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離婚慰謝料(不貞を理由として慰謝料を請求する場合)の金額
離婚事件において,一方が,相手方の不貞行為により,婚姻関係が破たんし離婚を余儀なくされたとして,慰謝料を請求することがあります。実務上は,不貞を理由とする,離婚慰謝料の金額がクルーシャルな問題となることが非常に多いです。私自身,法律相談において,不貞を理由とする慰謝料の客観的な相場を教えてほしいと聞かれることがあります。
不貞慰謝料の金額は,明確な相場があるわけではなく,結局は,個別具体的な事情を総合的に考慮して決定されます。もっとも,個別具体的な事案において,想定される慰謝料の金額について,ある程度の幅をもって示すことは可能ですし,また,離婚慰謝料の金額を算定するにあたり,どのような事情がどの程度考慮されるかということを示すことも可能です。
近時,「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」(ケース研究322号26頁以下)という論考に,上記の点について詳細な記載があります。当該論考は,平成24年4月から平成25年12月までの間の東京家庭裁判所で終局した離婚事件(不貞慰謝料については44件)を対象としており,比較的近時の相応の分量の裁判例が研究対象とされていること,和解や認諾ではなく判決によって判断が示された事件で,しかも,当事者双方が慰謝料の支払義務,およびその金額等について積極的に争われた事件等を対象としており,裁判所の考え方を推察することができるという点で,非常に貴重な論考です。
上記44件のうち,認容件数は29件で,平均認容額は223万円だったようです。一般的な弁護士も,離婚慰謝料(不貞)の平均的な金額を「200万円くらい」ととらえていることが多いかと思いますので,上記数値は弁護士の感覚にも合致しているように思います。
また,上記認容事案のうち,慰謝料金額がもっとも高額だったのは,700万円(1件)で,当該事案も含めて,300万円を超える金額となったのは,29件中4件(約13%)だけのようです。一般論として,慰謝料金額が高額な事案よりも,低額な事案のほうが和解等でまとまりやすいのではないかと推測されますので,実際上は,上記300万円を超える金額が認められる事案の割合はさらに低くなるものと思います。
300万円を超える事案がかなり特殊なものであり,一般的な事例においては,このあたりの金額が限界になることがうかがえます。
逆にいえば,300万円を超えた4件の内容が,どのような事案であったかが興味深いところです。
上記論考では,高額の慰謝料が認められた事案について,以下の要素があったと説明をしています。
① 不貞期間が長い。
② 不貞相手が複数いる。
③ 不貞発覚後の被告の対応が悪い。
④ 婚姻後の同居期間が長い。
⑤ 未成熟子がいる。
⑥ 当事者に経済力がある。
判決により,300万円を超える金額の認容するためには,上記事情について十分に主張立証していくことが必要になるものと思われます。
婚姻費用・養育費の金額と私立学校の学費
1 私立学校に通学している場合上乗せした婚姻費用,養育費を請求できるか
婚姻費用,養育費(以下では,婚姻費用と養育費をあわせて,「養育費等」といいます。)の金額を決める際に,子どもが私立学校に通学している場合の学費の処理が問題になることがあります。
現在,養育費等は,いわゆる算定表に基づき機械的に計算されることが多いのですが,この算定表には,公立学校の教育費は考慮されているものの,私立学校その他の教育費は考慮されていません。
そこで,義務者が私立学校への進学を承諾している場合やその収入及び資産の状況からみて義務者にこれを負担させることが相当であると考えられる場合には,養育費等の算定にあたり,私立学校の学費等を考慮する必要があるとされています。
2 私立学校の学費はどの程度考慮されるか
養育費等の算定表においても,公立学校の学費は考慮されています。
具体的には,公立高校の学費としては,33万3844円,公立中学校の学費としては,13万4127円が考慮されています。そこで,私立学校の学費等を考慮するにあたっては,これらの金額を上回る金額について,権利者と義務者でどのように負担をするのか問題となります。
