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 [事例紹介]少年を少年院送致した決定を不当であるとして取消した決定

2016-10-01

 少年審判では少年院に行くのか,行かないのかが一番大きな関心事になるかと思います。

 先日,大阪高等裁判所で,少年を第1種少年院に送致した決定について,試験観察にするなどして,在宅での処遇による改善更生の可能性のないことを十分に検討することのないまま,収容処遇を選択した原決定の処分は著しく不当であるとして,これを取り消して事件を現裁判所に差し戻した決定が出ました(大阪高等裁判所平成27年10月8日決定)。

 当該決定は,少年の要保護性の判断過程,判断要素等を考えるうえで大変参考になりますので,備忘録もかねて本事案について簡単にまとめておきます(なお,試験観察については,当事務所の少年事件の基本ページ「少年事件に強い弁護士」のQ&Aで説明しています。)。

 当該審判例の事案の内容は以下のとおりです。

① 少年は大学生。
② 少年は,第1の被害者に対して,路上において,制服内に手を差し入れて,胸を撫でまわした。
③ ②の約1か月後,少年は,第2の被害者に対して,マンション敷地内まで追尾して,胸を触ろうと手を伸ばそうとしたところ,被害者に手をつかまれるなどの抵抗を受けたため,逃亡した(①と②が送致事実。以下,「本件わいせつ行為」といいます。)。
④ 本件わいせつ行為の約5年前に,少年は,わいせつ行為に及び,児童相談所の指導を受けたことがある。また,少年は,本件わいせつ行為に近時した時期にわいせつ行為を行っていたと認めている。

 このような事案について,原審は,以下の点を理由として,少年について少年院送致の決定を下しました。

・②の犯行態様は大胆,③の犯行態様は執拗であり,いずれの犯行も卑劣な犯行。
・少年には,性非行への罪障感の薄さ,共感性の乏しさといった問題性がうかがえる。
・②③の他にも,④のわいせつ行為を行っていた。
・少年は,周囲からの働きかけに対して,表面上は従う意思を示しながら,受け流すことも少なくないなど,根深い資質上性格上の問題がある。
・父母は,少年が,過去に類似の行為をしたことを認識しながら,十分に指導監督ができていない。

 一方,本決定では,「少年に対しては,試験観察に付するなどして,社会内処遇による改善更生の可能性を見極める必要があり,この点を十分に検討することのないまま,直ちに,少年を第1種少年院に送致することとした原決定の処分は重きに失し,著しく不当といわざるをえない。」と判示しました。

 理由は以下の点を挙げています。

・本件わいせつ行為は大胆かつ執拗であるものの,わいせつ行為の内容としては,胸を触る以上のものをしようとした意図をうかがうことができない。
・逮捕,勾留,観護措置による身柄拘束,家庭裁判所調査官,少年鑑別所技官の面接を受けるなどて,罪障感を涵養しつつある。
・児童相談所の指導を受けたことがあるものの(④),約5年前のことであり,その後,社会内で問題なく生活をしており,その間,中学校や高校も真面目に通学して,高校からは温厚な人と見られていて,友人も多かったのであるから,本件犯行との関係は慎重に評価する必要がある。
少年が本件わいせつ行為に及んだのは,高校卒業を控えた時期から大学入学までの時期であるが,進学による生活環境の変化や交友関係の変動による影響が少なくなかったとみる余地がある。
・少年が約5年にわたり,社会内で問題なく生活をしており,本件まで家裁送致歴がなく,不良交友,生活態度の乱れもなく,家庭環境を中心とする保護環境からの離脱もなかったし,大学への通学を継続する意思を示しており,知的能力も高いことから施設内処遇を必要とするほど,資質上の問題点,ないし性非行を繰り返す危険性があると断定するには多分に疑問が残る。
・少年の父母の監護能力は十分ではないものの,少年は,それなりに安定した監護環境のもとで5年わたり社会内で問題なく生活をしていた。また,少年の父母は,今後,家庭内の環境を整えたうえで,少年と会話をするようにしたいと述べるなど監護意欲を高めつつあり,父母の監護能力に期待しがたいとまではいえない。

 以上のように,本決定では,犯行態様,過去のわいせつ行為,両親の監護能力,少年の資質等の評価について,原審とは異なる説明をしており,付添人の立場からも,本決定の視点は大変参考になるものです。

 ちなみに,上記下線部の判示は,多くの少年事件を扱ってきた立場からも納得できるものがあります。進学直後は,表面上は大きな問題が出ていない場合であっても,実は,少年の心の中の微妙なバランスが崩れていて,それが非行につながっているというケースがよくあります。

 

発達障害と少年事件

2016-10-01

 1 少年事件で発達障害を知る意味

 少年事件を多く扱っていると発達障害をかかえた少年と接することが多くあります。

 発達障害が直接非行に結びつくことはありません。ただし,例えば,発達障害を持った少年が,いじめ等の負の体験をすることにより,非行化傾向を深めていくということはあります。発達障害に合併する障害,あるいは二次的障害が,少年非行の可能性を高めることがあるのです。

