Archive for the ‘少年事件のコラム’ Category

たばこ1箱を万引きして少年院送致の決定が下された事例

2018-11-18

少年事件における処遇は,①非行事実の軽重と②要保護性(ざっくりいうと,少年が将来非行に及ぶ危険性がどの程度あるかというものです。)から決められます。要するに,やってしまったことが重大で将来にわたっても非行に及ぶ可能性が高いということであれば,少年院送致等の重い処分になる可能性が高くなるということになります。

多くの場合には,非行事実が重大であると,将来非行に及ぶ危険性が高いという相関関係がありますが,そのような相関関係がない場合もあります。

東京家庭裁判所平成29年7月14日の審判の事案は,非行事実自体は軽微だったものの,再非行の可能性が極めて高く,そのため,少年院送致という重い決定が下された事案です。

具体的には,少年は,たばこ1箱(440円相当)を盗んだだけなのに,少年院送致の決定が下されています。

裁判所は,以下の事情等から再非行の可能性が高いと判断しています。

① 同じような窃盗の事案でこれまで3回裁判所に送致されている(ただ,いずれも審判不開始になっているようです。)。

② 母親も一緒に被害店舗に行って,万引きをして逮捕されているなど,少年を適切に指導監督することができるものは見当たらない。

③ 少年には知的能力に制約があり,活気や気力にと乏しく,深刻な無力感といった根深い資質上の問題がある。

④ 睡眠薬に依存した低調な生活を続けている。

この事案は,非行の結果が軽微なのにもかかわらず,少年院送致という重い処分が下されたもので非常に参考になります。本件では,少年の母方祖母が,少年の引き受けに意欲を示して自宅に少年の居住スペースまで確保していたという事情があるようですが,健康状態が悪化していたようで,相当期間にわたって少年を引き取り,有効適切に指導監督することまでは期待できないと判断されています。もしかしたら,少年の祖母の健康状態の悪化という事情がなければ,試験観察等で様子をみるという可能性もあったのではないかと思われます。

特殊詐欺(オレオレ詐欺,振込み詐欺)事件(少年事件)

2018-06-12

特殊詐欺とは

特殊詐欺とは,被害者に電話を掛けるなどして対面することなく信頼させて,指定した預貯金口座へ振り込ませて、不特定多数の者から現金をだまし取る犯罪をいいます。オレオレ詐欺・振り込め詐欺や架空金請求詐欺,還付金詐欺など,いろいろなものが含まれます。

 

特殊詐欺の処分内容

成人事件の場合,詐欺罪は「10年以下の懲役に処する」ものとされています。

一方,少年事件の場合,少年院送致にするか,保護観察にするか,判断に悩む事案が非常に多いと思います。保護観察となった場合,
再非行をすることなく,普通に日常生活をおくる少年は多く,保護観察と少年院送致の間には「天地の差」があるように思います。
当事務所では,少年院送致を避けるために尽力をします

※少年院送致になるか保護観察になるかの基準については,以下のサイトをご参照ください。
オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致を回避する!) | 品川総合法律事務所(離婚・遺産相続・不倫・少年事件等に対応) (shinagawa-law.com)

特殊詐欺の弁護人・付添人の活動

特殊詐欺事件では,少年院送致にするか,保護観察にするか判断が微妙な事案が多くなっています。

当事務所ではできる限り少年院送致を避けるため,以下の活動を行います。

①逮捕された直後から,捜査機関による取調べについての対応・助言(特に,詐欺に関する認識の濃淡について正確に説明できるようにする必要があります。)
②被害者との示談・被害弁償の交渉
➂社会復帰できるための環境整備
④本人の内省を深めるための活動
⑤身柄釈放のための活動
⑥家庭裁判所調査官との協議
⑦家庭裁判所調査官の調査に対する対応・助言
⑧家庭裁判所に報告書の提出等
⑨審判の出頭,少年院送致を回避することが適切であるという趣旨の意見書の提出
⑩その他,本人の更生,少年院回避のために必要な活動

 

弁護士費用

着手金 15万円から30万円(消費税別)

報酬金 15万円から30万円(消費税別)

