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 [事例紹介]少年を少年院送致した決定を不当であるとして取消した決定

2016-10-01

 少年審判では少年院に行くのか,行かないのかが一番大きな関心事になるかと思います。

 先日,大阪高等裁判所で,少年を第1種少年院に送致した決定について,試験観察にするなどして,在宅での処遇による改善更生の可能性のないことを十分に検討することのないまま,収容処遇を選択した原決定の処分は著しく不当であるとして,これを取り消して事件を現裁判所に差し戻した決定が出ました(大阪高等裁判所平成27年10月8日決定)。

 当該決定は,少年の要保護性の判断過程,判断要素等を考えるうえで大変参考になりますので,備忘録もかねて本事案について簡単にまとめておきます(なお,試験観察については,当事務所の少年事件の基本ページ「少年事件に強い弁護士」のQ&Aで説明しています。)。

 当該審判例の事案の内容は以下のとおりです。

① 少年は大学生。
② 少年は,第1の被害者に対して,路上において,制服内に手を差し入れて,胸を撫でまわした。
③ ②の約1か月後,少年は,第2の被害者に対して,マンション敷地内まで追尾して,胸を触ろうと手を伸ばそうとしたところ,被害者に手をつかまれるなどの抵抗を受けたため,逃亡した(①と②が送致事実。以下,「本件わいせつ行為」といいます。)。
④ 本件わいせつ行為の約5年前に,少年は,わいせつ行為に及び,児童相談所の指導を受けたことがある。また,少年は,本件わいせつ行為に近時した時期にわいせつ行為を行っていたと認めている。

 このような事案について,原審は,以下の点を理由として,少年について少年院送致の決定を下しました。

・②の犯行態様は大胆,③の犯行態様は執拗であり,いずれの犯行も卑劣な犯行。
・少年には,性非行への罪障感の薄さ,共感性の乏しさといった問題性がうかがえる。
・②③の他にも,④のわいせつ行為を行っていた。
・少年は,周囲からの働きかけに対して,表面上は従う意思を示しながら,受け流すことも少なくないなど,根深い資質上性格上の問題がある。
・父母は,少年が,過去に類似の行為をしたことを認識しながら,十分に指導監督ができていない。

 一方,本決定では,「少年に対しては,試験観察に付するなどして,社会内処遇による改善更生の可能性を見極める必要があり,この点を十分に検討することのないまま,直ちに,少年を第1種少年院に送致することとした原決定の処分は重きに失し,著しく不当といわざるをえない。」と判示しました。

 理由は以下の点を挙げています。

・本件わいせつ行為は大胆かつ執拗であるものの,わいせつ行為の内容としては,胸を触る以上のものをしようとした意図をうかがうことができない。
・逮捕,勾留,観護措置による身柄拘束,家庭裁判所調査官,少年鑑別所技官の面接を受けるなどて,罪障感を涵養しつつある。
・児童相談所の指導を受けたことがあるものの(④),約5年前のことであり,その後,社会内で問題なく生活をしており,その間,中学校や高校も真面目に通学して,高校からは温厚な人と見られていて,友人も多かったのであるから,本件犯行との関係は慎重に評価する必要がある。
少年が本件わいせつ行為に及んだのは,高校卒業を控えた時期から大学入学までの時期であるが,進学による生活環境の変化や交友関係の変動による影響が少なくなかったとみる余地がある。
・少年が約5年にわたり,社会内で問題なく生活をしており,本件まで家裁送致歴がなく,不良交友,生活態度の乱れもなく,家庭環境を中心とする保護環境からの離脱もなかったし,大学への通学を継続する意思を示しており,知的能力も高いことから施設内処遇を必要とするほど,資質上の問題点,ないし性非行を繰り返す危険性があると断定するには多分に疑問が残る。
・少年の父母の監護能力は十分ではないものの,少年は,それなりに安定した監護環境のもとで5年わたり社会内で問題なく生活をしていた。また,少年の父母は,今後,家庭内の環境を整えたうえで,少年と会話をするようにしたいと述べるなど監護意欲を高めつつあり,父母の監護能力に期待しがたいとまではいえない。

 以上のように,本決定では,犯行態様,過去のわいせつ行為,両親の監護能力,少年の資質等の評価について,原審とは異なる説明をしており,付添人の立場からも,本決定の視点は大変参考になるものです。

 ちなみに,上記下線部の判示は,多くの少年事件を扱ってきた立場からも納得できるものがあります。進学直後は,表面上は大きな問題が出ていない場合であっても,実は,少年の心の中の微妙なバランスが崩れていて,それが非行につながっているというケースがよくあります。

 

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