具体的な加算金額については,権利者あるいは義務者の基礎収入で按分する方法(A説),あるいは権利者と義務者間で半分ずつ負担する方法(B説)等が考えられます。
例えば,義務者の基礎収入1000万円(給与),権利者の基礎収入200万円(給与),一人息子(15歳)の私立高校の学費年間60万円という事案があったとします。
この場合,算定表に基づく養育費の金額は,1か月10万円から12万円程度となります。一方,私立学校の学費の加算金額は,A説によると,(60万円-33万3844円)×(1000万円/12000万円)÷12=1万8483(円)となり,B説によると,(60万円-33万3844円)×(1/2)÷12=1万1089(円)となります(12で割っているのは,1か月の金額に換算するためです。)。つまり,A説によると標準算定額10万円から12万円に1万8483円が加算されることになり,B説によれば1万1089円が加算されることになります。
実務上は,A説で計算することが多いように思いますが,状況によってはB説を採用する場合もあるようです。個人的には,理屈上は,B説のほうが正しいように思います。算定表の養育費等が支払われることで,基礎収入の差異は問題とならなくなるようにも思いますので,基礎収入で按分するということの合理性はあまりないのではないかと思います。ただ,実務上,A説が採用されることが多いのは,そもそも,算定表で考慮されている公立高校の学費,公立中学校の学費が低額であるという考慮が働いているのかもしれません(現在,算定表の計算を見直そうという動きもあり,新算定表が定着した暁には,私立学校の分担に関する算定方法も変化するかもしれません。)。
もっとも,私立学校の学費等が高額すぎて,義務者の負担が過大となり,生活が成り立たなくなるような場合もあります(大学の医学部の学費などは,金額が相当高額になるケースもあります。)。そのような場合の負担割合については,柔軟に調整するようなこともあります。
さらに,子どもが大学生等になった場合,子どもがアルバイト等による収入を得るようなケースもありますし,また,奨学金等で借入をすることができるようなケースもあります。単純にA説,B説では割り切れないようなケースも少なくありません。また,塾の学費等,私立学校以外の教育費用に関する分担が問題になることもあります。次回は,そのような場合にどのような計算をするか見ていきたいと思います。
婚姻費用と不貞の関係~不貞をしたものは婚姻費用を請求できるのか?~
婚姻費用を請求する側が不貞をしていることがあります。この場合,不貞をしていた事実が,婚姻費用の請求に影響を及ぼすことはあるのでしょうか。
一つの考え方は,婚姻関係の破たんの原因をつくったものでも,婚姻費用分担の請求をすることができ,金額にも影響しないというものです。以前は,婚姻費用の請求において,有責性を重視しない考え方が比較的有力に主張されていたように思います。したがって,今でも,このような考え方を持っている弁護士等は少なくないかと思います。
ただ,最近の裁判例の大勢は,有責配偶者からの婚姻費用の請求は,信義則あるいは権利濫用の見地から許されない,あるいは減額されるという考え方をとっています(例えば,大阪高等裁判所平成28年3月17日決定,東京家庭裁判所平成20年7月13日決定等の例があります。)。
具体的に不貞の事実はどのような影響を及ぼすのでしょうか。婚姻費用は,配偶者の生活に関わる部分と子どもの生活に関わる部分に分かれますが,有責配偶者からの婚姻費用の請求ということになりますと,子どもの生活費に関する部分にだけが認められるとする裁判例等が多くなっています。
上記の大阪高等裁判所平成28年3月17日決定は,「夫婦は,互いに生活保持義務としての婚姻費用分担義務を負う。この義務は,夫婦が別居しあるいは婚姻関係が破綻している場合にも影響を受けるものではないが,別居ないし破綻について専ら又は主として責任がある配偶者の婚姻費用分担請求は,信義則あるいは権利濫用の見地からして,子の生活費に関わる部分(養育費)に限って認められると解するのが相当である」と判示しています。
もっとも,婚姻費用分担請求の審判等の中で,不貞を問題とすることは注意が必要になることがあります。離婚の裁判の中で,不貞を問題とするときとは異なる考慮が必要になる場合があります。