 少年事件では,担当弁護士は,少年による再非行の可能性を少なくするためにはどうしたらよいのかを考えます。そこで,少年が発達障害をかかえている場合,弁護士は,発達障害が非行の発生に影響したのか,影響したのであればどういうメカニズムで影響したのかを検討する必要があります。その前提として,発達障害に関する知見を深めることは,少年事件を扱う実務法曹として絶対に必要なことです。

 ただ,発達障害というのは,実は非常に分かりにくい概念です。発達障害は,その名が幅広く知れ渡るようになった昨今でも,内容を正確に理解している人は少ないと思います。実際,発達障害という言葉自体は誰もが知っていますが,発達障害の正確な意味を知っている人はどれだけいるでしょうか?発達障害が分かりにくいのは,発達障害の定義があいまいで,非常に多種多様なものを含んだ概念となっていることが大きな原因だと思います。

 そのような事情もあり,昨今,発達障害という言葉だけが独り歩きしてしまっている印象があります。少年事件との関係でいえば,「非行の背景には発達障害がある」と聞いただけで,非行の原因が分かった気になってしまいがちです。例えば,重大な事件の加害少年が,発達障害だった!と報道されることがあります。ただ,そのような説明にどれほどの意味があるのでしょうか。既に説明したとおり,発達障害が直接非行に結びつくことはありません。そのため,このような報道がされただけでは,何も説明したことにならず,結局,発達障害と事件の関連性は分からないままです。さらにより問題なのは,それを聞いた多くの人は,非行の原因を分かった気になってしまっているということです。少年の発達障害がどのようなものか,どのようなメカニズムを経て非行に結びついたのか,そういった点を考えていかなければ意味はないのです。

 以下では,まずは,発達障害の意味を検討したうえで,発達障害をかかえた少年の矯正という観点から発達障害について考察していきたいと思います。

2 発達障害は脳機能の障害?

 そもそも,発達障害とは何でしょうか。実は,発達障害を定義すること自体非常に難しいことです。

 よく,発達障害が,「脳機能の障害」であるといわれることがあります。発達障害が「脳機能の障害」であることは,発達障害に関する本の中ではよく説明されています。「脳機能の障害」発達障害が「脳機能の障害」と捉えることは重要な意味があります。これにより,本人の努力不足,親のしつけが悪いというような,いわれのない非難に歯止めをかけることができるようになったからです。

 ただし,発達障害が全て「脳機能の障害」であるとしても,「脳機能の障害」が全て発達障害というわけではありません。実際,「脳機能の障害」が発生する疾病には,脳性麻痺,てんかんなどもありますが,これらは,発達障害と捉えられているわけではありません。

 では,「脳機能の障害」という点を精緻化することで発達障害を定義することはできるでしょうか。例えば,脳のどこの部分がどのように障害されるかという点を明らかにして,発達障害を定義づけることはできないでしょうか。
 しかし,結論から言えば,このような定義付は不可能です。そもそも,
発達障害が,脳のどこにどのような障害に起因するものなのか医学的に証明されているわけではありません。近代医学であれば,病気は,部位と病因と病理に基づいてカテゴライズされるのが一般です。しかしながら,発達障害は,脳のどこの部位が何によってどのように障害されているのかを証明することはできないのです(これは,精神医学一般にあてはまることだと思いすす。)。発達障害=脳の○○部分が○○の状態になっているという定義づけができないのです。

 結局,発達障害とは,あくまで患者の行動の在り方によって,病気をカテゴライズしているのであって,脳の状態を検査して,病気をカテゴライズしているわけではないし,それをすることもできません。

 「脳機能の障害」という点を突き詰めていっても,発達障害を正確に理解できるわけではないようです。

3 分かりやすい発達障害の定義

 「発達障害と少年非行」(「家庭と法の裁判」8号8頁以下)は,発達障害の特徴を抽出して,そこから発達障害の定義づけを試みています。

 まず,発達障害の特徴として挙げられているのは,以下のものです。

・乳幼児期に症状が発現する。

・生まれつきのものである。

・遺伝子が発症に関与している。

・脳の基本的機能に障害はないが高次機能に障害がある。

・集団生活,社会生活あるいは教育の場面においてさまざまな困難がでてくる。

・女児より男児より多い。

・行動や精神機能の二次障害が多い。

・小児期の精神障害の中でもっとも発生率が高い。

 以上を前提として,上記論考は,発達障害について,「複数の遺伝子が関与して引き起こされる,生得的な実行機能などの脳の高次機能の障害であって,低年齢に発現し,集団生活,社会生活,あるいは学習における様々な技能(スキル)の困難を示すものである。理由は不明であるが,男児に多く,また,他のタイプの発達障害との併存や行動や精神機能の二次障害をきたすことが多い。小児期で最も発生頻度の高い脳機能障害である。」と定義しています。

 このような定義は,発達障害の特徴をもれなく網羅しているだけに正確ではありますが,それだけに非常に分かりにくくなっていることは否めないところだと思います。

 とりあえず,「発達障害とは,子どもの発達途上において,何らかの理由により,発達の特定の領域に,社会的な適応上の問題を引き起こす凹凸を生じたもの」という程度を理解していればよいのではないかと思います(「発達障害のパラダイム転換」そだちの科学8号5頁以下を参照)(続)。

 