実費  交通費等

戻し収容申請について

2017-11-26

少年院に収容された少年は,処遇段階が最高段階に達した場合,少年は仮退院で出院することがあります。

仮退院した少年は,保護観察となります(更生保護法47条2号)。仮退院による保護観察期間中,少年は一般遵守事項・特別遵守事項を守って,生活をしていく必要があります。少年が,遵守事項を遵守しなかった場合には,保護観察所長は,家庭裁判所に少年を少年院に戻して収容する旨の申請をすることができます(更生保護法71条)。これを「戻し収容申請」といいます。家庭裁判所は,保護観察所長の申請を受けて,戻し収容をするかどうかを判断することになります(更生保護法72条)。家庭裁判所による手続は,基本的には少年の保護処分の手続きと同じため(更生保護法72条5項),「準少年保護事件」といわれています。

戻し収容の要件は,①保護観察所長が遵守事項を遵守しなかったと認めるとき(更生保護法71条),②家庭裁判所において「相当と認めるとき」です。問題は,「相当と認めるとき」に該当するのがどのような場合かという点です(なお,23歳以上の仮退院者については,医療に関する専門的知識及び技術を踏まえて矯正教育を継続して行ううことが特に必要である場合等に限られます。)。一般論としては,遵守事項違反事実の内容に加えて,保護観察所の指導内容とそれに対する態度,少年の資質,非行歴,保護者の保護能力,少年院収容前の状況との対比等の事情を勘案して,再非行のおそれがあるかどうかが重要であるとされています。

実際,戻し収容申請事件の多くは,少年が,仮退院後に保護観察所の指導に従わずに,逸脱行動を繰り返すなど,遵守事項を遵守しないようなケースが多いようです。統計上は,戻し収容申請事件の新受件数は,1年間で十数件程度,実際に戻し収容となるのは,申請されたもののうち6割から7割程度のようです。

少年事件の抗告審の3つの特徴

2017-11-21

 家庭裁判所の審判決定に対しては,高等裁判所に抗告をすることができます。

 少年事件の抗告審の特徴としては,以下の3点があげられます。いずれも,少年側にとっては,厳しい特徴です。

① 家庭裁判所の決定が下された日の翌日から2週間以内に抗告の理由を具体的かつ詳細に記載した抗告申立書を提出しなければいけないこと(少年法32条,少年審判規則43条2項)。

→成年の刑事事件ですと,2週間以内に原判決に異議があるという簡単な書面を提出すれば足りますが,少年事件の場合には,2週間以内に具体的な抗告理由を記載した書面を提出する必要があります。

② 抗告審では書面審理が中心となり,期日がひらかれることはほぼないこと

→問い合わせをしなければ,抗告審の審判が出る日にちすらも教えてくれないことが多いです。追加の書面等を提出したり,裁判官と面談をしたりすることはあります。

③ 抗告申立をしても,少年院に送致されて少年院での処遇が開始されること(少年法34条)

→少年事件の抗告は,成年の刑事事件と異なり,執行停止の効力がないので,家庭裁判所で少年院送致の決定が下されてから数日以内に少年院に送致されてしまいます。 

 

抗告されるのは,少年院送致の決定が下された場合が圧倒的に多いのですが,抗告された事件のうち,毎年わずかに数%程度の事件で家庭裁判所の決定が取り消されています。割合的には,抗告により覆される事案は非常に少ないことは事実です。(続)

 

地方更生保護委員会における少年院からの仮退院の審理

2016-12-12

 地方更生保護委員会は,少年院からの仮退院や退院の許可について,審理して決定する機関です。

 地方更生保護委員会は,少年院に収容されているものが,

①処遇の最高段階に達し,かつ仮に退院させることが改善更生のために相当であると認めるとき

②処遇の最高段階に達していない場合において,その努力により成績が向上し,保護観察に付することが改善更生のために特に必要であると認めるとき

に仮退院をゆるすものとされています(更生保護法41条)。

 地方更生保護委員会は,少年院の長からの申出を受けて,仮退院の可否の審理を行うことになっています。

 少年院からの仮退院の審理は,対象者の性格・心身の状況,非行の内容・経緯・動機,被害結果についての対象者の認識,非行を悔いる気持ち,及び非行に至った事故の問題性についての認識,引受人の状況,出院後に予定されている生活環境等を総合的に考慮して決定するとされています。

 一般論として,少年院から出院する場合,ほぼ全員が仮退院によって少年院を出院されているようです。成人の仮釈放率は,5割から6割程度ですので,運用状況に明らかな差異があります。