一般的に不貞の事実認定は困難で審理に時間がかかることがあります。一方,婚姻費用分担請求をする側の人は,経済的余裕がないことも多く,場合によっては,困窮していることも少なくありません。したがって,婚姻費用分担請求に関しては速やかな判断が求められることが多く,不貞の審理をじっくりしていくこと時間がないような事件も少なくありません。そのため,婚姻費用分担請求の審理では,有責性が明白な場合にだけ,婚姻費用の請求を認めない,あるいは減額するという考え方が有力です。そのことをもって,実務上は,原則として,有責性は婚姻費用の金額等に影響を与えないという言い方をされることも少なくありません。不貞をしたものからの婚姻費用請求も事実上減額等がされずに認められていたというケースが少なくないのもこのためだと思います。
しかしながら,上記大阪高裁の決定は,ソーシャルネットワークサービス上の通信内容からは,「単なる友人あるいは長女の習い事の先生との間の会話とは到底思われないやりとりがなされていることが認められる。」と認定してるものの,婚姻費用請求者の「有責性が明白な場合」とまで言えるかは疑問です。実際,原審では,「ソーシャルネットワークサービス上の通信において,一定程度,相互に親近感を抱いていることをうかがわせる内容のものであることが認められるが,このことをもって,申立人と本件男性講師が不貞関係あったとまで認めることはでき」ないと判示しており,不貞行為の有無自体が微妙な判断であたことをうかがうことができます。
そうすると,原則として,有責性が婚姻費用の金額等に影響を与えないという考え方も通用しなくなっていくのではないかと思われます。そして,今後もこのような傾向が継続していくのではないかと思います。
なお,補足ですが,養育費の金額等は,請求者の有責性が影響を与えることは基本的にはありません。
嫡出否認とDNA鑑定の結果について最高裁判所平成26年7月17日第一小法廷判決(平成24年(受)第1402号,平成25年(受)第233号)
夫(元夫)と民法772条により嫡出の推定を受ける子について,DNA鑑定により生物学的な親子関係が否定された場合であっても,法律上の親子関係を否定することはできないという最高裁判所の判決が出されました。
民法772条1項は,妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定し,同条2項は,婚姻成立の日から200日経過後または婚姻解消の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定すると定めています。この民法772条1項の推定を受けるということになると,父子関係を争う手段は,基本的に嫡出否認の訴えを提起することに限定されます。
父子関係を争う手段としては,嫡出否認の訴えと親子関係不存在確認の訴えという二つの訴えがあります。
嫡出否認の訴えは,提訴権者が夫に限定されること,提訴期間は夫が子の出生を知った時から1年間に限定されるようになります(民法774条,775条,777条)。親子関係不存在確認の訴えにはこのような制限はありません。つまり,子が嫡出推定を受ける場合には,夫が子の出生を知った時から1年を経過すると,父子関係を誰も争えなくなるのが原則です。
しかし,DNA鑑定により親子関係が否定されている場合,すなわち,生物学的な親子関係がないことが判明した場合も,父子関係を覆すための方法が嫡出否認の訴えに限定されるのか,夫が出生をしってから1年を経過した場合には,父子関係を否定することができないのかが問題とされていました。要するに,嫡出推定を受ける子との父子関係の否認=嫡出否認の訴えに限定される,という基本的図式の例外は認められるのかという問題です。
これまでの裁判例は,妊娠した当時の状況から,外形的に妻の子でないことが明白である場合には,嫡出否認の訴えでなくても,法律的な父子関係を否定することができるとされていました。外形的に妻の子でないことが明白であるとは,例えば,別居をしていて性交渉を行う機会がなかったような事情がある場合です。逆にいえば,妊娠した当時,夫婦が同居していたけれど,家庭内別居状態であったという場合には,妻の子でないことが明らかになったとしても,父子関係を否定するためには,嫡出否認の訴えによる方法しか残されていないのです。
