不貞行為とは何か

2015-12-01

1 性交渉がなくても不貞?

 不貞とは何でしょうか。

    肉体関係を持つこと,つまり,性交渉をすることが不貞に該当することは言うまでもありません。問題は,肉体関係がなくても(厳密にいえば,肉体関係の立証ができなくても),不貞があったという認定をされることがあるかということです。

 

 例えば,配偶者以外の異性と二人で食事に行くことは不貞でしょうか。食事に行く回数が1回ではなく,毎日行っているケースだと不貞になるでしょうか。キスをすれば不貞になるでしょうか。愛情表現たっぷりのメールのやり取りをすれば不貞になるでしょうか。手をつないで歩くことは不貞でしょうか。

 

 「不貞慰謝料請求事件に関する実務上の諸問題」(判タ1278号45頁)では,

「そもそも,「不貞」が不法行為とされるのは,婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからである。・・・とすれば・・・「不貞」を肉体関係に限定する必要はなく,類型的に婚姻共同生活の平和を侵害する蓋然性がある行為かどうかを基準とすべきである。」

と説明されています。

 この説(A説)によると,「不貞」は,肉体関係に限定されず,婚姻生活の平和を侵害するような行為かどうかという基準により判断されることになります。

 ただし,「不貞」は肉体関係がある場合だけ!という説(B説)によっても,「不貞」ではないけど不法行為になる!ということになるという類型を認めることになると思います。

 要するに以下のような整理が可能だと思います。

 A説 不貞=肉体関係+α

 B説 不貞=肉体関係  α=不貞以外の不法行為

 

結局,問題は,αに当たる部分は,どのようなものになるかという点に集約されるといっていいのではないでしょうか。

 2 愛情たっぷりのメールをしたら不貞(不法行為)になるか?

 「逢いたい」,「大好きだよ」といった愛情表現を含む内容のメールをすることは,不法行為に該当するでしょうか。もちろん,メールの内容から,肉体関係の存在が立証できれば,「不貞」に該当することは明らかです。問題は肉体関係の立証まではできない場合です。

 裁判例には,肯定した事例と否定した事例があります。

 否定例である,東京地方裁判所平成25年3月15日判決は以下のとおり判示しています。

たしかに,性交又は性交類似行為には至らないが,婚姻を破綻に至らせる蓋然性のある他の異性との交流・接触も,当該異性の配偶者の損害賠償請求権を発生させ余地がないとは言えない。しかしながら,私的なメールのやり取りは,たとえ,配偶者であっても,発受信者以外の者の目に触れることを通常想定しないものであり,配偶者との間で性的な内容を含む親密なメールのやり取りをしていたことそれ自体を理由とする相手方のプライバシーを暴くものであるというべきである。・・・メールの内容に照らしても・・・婚姻生活を破綻に導くことを殊更意図していたとはいえない。したがって・・・不法行為の成立を認めることはできない。」

 この裁判例は,下線部分で記載されているように,肉体関係がなくても「不貞」に該当する余地があることを認めています。もっとも,①メールは一般的に他人には見られるものでないこと(他人のメールを見ることは,プライバシーを暴くものであること),②メールの内容が婚姻生活を破綻に導くことを殊更意図していたものではないことを理由として,愛情表現を含む内容のメールをしたことが「不貞」に該当しないと判示しています。

 ①の理由を強調すれば,メールでどのようなやり取りをしていても,それ自体は,不法行為にはならない!という方向に傾くとは思いますが,②の理由を強調すれば,メールの内容次第では,メールのやり取りをすること自体が不貞行為に該当するという方向に傾くかと思います。

 一方,東京地方裁判所平成24年11月28日判決は,以下のとおり判示して,不法行為の成立を認めました。

このようなメールは性交渉の存在自体を直接推認するものではないものの,YがAに好意を抱いており,Xが知らないままYと会っていることを示唆するばかりか,YとAが身体的な接触を持っているような印象を与えるものであり,これをXが読んだ場合,Xらの婚姻生活の平穏を害するようなものというべきである。

 ただし,肉体関係の存在を立証できなかったためか,慰謝料金額は30万円にとどまっています。

 この裁判例は,配偶者がメールを読んだ場合に婚姻生活に与える影響を重視しています。平成25年の裁判例は,そもそも,メールは他人に見られるものではないというところから出発しており,両裁判例の違いは鮮明です。

3 面会することは不貞(不法行為)になるか?

 単に,配偶者に内緒で異性と会ったりすることは不法行為になるでしょうか。

 東京地方裁判所平成21年7月16日判決は,以下の事案で,不法行為の成立を否定しました。

①Y(アルバイトのホステス)は,Aに配偶者がいることを知りつつ,同伴出勤やアフターを頻繁に行った。
②勤務時間外にしばしば二人で会った。
③すなわち,おおよそ5か月間,週に3回から4回は昼間に会って昼食をともにし,週に3回は夕食をともにしていたほか,映画を一緒に鑑賞し,喫茶をするなどした。

 上記裁判例は,以上の行為についても,「婚姻関係を破綻に至らせる蓋然背のある交流,接触であると認め難」いと判示しています。ただ,この裁判例は,相手方がホステスであったことが結論に影響している可能性はあるように思います。

 一方,東京地方裁判所平成25年4月19日は,かつて不貞関係にあった異性と深夜に面会していたということが,不法行為に該当すると判示しており,面会行為自体が不貞行為になることを認めています。

 面会すること自体が不法行為になるような事案はあるものの,

ア 相手方と以前交際していた

イ 面会の頻度が極端に多い

 というような事例に限定されると思われます。

 

★不貞・不倫の慰謝料については下記もご参照ください。
 不貞・不倫の慰謝料について

Copyright(c) 2014 品川総合法律事務所 All Rights Reserved.
【対応エリア】東京・神奈川・埼玉・千葉