 [事例紹介]少年を少年院送致した決定を不当であるとして取消した決定

2016-10-01

 少年審判では少年院に行くのか,行かないのかが一番大きな関心事になるかと思います。

 先日,大阪高等裁判所で,少年を第1種少年院に送致した決定について,試験観察にするなどして,在宅での処遇による改善更生の可能性のないことを十分に検討することのないまま,収容処遇を選択した原決定の処分は著しく不当であるとして,これを取り消して事件を現裁判所に差し戻した決定が出ました(大阪高等裁判所平成27年10月8日決定)。

 当該決定は,少年の要保護性の判断過程,判断要素等を考えるうえで大変参考になりますので,備忘録もかねて本事案について簡単にまとめておきます(なお,試験観察については,当事務所の少年事件の基本ページ「少年事件に強い弁護士」のQ&Aで説明しています。)。

 当該審判例の事案の内容は以下のとおりです。

① 少年は大学生。
② 少年は,第1の被害者に対して,路上において,制服内に手を差し入れて,胸を撫でまわした。
③ ②の約1か月後,少年は,第2の被害者に対して,マンション敷地内まで追尾して,胸を触ろうと手を伸ばそうとしたところ,被害者に手をつかまれるなどの抵抗を受けたため,逃亡した(①と②が送致事実。以下,「本件わいせつ行為」といいます。)。
④ 本件わいせつ行為の約5年前に,少年は,わいせつ行為に及び,児童相談所の指導を受けたことがある。また,少年は,本件わいせつ行為に近時した時期にわいせつ行為を行っていたと認めている。

 このような事案について,原審は,以下の点を理由として,少年について少年院送致の決定を下しました。

・②の犯行態様は大胆,③の犯行態様は執拗であり,いずれの犯行も卑劣な犯行。
・少年には,性非行への罪障感の薄さ,共感性の乏しさといった問題性がうかがえる。
・②③の他にも,④のわいせつ行為を行っていた。
・少年は,周囲からの働きかけに対して,表面上は従う意思を示しながら,受け流すことも少なくないなど,根深い資質上性格上の問題がある。
・父母は,少年が,過去に類似の行為をしたことを認識しながら,十分に指導監督ができていない。

 一方,本決定では,「少年に対しては,試験観察に付するなどして,社会内処遇による改善更生の可能性を見極める必要があり,この点を十分に検討することのないまま,直ちに,少年を第1種少年院に送致することとした原決定の処分は重きに失し,著しく不当といわざるをえない。」と判示しました。

 理由は以下の点を挙げています。

・本件わいせつ行為は大胆かつ執拗であるものの,わいせつ行為の内容としては,胸を触る以上のものをしようとした意図をうかがうことができない。
・逮捕,勾留,観護措置による身柄拘束,家庭裁判所調査官,少年鑑別所技官の面接を受けるなどて,罪障感を涵養しつつある。
・児童相談所の指導を受けたことがあるものの(④),約5年前のことであり,その後,社会内で問題なく生活をしており,その間,中学校や高校も真面目に通学して,高校からは温厚な人と見られていて,友人も多かったのであるから,本件犯行との関係は慎重に評価する必要がある。
少年が本件わいせつ行為に及んだのは,高校卒業を控えた時期から大学入学までの時期であるが,進学による生活環境の変化や交友関係の変動による影響が少なくなかったとみる余地がある。
・少年が約5年にわたり,社会内で問題なく生活をしており,本件まで家裁送致歴がなく,不良交友,生活態度の乱れもなく,家庭環境を中心とする保護環境からの離脱もなかったし,大学への通学を継続する意思を示しており,知的能力も高いことから施設内処遇を必要とするほど,資質上の問題点,ないし性非行を繰り返す危険性があると断定するには多分に疑問が残る。
・少年の父母の監護能力は十分ではないものの,少年は,それなりに安定した監護環境のもとで5年わたり社会内で問題なく生活をしていた。また,少年の父母は,今後,家庭内の環境を整えたうえで,少年と会話をするようにしたいと述べるなど監護意欲を高めつつあり,父母の監護能力に期待しがたいとまではいえない。

 以上のように,本決定では,犯行態様,過去のわいせつ行為,両親の監護能力,少年の資質等の評価について,原審とは異なる説明をしており,付添人の立場からも,本決定の視点は大変参考になるものです。