今回の件の原審はこれまでの裁判例の主流とは異なり,客観的に親子関係がないことが判明した場合であれば,嫡出否認の訴えでなくて,親子関係不存在確認の訴えにより父子関係を否定することができると判事したので注目されていました。
しかしながら,最高裁判所は,原審判決を破棄して前記の判断をしました。
ただし,学説の中には,子,母,父の三者で合意がある場合には,親子関係不存在確認の訴えを提起することができるという見解もあり,今回の最高裁判所は,そのような見解の当否は判断していません。したがって,今後,この点が争点になる可能性はあると思います。
なお,DNA鑑定により父親となる男性が父子関係を構築するためには,養子縁組をする方法で対応していくことになります。
〔お知らせ〕年末年始の営業について
従業員を募集します。
1.雇用形態
正社員1名/契約期間の定めなし/試用期間は原則2か月
2.職務内容
電話・来客対応、書類作成補助、データ入力、コピー、記録整理、
3.応募資格
学歴 短大・高専卒以上が望ましい。
スキル パソコン操作(特にワード、
※弁護士1名の個人事務所であることから、
4.勤務時間・休日・時間外
勤務時間 午前9時00分~午後6時(休憩1時間)
休日 土日祝日 夏期・年末年始休暇
時間外 原則としてありません。
勤務開始時期 平成26年7月上旬ころ
5.賃金・賞与等
月額(額面)21万円
※試用期間中は月額(額面)18万円以上
交通費 全額支給
6.加入保険
雇用保険、労災保険、
7. 応募要領
履歴書(自筆)に写真を貼付のうえ、職務経歴書とともに、E-
書類選考の上、面接をさせていただく方には、
お送りいただいた書類は返却いたしませんので、ご了承ください。
特別縁故者に関する裁判例の分析③
特別縁故者に該当するとされた場合,次に問題となるのが「分与の相当性」です。「分与の相当性」とは,どの程度の財産を分与するのが妥当かという問題です。
かつては,全部分与が原則で,一部分与は申立人が被相続人と親族関係のない知人とか,親族であっても六親等など遠縁のものに限られるというような説明がされていた時期もありました(久貴忠彦『判例特別縁故者法』195頁以下)。ただ,現在では,少なくとも,相当の財産がある場合には,全部縁故が認められるケースは少なく,一部縁故を認めることが圧倒的に多いのではないかと思います。
「分与の相当性」は,申立人と被相続人との縁故関係の具体的な内容,濃淡,程度を中心として,相続財産の種類,数額,種類,状況,被相続人の意思等が考慮されるといわれています。
神戸家庭裁判所尼崎支部令和元年6月10日の審判は,被相続人の相続財産(総額6700万円)のうち2000万円の分与を認めていますが,「分与の相当性」をどのように判断するのかを考えるうえで参考になります。
この事例で申立人と被相続人の関係は以下のようなものでした。
①申立人にとって被相続人は母方の従妹
②申立人は,被相続人と月1回から2回程度会ったり,電話でのやり取りをしたりする時期があった(期間は不明)。
③申立人は,被相続人が入院するにあたり,保証人になった。
④入院後は,見舞いを「欠かさなかった」(頻度は不明)
⑤被相続人は,預貯金の半分を申立人に遺すことを記していた。
⑥申立人は,被相続人の葬儀に代わるお別れ会を行ったり,残務処理を行ったりしていた。
この審判が認定した事実関係を見ても,申立人と被相続人の縁故関係が必ずしも濃いようには見えません。特に,申立人の連絡内容の頻度,申立人が病院に面会に行った頻度が具体的に認定されていないことからすれば,2000万円という分与額は高額ではないかとも思いました。ただ,この審判では,⑤のように被相続人が預貯金等の半分を申立人に遺すとの意思を示していたことが大きかったと思われます。(続)
特別縁故者に関する裁判例の分析②
次に,特別縁故者であることを否定した裁判例を紹介します。
東京高等裁判所平成26年1月25日判決は,被相続人の生前に一定の交流があったものの特別縁故者であるとまでは認められないと判示した事例です。
事案の概要は以下のとおりです。
① Xは被相続人の従妹の養子である(Xが本家,被相続人が分家の関係にある。)。
② Xと被相続人は継続的な親戚付き合いがあった。
③ Xは,被相続人の死後,被相続人の葬祭や被相続人等の維持管理をした。