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
 少年事件に強い弁護士

触法少年事件と一時保護

2016-08-06

 以前,触法事件の難しさについて簡単に説明しました。

触法事件が難しいのは,児童相談所の所長が事実上極めて大きな権限を持っていて,付添人がそのような権限を制御していく手段が乏しいからです(そもそも,付添人が,警察官の調査に関する活動を超えて,児童相談所の処遇決定に関して活動することができるかという点すらも問題とされています。)。

例えば,身柄を拘束されている触法少年の事件について,早期の身柄解放を目指して活動をすることがあります。ただ,犯罪少年等の場合にはない難しさがあり,どのように対応すべきかいつも苦悶しています。

触法少年を逮捕,勾留することはできません。もっとも,児童相談所の判断により一時保護をすることができます。一時保護は,児童相談所所長が必要であると認めるときに,少年を一時保護所に入所等をさせる行政処分です。一時保護の期間は,2ヶ月を超えてはいけないとされていますが,必要があると認めるときは延長も可能です(児童福祉法33条3項)。

問題は,「一時保護」が認められる要件が,法律上も運用上もあまり明確になっていないことです。児童相談所所長は,「必要がある」と認めるときは,一時保護をすることができるとだけ規定されています。また,手続的にも,児童相談所所長が「必要がある」と認められば一時保護の措置がとられ,裁判所等が事前に上記要件の有無を審査することもありません。さらに,一事保護がされた後に,一時保護が違法であると争う場合,行政不服審査法に基づく審査請求という手段が用意されていますが,当該審査請求に必要となる時間等を考えると,実効性のある手段とはいえません。

犯罪少年を身柄拘束する手段としては,成人の刑事事件と同じく,逮捕,勾留があります。逮捕,勾留は,罪証隠滅,逃亡のおそれがあることが要件とされており,要件自体は明確です。また,手続的にも,事前に裁判所の令状を得ておく必要がありますし,事後的にも,(勾留については)準抗告という手段で争うことができます。準抗告をすれば,1日,2日で結果がでます。

私自身,犯罪少年の事件であれば,勾留されず1日で釈放されることが強く予測されるにもかかわらず,触法少年であるばかりに比較的長期間の身柄拘束をされてしまうという事案に当たったこともあります。

もともと,「一時保護」は,虐待等から子どもを保護するための制度ですので,制度論の観点からすると,触法少年について「一時保護」の制度を利用して身柄拘束できるようにするのは望ましいとは思いませんが,現状では,「一時保護」という制度の枠組みの中で最善の方策を考えていくしかありません。

私としては,児童相談所の考えていること,懸念していること,対応してほしいと思っているところを推察して,改善策を保護者と考えて,児童相談所と交渉にあたることをしています。児童相談所としても,基本的には,何の理由もなく,一時保護をするようなことはないと思われますので,必要以上に敵対的にならず,児童相談所とある意味協力関係,信頼関係を気付いていけるかがポイントになるかと思っています。

なお,一時保護は一時保護所を利用することが原則ですが,警察署が一時保護の委託先になることもあります。ただ,そのような一時保護を行うことができるのは,児童相談所が児童を直ちに引き取ることが不可能であるような場合に限定され,さらに,やむを得ない事情がない限り,期間は24時間を超えてはならないとされています。

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
少年事件に強い弁護士

少年事件と移送について

2016-07-08

 少年事件の管轄(「管轄」とは,裁判所の事件を取扱う権限の分配のことですが,ここでは,家庭裁判所の地域的な権限分配を問題としています。要するに,どこにある家庭裁判所で審判をするかという問題です。)は,「少年の行為地,住所,居所又は現在地による」とされています(少年法5条1項)。この点は,成人の刑事事件と異なるところはありません(成人の事件では,刑事訴訟法2条1項で定められています。)。

しかし,実際には,少年事件と成人の刑事事件では,裁判所の管轄に関して大きく異なる処理がされることがあります。

例えば,
・少年A君は23区内の高校に通学して,同区内で両親とともに生活をしている。
・少年A君は山梨県甲府市に遊びに行き,甲府駅近くで傷害事件を起こして,甲府警察署警察官に現行犯逮捕された。
現在,A君は同警察署に留置されている。
という事案があったとします。

仮に,A君が,成人しているのであれば,甲府警察署から甲府検察庁におくられ,その後,甲府地方裁判所に起訴されて,同裁判所で裁判を行うことになることがほとんどだと思います。

一方,A君が少年であった場合,事件が甲府検察庁を経て,甲府家庭裁判所に送致されるまでは同様です。ただ,その後,すぐに,甲府家庭裁判所から東京家庭裁判所に移送されることになる可能性が高いです。

このような事案の場合,甲府家庭裁判所で調査・少年審判を行うことは,裁判所にとっても,少年の保護者にとっても,負担が重く,適当とはいえません。成人の刑事事件では,「調査」という手続が存在しないので,少年事件とは異なる処理がされるのです。

そこで,本件事件は,甲府家庭裁判所に送致されたのち,「保護の適正を期するため特に必要がある」(少年法5条2項)と判断されて,東京家庭裁判所に移送される可能性が高いのです。移送されても,観護措置の期間に変更はないので,移送の決定は速やかに出されるのが通常です。