 ちなみに,上記下線部の判示は,多くの少年事件を扱ってきた立場からも納得できるものがあります。進学直後は,表面上は大きな問題が出ていない場合であっても,実は,少年の心の中の微妙なバランスが崩れていて,それが非行につながっているというケースがよくあります。

 

発達障害と少年事件

2016-10-01

 1 少年事件で発達障害を知る意味

 少年事件を多く扱っていると発達障害をかかえた少年と接することが多くあります。

 発達障害が直接非行に結びつくことはありません。ただし,例えば,発達障害を持った少年が,いじめ等の負の体験をすることにより,非行化傾向を深めていくということはあります。発達障害に合併する障害,あるいは二次的障害が,少年非行の可能性を高めることがあるのです。

 少年事件では,担当弁護士は,少年による再非行の可能性を少なくするためにはどうしたらよいのかを考えます。そこで,少年が発達障害をかかえている場合,弁護士は,発達障害が非行の発生に影響したのか,影響したのであればどういうメカニズムで影響したのかを検討する必要があります。その前提として,発達障害に関する知見を深めることは,少年事件を扱う実務法曹として絶対に必要なことです。

 ただ,発達障害というのは,実は非常に分かりにくい概念です。発達障害は,その名が幅広く知れ渡るようになった昨今でも,内容を正確に理解している人は少ないと思います。実際,発達障害という言葉自体は誰もが知っていますが,発達障害の正確な意味を知っている人はどれだけいるでしょうか?発達障害が分かりにくいのは,発達障害の定義があいまいで,非常に多種多様なものを含んだ概念となっていることが大きな原因だと思います。

 そのような事情もあり,昨今,発達障害という言葉だけが独り歩きしてしまっている印象があります。少年事件との関係でいえば,「非行の背景には発達障害がある」と聞いただけで,非行の原因が分かった気になってしまいがちです。例えば,重大な事件の加害少年が,発達障害だった!と報道されることがあります。ただ,そのような説明にどれほどの意味があるのでしょうか。既に説明したとおり,発達障害が直接非行に結びつくことはありません。そのため,このような報道がされただけでは,何も説明したことにならず,結局,発達障害と事件の関連性は分からないままです。さらにより問題なのは,それを聞いた多くの人は,非行の原因を分かった気になってしまっているということです。少年の発達障害がどのようなものか,どのようなメカニズムを経て非行に結びついたのか,そういった点を考えていかなければ意味はないのです。

 以下では,まずは,発達障害の意味を検討したうえで,発達障害をかかえた少年の矯正という観点から発達障害について考察していきたいと思います。

2 発達障害は脳機能の障害?

 そもそも,発達障害とは何でしょうか。実は,発達障害を定義すること自体非常に難しいことです。

 よく,発達障害が,「脳機能の障害」であるといわれることがあります。発達障害が「脳機能の障害」であることは,発達障害に関する本の中ではよく説明されています。「脳機能の障害」発達障害が「脳機能の障害」と捉えることは重要な意味があります。これにより,本人の努力不足,親のしつけが悪いというような,いわれのない非難に歯止めをかけることができるようになったからです。

 ただし,発達障害が全て「脳機能の障害」であるとしても,「脳機能の障害」が全て発達障害というわけではありません。実際,「脳機能の障害」が発生する疾病には,脳性麻痺,てんかんなどもありますが,これらは,発達障害と捉えられているわけではありません。

 では,「脳機能の障害」という点を精緻化することで発達障害を定義することはできるでしょうか。例えば,脳のどこの部分がどのように障害されるかという点を明らかにして,発達障害を定義づけることはできないでしょうか。
 しかし,結論から言えば,このような定義付は不可能です。そもそも,
発達障害が,脳のどこにどのような障害に起因するものなのか医学的に証明されているわけではありません。近代医学であれば,病気は,部位と病因と病理に基づいてカテゴライズされるのが一般です。しかしながら,発達障害は,脳のどこの部位が何によってどのように障害されているのかを証明することはできないのです(これは,精神医学一般にあてはまることだと思いすす。)。発達障害=脳の○○部分が○○の状態になっているという定義づけができないのです。

 結局,発達障害とは,あくまで患者の行動の在り方によって,病気をカテゴライズしているのであって,脳の状態を検査して,病気をカテゴライズしているわけではないし,それをすることもできません。