このような事案で,裁判所は,Xと被相続人の交流の程度からすると,Xが被相続人の死後,被相続人の法要や被相続人宅の庭木等の維持管理のため一定の労力と費用をかけ,今後も継続する意思を有していることなど被相続人の死後のXの貢献を加えて検討しても,Xを特別縁故者と認められないと判示しています。
前のコラムでも説明したとおり,特別縁故者に該当するというためには,「被相続人と具体的かつ現実的な交渉があり,その者に相続財産の全部又は一部を分与することが被相続人の意思に合致するとみられる程度に被相続人と密接な関係にあった」ことが要件となります。上記の裁判所の判断の前提には,Xが主張した「継続的な親戚付き合い」程度では,具体的かつ現実的な交渉とまではいえないという理解があるものと考えられます。特別縁故者に該当するためには,通常の親戚付き合いを超えた交流が必要になるのです。
では,通常の親戚付き合いを超えた交流とは,どのようなものでしょうか。この点は他の裁判例等を見ても必ずしも明確にはなりません。ただ,一般論として,今日,親戚関係自体が希薄となっていて,通常の親戚付き合い自体,交流の程度が薄くなる傾向は否めないと思います。特別縁故者の認定においてもこのような時代の趨勢等も考慮して判断されるものと思われ,「通常の親戚付き合いを超えた交流」のハードルも昔よりは低くなっているのではないでしょうか。過去に通常の親戚関係に過ぎないと判断された事案についても,今日の視点でみれば,通常の親戚関係を超えた付き合いと判断されるような事案も出てくるかもしれません。
いずれにせよ,特別縁故は,被相続人とどれだけの交流があったかどうかという点が極めて重要になってきます(続く)
特別縁故者に関する裁判例の分析①
特別縁故者について定める民法958条の3第1項は,被相続人について相続人のあることが明らかでない場合または相続人が存在しない場合において,「被相続人と生計を同じくしていた者」,「被相続人の療養看護に努めた者」,「その他相続人の療養看護に努めた者」,「その他被相続人と特別の縁故があった者」について,家庭裁判所が相続財産の全部または一部を分与することができると規定しています。
問題は,「その他被相続人と特別の縁故があったもの」の具体的な内容です。
一般的には,「生計同一者,療養看護者に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な交渉があり,相続財産の全部又はその一部をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に被相続人と密接な関係にあった者」をいうと解されています(大阪高決昭和46年5月18日判タ278号404頁)。
上記要件の有無の判断について,東京高等裁判所平成26年5月21日決定の要旨は参考となります。
当該事案の概要は以下のとおりです。
① 特別縁故の申立者(X)は被相続人(A)の従兄妹。
② 昭和60年ころから,Aは,Aの父でありXの母の妹であるDと確執が生じて,Xが,A宅に行っても,Aが話に加わることはなくなった。
③ 平成13年ころから,Xは,Aと意思疎通を図ることも困難となった。
④ Xは,平成18年ころ,Dから,Aを頼むと依頼された。
⑤ その後,Xは,Aが死亡する平成23年に至る約5年の間に合計5回から6回程度,A宅を訪問して,A宅の害虫駆除作業,建物の修理等を行ったほか,民生委員や近隣と連絡を取り,緊急連絡先として,Xの連絡先を伝えて,時々はAの安否の確認を行っていた。
⑥ Xは,Aの死亡時には遺体の発見に立ち合い,その遺体を引き取り,被相続人の葬儀
も執り行った。
本件決定は,「Xは,Dに代わってDの葬儀を執り行っただけではなく,同人の死後は,同人の依頼に基づいて,自宅に引きこもりがちとなり,周囲との円滑な交際が難しくなったAに代わり,A宅の害虫駆除作業や建物の修理等の重要な対外的活動を行い,民生委員や近隣と連絡を取り,緊急連絡先としてXの連絡先を伝え,時々はAの安否の確認を行ったうえ,被相続人の送致も執り行ったのであるから・・・被相続人と「特別の縁故があった者」に該当すると認められるのが相当である」と認定しています。そのうえで,「本件に現れた抗告人と被相続人との縁故関係の濃淡,程度,抗告人が具体的に被相続人に対してとった行動等や,被相続人と父Bとの親痕関係の状況等を踏まえるならば,抗告人が被相続人の遺体の発見に立ち会い,その遺体を引き取り,親族として葬儀を執り行ったことや,平成24年×月×日現在における被相続人の相続財産の総額が3億7825万2012円に上るものであったことなどを考慮しても,被相続人の相続財産から抗告人に対して分与すべき財産の額は300万円とするのが相当というべきである。」としている。