結局,A君は,(観護措置が取られる場合)東京少年鑑別所に収容されるということになり,少年の両親は東京家庭裁判所の調査官から調査を受けることになり,少年審判は東京家庭裁判所でひらかれることになります。

当事務所でも,一定の距離がある裁判所への移送が見込まれる事件に出くわすことがあります。少年事件の場合,家庭裁判所の送致後も,少年鑑別所に少年に面会をする,社会記録の閲覧,調査官,審判官との面談,審判期日の出頭等,管轄裁判所や少年鑑別所に行かなければいけない場面が出てきますので,当事務所だけでは事件処理が困難になるおそれが全くないわけではありません。その場合には,住所地の弁護士とチームを組んで担当をさせていただくこともあります。特に,事案によっては,事件発生地で被害者と示談交渉をする弁護士と住所地で審判準備をするなどと,役割分担を図ることがあります(詳細は,当事務所の少年事件の基本ぺージ(少年事件に強い弁護士)を確認のうえ,お問い合わせください。)。いずれにせよ,移送がされることを想定される場合には,移動決定後の付添人活動を見据えて,弁護人を選任する必要があることは間違いありません。また,家庭裁判所送致前と送致後で,なんの前触れもなく,担当の弁護士が変わってしまうのは,少年を困惑させるだけだと思いますので,ある程度,早い段階でどのような処理をするのか決めておく必要があることは間違いありません(私自身の経験上,前の弁護士が全く説明をしておらず,少年が,状況を全く理解してておらず,「前の弁護士さんどうしちゃったの?」ということを聞かれたことがあります。)。

なお,上記の例で,例えば,少年A君の自宅や学校が富士吉田市にある場合,事件が,甲府家庭裁判所から甲府家庭裁判所富士吉田支部に移される可能性が高いと思われます。このように,本庁と支部の間,または支部相互間で事件を移す場合は,移送ではなく「回付」といいます。
     

観護措置の取消と少年事件

2016-06-01

1 観護措置を争う二つの方法

少年事件で「観護措置がでて,鑑別所に行くことになってしまった。早く出してあげたい。どうすればいいんでしょうか。」
という質問をよく受けます(観護措置に関する一般的な説明は,少年事件の基本ページ「少年事件に強い弁護士」のQ&Aの個所をご参照ください。)。
少年事件において観護措置決定がなされた場合,その決定を争う方法には,
①異議申立(少年法17条2項)
②観護措置取消申立(少年法17条8項,少年審判規則21条)
という二つがあります。
少年事件には,成年の刑事事件における「保釈」という制度はありません。保釈金を支払って釈放してもらうということはできません。したがって,早期に身柄を釈放するための方法は,①②の申立をして,裁判所に認めてもらうしかありません。

2 異議と観護措置取消のどちらの制度が有用か? 

①の異議申立が認められるのは,そもそも観護措置決定が,要件を満たしておらず違法な場合です(要するに,観護措置決定をした時点で,罪証隠滅のおそれも,逃亡のおそれも,資質鑑別の必要性もない場合です。)。①の申し立てに対しては,観護措置を決定した裁判官とは異なる裁判官が判断をすることになります(合議体といいまして,複数の裁判官が判断します。)。ただ,①の異議申立が認められる事案は極めて少ないのが実情です。また,細かな点ですが,①の手段を用いると,事件の記録が,当該異議申立を審理する合議体にうつり,審判を担当する裁判官のもとから離れますので,その点に伴う不利益が出てくる可能性があることも事実です。

実務上は,②の観護措置取消の申立の手段が頻繁に使われており,②の手段は,①よりも有用性が高い手段ということができると思います。観護措置は,その必要がなくなったときは,速やかに取り消さなければならないとされています(少年審判規則21条)。①は,「観護措置決定の要件がない!」と主張して,観護措置自体を争う方法ですが,②は,観護措置決定後の事情や調査の結果等も勘案して,「観護措置の必要はなくなった!」と主張して,観護措置の取消を求める方法です。

現在の裁判所の運用をみる限り,逮捕・勾留がなされている事案については,原則として,観護措置の決定が下されてしまう処理がされているように思われます。観護措置決定自体は,幅広い事案で認められてしまうのが現状です。そのような中で,観護措置取消の申立は,事案に沿ったきめ細かな事情を主張して判断を促すことができる有用な手段です。
観護措置の決定が下される前に,観護措置決定をしないように求める意見書を提出したうえで,裁判官と面接をすることがありますが,そのときに,裁判官から,「事情は分からなくもないが,事案としては観護措置をとる事案だと思う。あとは,係属部と話をしてください。」という趣旨の話をされたことがあります。裁判所のほうでも,観護措置決定自体はある程度類型的に決めていくものの,観護措置取消の判断では柔軟に検討するという姿勢をとっているように思います。

なお,受験等の重要なイベントがある場合,一時的に観護措置を取消してもらい,イベント終了後,再度,観護措置をとるという柔軟な方法がとられることもあります。

3 観護措置取消を求める付添人活動

私は,観護措置取消を求める場合,すぐに,家庭裁判所で記録を閲覧して,観護措置取消を主張するために,どのようなことを重視していけばよいか検討して戦略を立てることとしております。特に,裁判所が,観護措置の要件(①証拠隠滅のおそれ,②逃亡のおそれ,③心身鑑別の必要性)のうち,どの要件を充足するものとして,観護措置決定を下したのかを把握することが必要です。また,親の身元引受書・陳述書,学校の成績表,合格証書,試験の予定表など,可能な限り,多くの添付資料をつけることも必要です。