 「脳機能の障害」という点を突き詰めていっても,発達障害を正確に理解できるわけではないようです。

3 分かりやすい発達障害の定義

 「発達障害と少年非行」(「家庭と法の裁判」8号8頁以下)は,発達障害の特徴を抽出して,そこから発達障害の定義づけを試みています。

 まず,発達障害の特徴として挙げられているのは,以下のものです。

・乳幼児期に症状が発現する。

・生まれつきのものである。

・遺伝子が発症に関与している。

・脳の基本的機能に障害はないが高次機能に障害がある。

・集団生活,社会生活あるいは教育の場面においてさまざまな困難がでてくる。

・女児より男児より多い。

・行動や精神機能の二次障害が多い。

・小児期の精神障害の中でもっとも発生率が高い。

 以上を前提として,上記論考は,発達障害について,「複数の遺伝子が関与して引き起こされる,生得的な実行機能などの脳の高次機能の障害であって,低年齢に発現し,集団生活,社会生活,あるいは学習における様々な技能(スキル)の困難を示すものである。理由は不明であるが,男児に多く,また,他のタイプの発達障害との併存や行動や精神機能の二次障害をきたすことが多い。小児期で最も発生頻度の高い脳機能障害である。」と定義しています。

 このような定義は,発達障害の特徴をもれなく網羅しているだけに正確ではありますが,それだけに非常に分かりにくくなっていることは否めないところだと思います。

 とりあえず,「発達障害とは,子どもの発達途上において,何らかの理由により,発達の特定の領域に,社会的な適応上の問題を引き起こす凹凸を生じたもの」という程度を理解していればよいのではないかと思います(「発達障害のパラダイム転換」そだちの科学8号5頁以下を参照)(続)。

 

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
 少年事件に強い弁護士

触法少年事件と一時保護

2016-08-06

 以前,触法事件の難しさについて簡単に説明しました。

触法事件が難しいのは,児童相談所の所長が事実上極めて大きな権限を持っていて,付添人がそのような権限を制御していく手段が乏しいからです(そもそも,付添人が,警察官の調査に関する活動を超えて,児童相談所の処遇決定に関して活動することができるかという点すらも問題とされています。)。

例えば,身柄を拘束されている触法少年の事件について,早期の身柄解放を目指して活動をすることがあります。ただ,犯罪少年等の場合にはない難しさがあり,どのように対応すべきかいつも苦悶しています。

触法少年を逮捕,勾留することはできません。もっとも,児童相談所の判断により一時保護をすることができます。一時保護は,児童相談所所長が必要であると認めるときに,少年を一時保護所に入所等をさせる行政処分です。一時保護の期間は,2ヶ月を超えてはいけないとされていますが,必要があると認めるときは延長も可能です(児童福祉法33条3項)。

問題は,「一時保護」が認められる要件が,法律上も運用上もあまり明確になっていないことです。児童相談所所長は,「必要がある」と認めるときは,一時保護をすることができるとだけ規定されています。また,手続的にも,児童相談所所長が「必要がある」と認められば一時保護の措置がとられ,裁判所等が事前に上記要件の有無を審査することもありません。さらに,一事保護がされた後に,一時保護が違法であると争う場合,行政不服審査法に基づく審査請求という手段が用意されていますが,当該審査請求に必要となる時間等を考えると,実効性のある手段とはいえません。

犯罪少年を身柄拘束する手段としては,成人の刑事事件と同じく,逮捕,勾留があります。逮捕,勾留は,罪証隠滅,逃亡のおそれがあることが要件とされており,要件自体は明確です。また,手続的にも,事前に裁判所の令状を得ておく必要がありますし,事後的にも,(勾留については)準抗告という手段で争うことができます。準抗告をすれば,1日,2日で結果がでます。

私自身,犯罪少年の事件であれば,勾留されず1日で釈放されることが強く予測されるにもかかわらず,触法少年であるばかりに比較的長期間の身柄拘束をされてしまうという事案に当たったこともあります。

もともと,「一時保護」は,虐待等から子どもを保護するための制度ですので,制度論の観点からすると,触法少年について「一時保護」の制度を利用して身柄拘束できるようにするのは望ましいとは思いませんが,現状では,「一時保護」という制度の枠組みの中で最善の方策を考えていくしかありません。