本件決定で興味深いのは,Xが,5年間の間に,A宅を合計5回から6回程度訪問しただけで,特別縁故者に該当するとした点です。本件においては,Xが,Aと意思疎通が困難となった原因は,ひきこもりに象徴されるAの精神的問題にあったことが背景にあり,当該事情は,上記決定の重要な考慮要素となったものと思料されます。ただ,それでも,上記頻度の状況で特別縁故者に該当すると,単に,申立人と被相続人の交流の状況の濃淡だけで判断すべきものでないことを示しています。被相続人と申立者間に「具体的かつ現実的な交渉」があったものと認めることが困難な事案でも,特別縁故者として認める余地があるということになります。
また,死後縁故に関する事情(⑥)があったとしても,それだけで,特別縁故者とは認められないというのが通説です。しかしながら,当該決定は,生前縁故がある場合に当該事情を補強する事情として用いることは可能ということも示しています。
一方で,分与額を300万円としたことも特徴的です。財産総額の1%程度の金額しか分与するとしなかったのは,申立人と被相続人の交流が盛んではなかったことが影響しているものと思われます。
この決定からは,審判では,特別縁故者として認める範囲は比較的広くとるものの,分与金額を減額するなどして,バランスをとろうという姿勢が強いのではないかと思います。
(続く)
特別縁故者~相続人がいない場合~
1 特別縁故者とは?
特別縁故者に対する相続財産分与制度とは,相続人が不存在の場合,相続人と一定の関係(これを,「特別な縁故」といいます。)があったものに対して,特別に相続財産を取得できるようにするという制度です(民法958条の3)。
要するに,相続人がいない場合には,相続人でなくても,相続財産を取得することができる可能性があるのです。
日本では,必ずしも,遺言書を作成するという習慣が広まっていません。
一方,内縁の配偶者や事実上の養子などは,遺言書がなければ,相続財産を全く承継することができません。ただ,仮に,被相続人が,遺言書を作成していたのであれば,内縁配偶者,事実上の養子に財産を取得させようと考えるであろうという事案も少なくありません。
そこで,昭和37年の民法改正により,当該特別縁故者に対する相続財産分与制度が創設されました(当該制度創設時点では,特に,内縁配偶者の保護が強く意識されていたようです。)。
特別縁故者の申し立てを希望する場合には,まずは,相続財産清算人の選任の申立をする必要があります。裁判所が,相続財産管理人を選任して,相続財産清算人が,相続債権者等に対する弁済(民法957条),相続人の捜索の公告(民法958条)等の手続きをとり,一定期間内に,相続人としての権利を主張するものがあらわれないときに,特別縁故者として財産の分与の申立をすることができます。
当事務所では,相続財産管理人選任・特別縁故者の申立,相続人・相続財産の調査等の業務を行っております。お気軽に御連絡ください。
2 特別縁故者の範囲
特別縁故者に該当するものには,以下の3つの類型があります。相続人おらず,以下に該当するのではないかとお考えの方は,弁護士に御相談されることをおすすめします。
① 被相続人と生計を同じくしていたもの
「被相続人と生計を同じくする」とは,要するに,同一の世帯に属するということを意味します。「内縁の配偶者」,「事実上の養子」といわれるものが,これに該当します。以下,事例を紹介します。
ア 内縁の配偶者
・東京家庭裁判所審判昭和38年10月7日
30年以上にわたり,事実上の夫婦として内縁関係を結び,生活を共にし,被相続人の死後は,その葬儀を営んだ内縁の妻を特別縁故者と認定しています。
・千葉家庭裁判所審判昭和38年12月9日
20年以上にわたり,内縁の夫婦として同棲し生計を同じくし,実質は夫婦の共有財産と認められる不動産を買い求め,死後は負債の支払いもしてきたものを特別縁故者と認定しています。