例えば,私は,家庭裁判所が,③の要件を重視して観護措置決定を下した事案において,

(1) 精神障害や資質状の問題をうかがわれず,そもそも,心身鑑別の必要がない,あるいは乏しい
(2) (必要性がない,あるいは乏しい)心身鑑別をするよりも,学校に通学させて,環境調整をさせたほうが,少年にとってはるかに有益である。

といった事情を詳細に主張して,観護措置決定を取消してもらった事案があります。

振り込め詐欺と少年事件(少年院送致の決定を取消した事案②)

2016-03-13

 前回のコラム(「振り込め詐欺と少年事件(振り込め詐欺と少年事件(少年院送致の決定を取消した事案①)」)に引き続き,もう1件,詐欺に関与した少年を少年院送致とした家庭裁判所の決定を取消した事例を紹介します。東京高等裁判所平成27年6月24日の決定です。

 事案の内容としては,以下のとおりです。

・少年は,楽をして大金を稼ぎたいとの考えから,インターネト掲示板で高収入即日払いのアルバイトを探し,当該掲示板を通じて共犯者らと知り合った。

・少年は,共犯者らから仕事の内容として荷物を受け取りに行く仕事で,報酬は15万円であると聞いた。少年は,何らかの犯罪に関わる仕事,例えば,覚せい剤などの違法薬物を受け取る仕事の可能性があると考えたものの,荷物を取りに行くだけなら捕まることはないと軽く考えて計画に加わった。

・共犯者らが,共謀して他人の息子を騙り現金を騙し取ろうと考えて,被害者方に電話をかけ,その息子になりすましてお金が必要であると嘘をついて,1200万円の交付を要求した。

・少年は,共犯者から指示を受けて,コンビニエンストアの駐車場で被害者から1200万円の交付を受けようとしたものの,被害者が警察に通報したため未遂に終わった。

・少年には同種余罪がない。

 この事案について東京家庭裁判所は,「本件非行における少年の責任の重さ,少年が規範意識を希薄化させた経緯,及びその程度,少年の監護環境に加え,少年は知的能力の影響で志向が深まりにくいという傾向を有していることなどに照らすと,試験観察を含めた在宅処遇によって少年が自己の問題点を改善できるとは考え難く,少年については,この機会に矯正施設に収容することが必要かつ相当である」として,少年を第1種少年院に送致しました。

 これに対して,東京高等裁判所は,少年院送致の決定を取消したのですが,本件で注目すべきなのは,「本件非行における少年の責任の重さ」についての評価が相当でないと断言している点です。

 判断の分かれ目となったのは,客観的な少年の役割の重大性を重要視するか,それとも少年の主観的な認識も重要視するかという点です。原審決定は,少年が現金を受け取るという犯罪の遂行に必要不可欠な役割を担っていたという客観的な側面から少年の責任の重さを論じていますが,本決定では,客観的側面だけを見るのではなく,少年の自己の役割等に対する主観的認識も重視して,少年の責任の重さを論じています。

 具体的には,本決定では,「少年は,本件故意又は共謀の内容について詐欺を含めた何らかの犯罪に関与するかもしれないが,それでもやむを得ないという程度の認識をもっていたにとどまる旨供述しているところ,この供述を排斥するに足りる証拠はない。原決定は,「悪質重大事案であり」,「犯行の完遂に必要な不可欠な役割を果たした」というが,少年がどこまでの認識をもって本件詐欺に関与したかという点を論じることなく,客観面だけからそのように断じて少年の責任の重さを殊更に強調するのは,一面的な見方であり,評価の在り方としていささか相当性を欠くというべきである」,「少年の規範意識が希薄化しているとの評価は免れないが,その規範意識が著しく希薄化しているという原決定の指摘は,明らかに行き過ぎというべきである。」と判示しております。

 「振り込め詐欺と少年事件(少年院送致と保護観察を分けたもの)」のコラムでも説明をいたしましたが,振り込め詐欺でいわゆる「受け子」などの役割を担うものは,客観的には「犯罪の完遂に必要不可欠な役割」ということになりますが,主観的には犯罪の全体像を知らず「何か悪いことに加担している」程度の認識しか持っていない場合も少なくありません(そもそも故意を争いたくなるような事案も少なくありません。)。

 少年事件における振り込め詐欺の事案では,客観的側面から直ちに悪質な事案と断ずるのではなく,少年の主観的認識を細かくフォローしていくことも,必要不可欠であると認識させる事案です(続)。

★ 当事務所の少年事件の処理方針等は以下を参照してください。
  少年事件に強い弁護士

 

 

 

振り込め詐欺と少年事件(少年院送致の決定を取消した事案①)

2016-03-11

  前回のコラム(振り込め詐欺と少年事件(少年院送致と保護観察を分けたもの))でも説明をしたとおり,振り込め詐欺の少年事件は被害金額が多額で欺罔方法も悪質であることから犯情の悪質性が高い一方,少年の役割が受動的で故意の認識も曖昧なものにとどまることが少なくないという特徴があり,少年院送致とするのか,保護観察とするのかは,相当悩む事案も少なくありません。

