婚姻費用・養育費の金額と私立学校の学費

2015-05-21

1 私立学校に通学している場合上乗せした婚姻費用,養育費を請求できるか

 婚姻費用,養育費(以下では,婚姻費用と養育費をあわせて,「養育費等」といいます。)の金額を決める際に,子どもが私立学校に通学している場合の学費の処理が問題になることがあります。

 現在,養育費等は,いわゆる算定表に基づき機械的に計算されることが多いのですが,この算定表には,公立学校の教育費は考慮されているものの,私立学校その他の教育費は考慮されていません。

 そこで,義務者が私立学校への進学を承諾している場合やその収入及び資産の状況からみて義務者にこれを負担させることが相当であると考えられる場合には,養育費等の算定にあたり,私立学校の学費等を考慮する必要があるとされています。

2 私立学校の学費はどの程度考慮されるか

 養育費等の算定表においても,公立学校の学費は考慮されています。

 具体的には,公立高校の学費としては,33万3844円,公立中学校の学費としては,13万4127円が考慮されています。そこで,私立学校の学費等を考慮するにあたっては,これらの金額を上回る金額について,権利者と義務者でどのように負担をするのか問題となります。

 具体的な加算金額については,権利者あるいは義務者の基礎収入で按分する方法(A説),あるいは権利者と義務者間で半分ずつ負担する方法(B説)等が考えられます。

 例えば,義務者の基礎収入1000万円(給与),権利者の基礎収入200万円(給与),一人息子(15歳)の私立高校の学費年間60万円という事案があったとします。

 この場合,算定表に基づく養育費の金額は,1か月10万円から12万円程度となります。一方,私立学校の学費の加算金額は,A説によると,(60万円-33万3844円)×(1000万円/12000万円)÷12=1万8483(円)となり,B説によると,(60万円-33万3844円)×(1/2)÷12=1万1089(円)となります(12で割っているのは,1か月の金額に換算するためです。)。つまり,A説によると標準算定額10万円から12万円に1万8483円が加算されることになり,B説によれば1万1089円が加算されることになります。

 実務上は,A説で計算することが多いように思いますが,状況によってはB説を採用する場合もあるようです。個人的には,理屈上は,B説のほうが正しいように思います。算定表の養育費等が支払われることで,基礎収入の差異は問題とならなくなるようにも思いますので,基礎収入で按分するということの合理性はあまりないのではないかと思います。ただ,実務上,A説が採用されることが多いのは,そもそも,算定表で考慮されている公立高校の学費,公立中学校の学費が低額であるという考慮が働いているのかもしれません(現在,算定表の計算を見直そうという動きもあり,新算定表が定着した暁には,私立学校の分担に関する算定方法も変化するかもしれません。)。

 もっとも,私立学校の学費等が高額すぎて,義務者の負担が過大となり,生活が成り立たなくなるような場合もあります(大学の医学部の学費などは,金額が相当高額になるケースもあります。)。そのような場合の負担割合については,柔軟に調整するようなこともあります。

 さらに,子どもが大学生等になった場合,子どもがアルバイト等による収入を得るようなケースもありますし,また,奨学金等で借入をすることができるようなケースもあります。単純にA説,B説では割り切れないようなケースも少なくありません。また,塾の学費等,私立学校以外の教育費用に関する分担が問題になることもあります。次回は,そのような場合にどのような計算をするか見ていきたいと思います。

 

 

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