決です。この判決では,①教育上必要がある懲戒行為であったとしても,暴行の違法性は阻却されないこと,②体罰の動機が生徒への愛情に基づくとか,それが全国的に現に広く行われている一例にすぎないということは違法性がないとする理由がないこと,③親の懲戒権を援用して教員の体罰を認めることはできないことを明らかにしています。

 体罰は,刑事上は,暴行罪(傷害罪)等に該当する可能性があり,また,民事上は損害賠償請求の対象となります。

 体罰の違法性は明らかですが,それでも,なかなか教育現場から撲滅されることはありません。例えば,2013年度の体罰による全国公立学校教員の懲戒処分者は3953人にも上っています。明るみに出ない体罰も相当数あると考えられますので,まだまだ教育現場では,体罰が蔓延しているということが明らかだと思われます。

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2 体罰とは何か

 それでは,どこまでが体罰になるでしょうか。
 行政解釈は,
「懲戒の内容が身体的性質のものである場合を意味する。」
「身体に対する侵害を内容とする懲戒-なぐる,蹴るの類-がこれに該当する。」
「被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒もまたこれに該当する。たとえば端座・直立等,特定の姿勢を長期間にわたって保持させるというような懲戒は体罰の一種と解せられなければならない」
「特定の場合が体罰に該当するかどうかは,当該児童の年齢・健康・場所・および時間的環境など,さまざまな条件を考え合わせて肉体的苦痛の有無を判定」すべきとしています
(昭和23年12月22日,法務超法務調査意見長官から国家地方警察本部長官,厚生省社会局,文部省学校教育局あての「児童懲戒権の限界について」と題する調査2発第18号回答)。
 例えば,生徒児童を殴るける等の暴行を加える行為が体罰に該当することは当然です。
 さらに,長時間直立等の姿勢を口頭の指示で強いることも体罰として禁止される可能性が高いと考えられます。また,学校体育の時間あるいはクラブ・部活動の時間において,罰として長時間ないし長距離の耐久走・うさぎ跳び等を強いるのも体罰に該当する可能性が高いと考えられます。
 今日では,放課後に児童生徒を教室に残して,トイレにも行かせずに,一切室外に出ることを許さない,別室私道のため給食の時間を含めて生徒を長く別室に留め置き,一切室外に出ることを許さないというような処分も体罰に該当すると考えられています。
 特に,現在においても,部活動等では,目先の勝利のために,ひいては,学校・教師の名誉のために,生徒に対し,生徒の将来を無視した非科学的な過酷な練習を強要することが少なくありません。程度を超えれば,これらの指導も体罰として違法なものとなるのです(実際に,体罰事件が起きる時間帯は,「授業中」などよりも,「部活動中」のほうが多いのが現実です。)。いわゆる,「ブラック部活」というものが,今でも蔓延しているのが現状です。

 

3 体罰の問題について
 体罰はなぜ禁止されているのでしょうか。教育とは,生徒と教師の信頼関係を基礎としなければ成立しないものですが,体罰はこの信頼関係を根本的に破壊するものです。より深く考えると,体罰は,児童・生徒に対して悪影響が与えることはもちろん,教師側にも深刻な悪影響を与えます。現行法上体罰が違法であることはもちろんですが,実質的に考えても,体罰が教育上不適切な行為でないことは科学的に明らかにされているのです。
(1) 児童・生徒に対する影響
 いうまでもなく,教師の暴力により,生徒・児童に対して重大な障害が発生することがあります。場合によっては,生徒・児童に重篤な後遺症が残ったり,死亡事故となったりするなど,取り返しのつかない結果が発生することもあります。。
 また,体罰が,児童・生徒に精神的な苦痛を与えることも当然です。
 さらに,体罰により,児童・生徒が,不登校,学校嫌いになったり,勉強意欲が減退したり,さらには,明朗さの喪失,教師の顔をうかがいながらの行動しかできず,主体的行動ができなくなるなどの影響が出ることもあります。
 また,間接的には,力のあるものに対する盲従,暴力肯定の傾向等などの影響もあるとされています。そのため,体罰のあるところでは,いじめが発生しやすいということが明らかにされています。
(2) 教師に対する影響
 体罰は,教師の教育能力の低下を招くものとされています。
 体罰は,子どもに恐怖を与えることによってコントロールする手段であり,短期的,表面的には矯正の効果が認められる手段です。体罰以外の教育手法は,子どもにすぐに変化をもたらすものでありませんので,体罰の短期的,表面的効果に味をしめて,他の教育的手法には目がいかなくなってしまいます。教師は,体罰にたより,児童・生徒と話をしながら,物事の是非,正不正を理解させ,適切な行動へ導くことをする努力をしなくなるのです。


4 体罰に対する解決方法

 体罰の対する対応としては,以下のものが考えられます。いずれにせよ,子どもの状況を把握したうえで,子どもが何を望んでいるのかを確認したうえで,解決方法を選択していくことが必須となります。御依頼を受けた場合には,以下の手段のメリット,デメリットを勘案しながら,手段の選択をしていくことになります。
(1) 教師・校長らに対して説明,改善等の要求をする。
 
体罰を行った教師に対して説明,改善等の要求をして満足な対応をとってもらえない場合には,校長に対して同様の要求をすることになります。校長は,公務をつかさどり,所属職員を監督する義務を負う立場にあります(学校教育法28条)。校長は,教師が,その注意義務に違反しないよう監督するべき義務をおっていますので,個別の教師の問題だからといって,その教師と生徒・児童あるいは保護者とのやり取りに委ね,かかわらないということは許されないことです。
(2) 教育委員会(学事部)に対する改善措置・罷免の要求をする。
 
学校が対応しないということであれば,公立学校の場合には教育委員会に,私立学校の場合には,私学助成を統括する部署(東京都であれば学事部です。)に事実調査や対応を要請することになります。
(3) 事故報告書の開示請求をする。
 
体罰等があった場合,学校は,「事故報告書」を作成して,教育委員会に提出をすることになります。これについては,個人情報保護条例,情報公開条例等を利用して,開示を求めることができます。
(4) 学校設置者としての市区町村に対して改善要求をする。
(5) 民事上の損害賠償請求,刑事責任の追及をする。
(6) 弁護士会の人権擁護委員会に申立をする。

 ※体罰に関する案件についての弁護士費用は以下のとおりです。
・着手金
10万円から20万円(税別)程度
・報酬金
経済的利益等の成果に応じて,経済的利益の10%から15%(税別)程度

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