私としては,児童相談所の考えていること,懸念していること,対応してほしいと思っているところを推察して,改善策を保護者と考えて,児童相談所と交渉にあたることをしています。児童相談所としても,基本的には,何の理由もなく,一時保護をするようなことはないと思われますので,必要以上に敵対的にならず,児童相談所とある意味協力関係,信頼関係を気付いていけるかがポイントになるかと思っています。

なお,一時保護は一時保護所を利用することが原則ですが,警察署が一時保護の委託先になることもあります。ただ,そのような一時保護を行うことができるのは,児童相談所が児童を直ちに引き取ることが不可能であるような場合に限定され,さらに,やむを得ない事情がない限り,期間は24時間を超えてはならないとされています。

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
少年事件に強い弁護士

少年事件と移送について

2016-07-08

 少年事件の管轄(「管轄」とは,裁判所の事件を取扱う権限の分配のことですが,ここでは,家庭裁判所の地域的な権限分配を問題としています。要するに,どこにある家庭裁判所で審判をするかという問題です。)は,「少年の行為地,住所,居所又は現在地による」とされています(少年法5条1項)。この点は,成人の刑事事件と異なるところはありません(成人の事件では,刑事訴訟法2条1項で定められています。)。

しかし,実際には,少年事件と成人の刑事事件では,裁判所の管轄に関して大きく異なる処理がされることがあります。

例えば,
・少年A君は23区内の高校に通学して,同区内で両親とともに生活をしている。
・少年A君は山梨県甲府市に遊びに行き,甲府駅近くで傷害事件を起こして,甲府警察署警察官に現行犯逮捕された。
現在,A君は同警察署に留置されている。
という事案があったとします。

仮に,A君が,成人しているのであれば,甲府警察署から甲府検察庁におくられ,その後,甲府地方裁判所に起訴されて,同裁判所で裁判を行うことになることがほとんどだと思います。

一方,A君が少年であった場合,事件が甲府検察庁を経て,甲府家庭裁判所に送致されるまでは同様です。ただ,その後,すぐに,甲府家庭裁判所から東京家庭裁判所に移送されることになる可能性が高いです。

このような事案の場合,甲府家庭裁判所で調査・少年審判を行うことは,裁判所にとっても,少年の保護者にとっても,負担が重く,適当とはいえません。成人の刑事事件では,「調査」という手続が存在しないので,少年事件とは異なる処理がされるのです。

そこで,本件事件は,甲府家庭裁判所に送致されたのち,「保護の適正を期するため特に必要がある」(少年法5条2項)と判断されて,東京家庭裁判所に移送される可能性が高いのです。移送されても,観護措置の期間に変更はないので,移送の決定は速やかに出されるのが通常です。

結局,A君は,(観護措置が取られる場合)東京少年鑑別所に収容されるということになり,少年の両親は東京家庭裁判所の調査官から調査を受けることになり,少年審判は東京家庭裁判所でひらかれることになります。

当事務所でも,一定の距離がある裁判所への移送が見込まれる事件に出くわすことがあります。少年事件の場合,家庭裁判所の送致後も,少年鑑別所に少年に面会をする,社会記録の閲覧,調査官,審判官との面談,審判期日の出頭等,管轄裁判所や少年鑑別所に行かなければいけない場面が出てきますので,当事務所だけでは事件処理が困難になるおそれが全くないわけではありません。その場合には,住所地の弁護士とチームを組んで担当をさせていただくこともあります。特に,事案によっては,事件発生地で被害者と示談交渉をする弁護士と住所地で審判準備をするなどと,役割分担を図ることがあります(詳細は,当事務所の少年事件の基本ぺージ(少年事件に強い弁護士)を確認のうえ,お問い合わせください。)。いずれにせよ,移送がされることを想定される場合には,移動決定後の付添人活動を見据えて,弁護人を選任する必要があることは間違いありません。また,家庭裁判所送致前と送致後で,なんの前触れもなく,担当の弁護士が変わってしまうのは,少年を困惑させるだけだと思いますので,ある程度,早い段階でどのような処理をするのか決めておく必要があることは間違いありません(私自身の経験上,前の弁護士が全く説明をしておらず,少年が,状況を全く理解してておらず,「前の弁護士さんどうしちゃったの?」ということを聞かれたことがあります。)。