 いくつかの少年審判例を参考としながら,少年の振り込め詐欺の事件の処遇について考えてみたいと思います。特に,少年院送致と保護観察を分けたものは何だったのかという観点から検討していきたいと思います。

 東京高等裁判所平成27年6月24日の決定は,詐欺に関与した少年を少年院送致とした千葉家庭裁判所の決定を取り消した事例です。

 事案の内容としては,以下のとおりです。

・少年が,友人や知らない人と共謀していた。

・少年以外の共犯者が,警察官になりすまして高齢の被害者8名に対して9回にわたり電話で被害者らの預貯金を保護するため,金融機関等から至急預貯金を引き出して,被害者宅を訪れる警察官や金融機関関係者に交付する必要があるかのような嘘を言った。

・少年やその他の共犯者が,警察官や金融機関関係者に成りすまして現金約4555万円をだまし取った。

・少年は,友人である共犯少年から,「ブラックな仕事」を一緒にしようと誘われていた。

・少年は中学生2年のころまでは特に問題は見られなかったが,その後,共犯少年と不良交友が始まり,夜遊びや怠学が目立つようになり,数件の補導歴があった。

・家庭裁判所の事件係属歴はない。

・少年は,家族関係の問題から,家出して共犯少年のアパートに住むようになったことがあり,そのときに,共犯少年の期限を損ねたくないという思いもあり,共犯少年が所属していた詐欺グループに加わり詐欺に関わるようになった。

・もっとも,少年は,家出後,約2か月程度で自宅に戻っており,詐欺グループとのかかわり合いもなくなった。

・その後は,詐欺グループからの誘いに応じず,アルバイトをしていた。

 以上の事実関係を基にして,東京高等裁判所は,「少年は,共犯少年に誘われて本件非行に及んだものの,その後は,自宅に戻り,詐欺グループとの関係を断ち切り,正業に就いて働く姿勢を示していたのであって,これらの事情からすると,本件非行は一過性のものであり,少年の非行性は原決定が憂慮するほど進行していないように思われる。」などと判示して,少年院送致とした原審決定を差し戻しました。 

 この事例において被害金額は,4555万円と非常に多額となっていて,犯情が悪質であることは否定できません。ただ,一方で,少年が,詐欺に関与していたのは,数か月に限定されています。そもそも,少年が,詐欺グループに加わった経緯は,家出をして共犯少年と一緒に暮らしていた時に,たまたま共犯少年が詐欺グループに入っていたからです。もともと,詐欺グループと濃厚な関係があったわけではないということもうかがうことができます。もちろん,家族の関係に改善がなければ,少年が,再度,家出して詐欺グループと接点を持つ可能性もあると思われますが,裁判所は「少年と家族との関係には改善の兆しが見られ・・・」と判示しており,その点も,強く憂慮することはできないと判断しています。
 そして
,少年は,自宅に戻ってから,詐欺グループとの関わり合いを絶っており(現実的に,詐欺グループからの誘いにものっていない。),少年が,二度と詐欺グループに関わらないということは十分に現実的だと思います。

 本件で少年院送致が相当とならなかったのは,少年に非行性の深化が見られなかったことが大きな要因になったことは明白です。そして,詐欺グループにいた期間,詐欺グループに入った原因,あるいはその原因が解消されるかという点が重要な判断材料になっているものと思われます。
 
本件は,詐欺グループに入っている!ということから,少年の非行性が深いと安易に認めることの危険性を示していると思います。少年の生活歴,環境面等を丁寧に分析して,非行の原因を探っていき,現時点ではその原因が解決していると説得的に説明していくことが必要であると考えさせる事案です(続)。

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
少年事件に強い弁護士

振り込め詐欺と少年事件(少年院送致と保護観察を分けるもの)

2016-03-07

 1 少年の詐欺事件の増加

  最近,振り込め詐欺に関わった少年の刑事事件を扱うことが多くなりました。

 振り込め詐欺とは,「オレオレ詐欺」,「架空請求詐欺」,「融資保証詐欺」,「還付金等詐欺」等の詐欺の総称で,いわゆる特殊詐欺と呼ばれるもののうちの一つです。「オレオレ詐欺」と「架空請求詐欺」はイメージしやすいと思います。一方,融資保証詐欺とは,実際には融資しないにも関わらず,融資する旨の文書等を送付するなどして,融資を申し込んできたものに対し,保証金等を名目に現金を預金口座等に振り込ませるなどの方法によりだまし取る詐欺です。還付金等詐欺とは,税務署や区役所等を名乗り「税金や医療費等を返還します」等とATMに行かせて,携帯電話で還付手続きを指示するふりをし,実は犯人の口座にお金振り込む手続きをさせるなどの方法によりだまし取る詐欺です。

 司法統計年報によると,裁判所に送致された少年事件(ただし,簡易送致等の一定の事件を除きます。)のうち,詐欺の事件が占める割合は,平成17年から24年までは,0.9%から1.2%であったのに対して,平成25年には1.4%,平成26年には1.8%に上昇しています。
 このような上昇の理由の一つには,振り込め詐欺の加害少年の送致数の増加があるものと考えられます。