なお,上記の例で,例えば,少年A君の自宅や学校が富士吉田市にある場合,事件が,甲府家庭裁判所から甲府家庭裁判所富士吉田支部に移される可能性が高いと思われます。このように,本庁と支部の間,または支部相互間で事件を移す場合は,移送ではなく「回付」といいます。
     

観護措置の取消と少年事件

2016-06-01

1 観護措置を争う二つの方法

少年事件で「観護措置がでて,鑑別所に行くことになってしまった。早く出してあげたい。どうすればいいんでしょうか。」
という質問をよく受けます(観護措置に関する一般的な説明は,少年事件の基本ページ「少年事件に強い弁護士」のQ&Aの個所をご参照ください。)。
少年事件において観護措置決定がなされた場合,その決定を争う方法には,
①異議申立(少年法17条2項)
②観護措置取消申立(少年法17条8項,少年審判規則21条)
という二つがあります。
少年事件には,成年の刑事事件における「保釈」という制度はありません。保釈金を支払って釈放してもらうということはできません。したがって,早期に身柄を釈放するための方法は,①②の申立をして,裁判所に認めてもらうしかありません。

2 異議と観護措置取消のどちらの制度が有用か? 

①の異議申立が認められるのは,そもそも観護措置決定が,要件を満たしておらず違法な場合です(要するに,観護措置決定をした時点で,罪証隠滅のおそれも,逃亡のおそれも,資質鑑別の必要性もない場合です。)。①の申し立てに対しては,観護措置を決定した裁判官とは異なる裁判官が判断をすることになります(合議体といいまして,複数の裁判官が判断します。)。ただ,①の異議申立が認められる事案は極めて少ないのが実情です。また,細かな点ですが,①の手段を用いると,事件の記録が,当該異議申立を審理する合議体にうつり,審判を担当する裁判官のもとから離れますので,その点に伴う不利益が出てくる可能性があることも事実です。

実務上は,②の観護措置取消の申立の手段が頻繁に使われており,②の手段は,①よりも有用性が高い手段ということができると思います。観護措置は,その必要がなくなったときは,速やかに取り消さなければならないとされています(少年審判規則21条)。①は,「観護措置決定の要件がない!」と主張して,観護措置自体を争う方法ですが,②は,観護措置決定後の事情や調査の結果等も勘案して,「観護措置の必要はなくなった!」と主張して,観護措置の取消を求める方法です。

現在の裁判所の運用をみる限り,逮捕・勾留がなされている事案については,原則として,観護措置の決定が下されてしまう処理がされているように思われます。観護措置決定自体は,幅広い事案で認められてしまうのが現状です。そのような中で,観護措置取消の申立は,事案に沿ったきめ細かな事情を主張して判断を促すことができる有用な手段です。
観護措置の決定が下される前に,観護措置決定をしないように求める意見書を提出したうえで,裁判官と面接をすることがありますが,そのときに,裁判官から,「事情は分からなくもないが,事案としては観護措置をとる事案だと思う。あとは,係属部と話をしてください。」という趣旨の話をされたことがあります。裁判所のほうでも,観護措置決定自体はある程度類型的に決めていくものの,観護措置取消の判断では柔軟に検討するという姿勢をとっているように思います。

なお,受験等の重要なイベントがある場合,一時的に観護措置を取消してもらい,イベント終了後,再度,観護措置をとるという柔軟な方法がとられることもあります。

3 観護措置取消を求める付添人活動

私は,観護措置取消を求める場合,すぐに,家庭裁判所で記録を閲覧して,観護措置取消を主張するために,どのようなことを重視していけばよいか検討して戦略を立てることとしております。特に,裁判所が,観護措置の要件(①証拠隠滅のおそれ,②逃亡のおそれ,③心身鑑別の必要性)のうち,どの要件を充足するものとして,観護措置決定を下したのかを把握することが必要です。また,親の身元引受書・陳述書,学校の成績表,合格証書,試験の予定表など,可能な限り,多くの添付資料をつけることも必要です。

例えば,私は,家庭裁判所が,③の要件を重視して観護措置決定を下した事案において,

(1) 精神障害や資質状の問題をうかがわれず,そもそも,心身鑑別の必要がない,あるいは乏しい
(2) (必要性がない,あるいは乏しい)心身鑑別をするよりも,学校に通学させて,環境調整をさせたほうが,少年にとってはるかに有益である。

といった事情を詳細に主張して,観護措置決定を取消してもらった事案があります。

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