2 少年の振り込め詐欺事件の特徴

  振り込め詐欺に関与した少年について,どのような処遇にするか,端的にいえば,保護観察等にするのか,少年院送致にするのか,非常に悩ましい事案が少なくありません。

 これは,振り込め詐欺の事件の特徴が影響しているものと考えられます。
 一般論として,振り込め詐欺は,被害金額が多額になることが多く,今なお重大な社会問題で犯罪予防の必要性も高いこと犯罪類型です。そのため,振り込め詐欺は,一般的には,詐欺事件の中でも,特に悪質性が高い事件であるとされると評価される傾向があると思います。
 実際に,振り込め詐欺の事件は,成人の場合であっても,少年の場合であっても,厳罰化が進んでいると強く感じます。一昔前には,執行猶予がついたり,保護観察になったりする事件であっても,今では,実刑判決が下されたり,少年院送致の処分となったりすることが多くなったと実感しています。
 今なお,振り込め詐欺が跋扈している現状からすると,このような厳罰化の流れもやむを得ないことだとは思います。
 ただ,一方で,多くの振り込め詐欺の少年事件を担当していると,情状酌量を認めてもらいたい!少年院に行かせたくない!と強く思う事案もあります。
 振り込め詐欺は,複数人が役割を分担して行うことが多く,例えば,詐欺の電話を架ける「架け子」,被害者から現金を受け取る「受け子」,見張りをする「見張り役」等の役割を分担することがあります。そして,特に,少年の場合ですと,末端で受け子,見張り役として振り込め詐欺に関与することが多く,少年の役割が,受動的,消極的なものであることが少なくありません。また,そもそも,振り込め詐欺に関与しているという意識が希薄で,例えば,少年の認識としては,「詐欺のような犯罪に関与しているかもしれないな!」という程度にとどまることも少なくありません。
 当初は,単なる単なる合法的なアルバイトとして勧誘されて,途中で,詐欺であることに気付くようなケースもあります。私が担当した事件の中には,前歴がなく,真面目に大学に通っている少年が,アルバイト感覚で,振り込め詐欺に関与するようになってしまうというものもありました。このような事態が起こるのは,少年独特の判断能力や社会経験の乏しさが大きく影響しているように思います。
 被害金額は,莫大でマスコミにも取り上げられるような社会的影響も大きい事件であっても,関与した少年には要保護性が小さく,再犯の可能性が乏しいのではないかと思える事件も少なくないのです。

3 少年審判での処遇はどうなるのか。

  上記のとおり,振り込め詐欺の少年事件の処遇は非常に難しいものがあり,裁判所でも,様々な事情を慎重に考慮しているようです。次回から最近の審判例を参考にしながら、裁判所の考え方等を探っていきたいと思います。特に,少年院送致と保護観察を分かつものは何だったのか!というような事情探っていきたいと思います(続)。

★ 当事務所の少年事件の処理方針等は以下を参照してください。
  少年事件に強い弁護士

少年事件の保護観察所における社会貢献活動

2016-02-26

1 社会貢献活動の義務付け

 社会貢献活動は,平成23年度から保護観察の処遇の一つとして導入されました。そして,平成27年6月から特別遵守事項の一つとして,保護観察の対象者に義務付けて行うことができるようになりました(保護観察の説明自体は,少年事件の紹介ページ「少年事件に強い弁護士」保護観察について(少年事件) で説明しています。)

 更生保護法51条2項6号は,特別遵守事項として,「善良な社会の一員としての意識の涵養及び規範意識の向上に資する地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を一定の時間行うこと」を定めることができると規定しており,この「社会活動」がいわゆる社会貢献活動というものです。

 少年事件の保護観察の処遇の一つとしても効果を挙げている制度ですのでご紹介します。

2 社会貢献活動の内容,対象者

 社会貢献活動は,保護観察中の人が,地域社会に貢献する活動を通じて,更生を図ることを目的とした制度です。社会貢献活動は,対象者の改善更生を目的として実施されるもので,贖罪,制裁を目的とするものでないことが特徴です。

 具体的な活動内容は,
① 老人施設や障害者支援施設での清掃活動での清掃活動や介護補助活動
② 公共施設等での清掃活動
③ 違反広告物撤去作業
④ 切手整理活動
等です。

 社会貢献活動が導入される以前から,保護観察所では,「社会参加活動」と呼ばれるボランティア活動を実施していました。従前の「社会参加活動」では,福祉施設での活動,清掃活動,レクリエーション活動,体験活動が実施されてきました。もっとも,現在はレクリエーション活動,体験活動を除く活動は,基本的に社会貢献活動として位置づけられています(社会参加活動は,レクリエーション活動や体験学習等を行うものとして現在も存続しています。)。

 社会貢献活動の対象者は,①自己有用感や社会性が乏しく,社会から孤立する傾向が顕著であるもの,②特段の理由がなく,不就労または不就学の状態が継続しているもの,③素行不良者と交友があり,その影響のもとで同調的に行動する傾向が顕著であるもの,④比較的軽微な犯罪,非行を繰り返すもののいずれかに該当して,社会貢献活動により処遇効果が期待できるものとされています。
 特に,仕事や学業に従事していない少年,通信制高校に通っていたり,フリーターをしている少年等の比較的自由な時間を持っている
少年には処遇効果が期待される制度となっています。

 社会貢献活動は,特別遵守事項として義務付けられて参加する対象者もいれば,保護観察官等の働きかけに同意して任意に参加する対象者もいます。

 特別遵守事項の場合は5回参加が義務となっております。任意参加の場合には回数の定めはありません。活動は原則として1回につき2時間から5時間程度行われます。

3 社会貢献活動の意味

 保護観察は,犯罪や非行した対象者に対して,社会内での指導や支援を行うことを通じて,その改善更生や再犯防止を図る制度です。

 非行をして保護観察処分になる少年は,物事が続かずに挫折を繰り返した経験が多く,そのために,他人から感謝されることが少なく,自己肯定感が低いことが多いです。そのような少年が社会貢献活動をすることで,貴重な社会経験を積むことができるとともに,健全な方法で社会に貢献していることを実感して達成感を味わうことができることも少なくないようです。特に,第三者から感謝されたり,プラスの評価をされたりすることで,自己肯定感を高めることは,重要な意義があると思います(施設利用者等からの温かい言葉は,少年にとって一定のインパクトを持つことが多いようです。)。社会貢献活動をして自信を得た少年が,社会に踏み出していくきっかけをつかみ,就労につながるようなケースもあるようです。私自身も,少年が,社会貢献活動等を通じて,施設利用者と交流,保護司,保護観察官とともに作業をして連帯感を味わうことで,社会にかかわる自信を持つことができるようになったようなケースも認識しています。

少年事件と虞犯事件

2016-01-09

1 虞犯少年とは何か?

 虞犯少年とは,少年法3条1項3号に定められています。

 

 少年法3条1項3号

 次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照らして,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年

イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。

ロ 正当の理由ななく家庭に寄り附かないこと。

ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかたわしい場所に出入りすること。

二 自己又は他人の徳性を害するおそれのある行為をする性癖のあること

 

 虞犯少年は,現実に犯罪を行っている少年ではなく,将来の犯罪に結びつくような問題行動がある少年です。成人の場合には,現に犯罪を行っていなければ,将来の犯罪に結びつくような問題行動があっても罰せられることはありません。

 未だ犯罪を行っていないものの,将来の犯罪に結びつくような問題行動がある少年をどのように取り扱うかについては,国によって対応が分かれています。日本のように一定の枠をつくって,その枠の中にはいった少年を司法制度の枠内で対応していくところもありますし,行政による助けが必要な少年ということで虐待少年等と同じく児童福祉制度の枠の中で扱うところもあります。

 

2 虞犯少年という類型をつくるメリットデメリット

 虞犯少年を司法制度に取り込むことや少年法における虞犯の定め方には,批判もあります。

 少年法上の虞犯の制度に対する批判は以下のようなものです。

① 実際に犯罪を行っておらず,他人に危害を加えたわけでもないのに,非行の類型とするのは妥当でない。

② 将来,罪を犯したり,刑罰法令に触れたりする可能性を正確に予測することは困難。

③ 少年法の定める虞犯事由は曖昧で不当に少年の自由を制約するおそれがある。

 確かに,虞犯という概念を広げていくと,幅広く少年に処分を加えることが可能になり,少年の人権侵害を招きかねないという問題はあります。現に犯罪を行っていなくても,犯罪を行いそうというだけで処分されてしまうという危険性は理解できるところかと思います。

 もっとも,実際問題として,現に犯罪を行ってからでないと司法が介入できないということになると,少年本人にとっても深刻な事態が招来される可能性があることは否定できないところがあります。そのような少年に対して,時には強制的な措置を使ってでも少年に対する働きかけを行っていく必要があること自体は否定できないところだと思います。仮に,少年法上の虞犯を児童福祉制度の枠内に取り込むような制度をつくったとしても,少年自身の保護のために,一定の強制措置を認めることにはならざるをえないと思います。結局,現状の少年法の虞犯制度の存在自体は必要なものだと思います。

ただ,虞犯の要件を考える上では,いろいろな問題があり,虞犯制度の危険性等を踏まえて虞犯の要件等を考えていく必要があるかと思います。

 

3 虞犯の要件

 虞犯の要件は,少年法3条1項3号に定められたイから二までの事由(これを虞犯事由といいます。)のどれかに該当し,かつ,性格又は環境に照らして,将来,犯罪,触法行為をするおそれのあることです(将来,犯罪等をするおそれがあることを虞犯性といいます。)。

 問題となることが多いのは,虞犯性です。虞犯性は,将来,犯罪等をするおそれのあることをいいますが,実務上は,単なる推測ではなく,経験則に基づき高度な蓋然性があることを意味するとされています。

 また,虞犯事由と虞犯性の関係ですが,虞犯事由が認められるのであれば,虞犯性があることも推認されるという見解もあります。もっとも,実務上は,虞犯事由があるからといって,直ちに虞犯性が認められるというような処理はされておらず,虞犯事由以外の幅広い事情から虞犯性の有無を判断するのが一般的かと思います。

 上記のとおり,虞犯制度は,少年に不必要な権利制約を加える危険性があり,それを避けるためにも,虞犯性の要件は厳密に考えるべきと思われます。

 

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
     少年事件に強い弁護士

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