イ 事実上の養子
・大阪家庭裁判所審判昭和40年3月11日
被相続人を幼少時代実父と信じて,成長後は養父として慕い,30年以上共同生活をしてきた事実上の養子
・熊本家裁天草支部審判昭和43年11月15日
約3年半,被相続人と同居の上生計を立て,相続財酸を維持管理してきた内縁の夫の養子
また,以下のとおり,おじ・おばや継親子について,「被相続人と生計を同じくしていたもの」と認定された事案もあります。
ウ おじ・おば
・岡山家庭裁判所玉野出張所審判昭和38年11月7日
被相続人と生計を同一にして,親代わりとして一切の世話をし,死後は祭祀を主宰するなどした叔父
・大阪家庭裁判所審判昭和41年11月28日
被相続人夫婦と同居し,家事一切の世話をし,農地を耕作することにより,生計の一端を担い,死後は祭祀を営んだ叔母
エ 継親子
・京都家庭裁判所審判昭和38年12月7日
被相続人名義の不動産の購入資金を半分ねん出し,被相続人の死後は相続債務や葬儀費用,固定資産税等の立て替え払いをした継母
・大阪家庭裁判所審判昭和40年12月18日
親子として同居し,生活一切を世話し,療養看護に努め,死後は葬儀を主宰し,法要供養を続けてきた継子
さらに,全く親族関係にないものであっても,「被相続人と生計を同じくしていた者」に該当するとした事例がいくつかあります。
② 被相続人の療養看護に努めたもの
家政婦や看護師など正当な報酬を得て,職業的に被相続人の療養看護に努めたものは,特別の事情にない限り,特別縁故者とは認められないとされています。
もっとも,対価としての報酬以上に献身的に被相続人の監護に尽くした場合には,特別の事情がある場合に該当し,特別縁故者として認められます(神戸家審昭和51年4月24日を参照。)。同様に,成年後見人は,被後見人の身上監護義務があり(民法858条),特別縁故者と認められるためには,成年後見人としての職務の程度を超えて被相続人の療養看護に尽くしたことが必要となります。
神戸家庭裁判所審判昭和51年4月24日は,「正当な報酬を得て稼働していた者は特別の事情がない限りは民法958条の3にいう被相続人の療養看護に努めた者とはといえず,したがって,原則としては,特別縁故者とは認めれないが,対価としての報酬以上に献身的に被相続人の看護に尽くした場合には,特別の事情がある場合に該当し,例外的に特別縁故者に該当すると解すべき」としたうえで,申立人について「2年以上者関連日誠心誠意被相続人の看護に努め,その看護ぶり,看護態度および申立人の報酬額からみて,対価として得ていた報酬以上に被相続人の看護に尽力したものであるといえる」と判示して,特別縁故者と認定しています。
③ その他被相続人と特別の縁故にあったもの
いろいろな事情を考慮して,①②に準ずる程度の密接な関係にあったものをいうとされています。審判例(大阪高裁決定昭和46年5月18日判タ278号404頁,東京家審昭和60年11月19日判タ575号56頁等)では,「その他被相続人と特別の縁故にあったもの」とは,「具体的且つ現実的な精神的・物資的に密接な交渉にあった者で,その者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあった者をいう」とされております。最近の審判例を見ますと,親族関係,血縁関係の有無とは関係なく,客観的に「密接に交渉があった者」か否かが問われている事例が多いように思います。
具体的な事例は
「特別縁故者に関する裁判例の分析➀」
「特別縁故者に関する裁判例の分析➁」
「特別縁故者に関する裁判例の分析⓷」
もご参照ください。
3 分与の金額・分与の相当性について
民法953条の3は,「清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。」と規定するだけで,特別縁故者に分与すべき具体的な財産の内容について明確に定めていません。したがって,被相続人の財産からどの財産をどの程度,特別縁故者に分与すべきかについては,縁故関係の内容,程度,特別縁故者の年齢,職業,教育程度,残存する相続財産の種 類,数量,所在等の一切の事情を考慮して,裁判所が裁量により決定するものとされています。
東京高等裁判所平成26年5月21日の決定は,被相続人の従兄を特別縁故者と認定しつつ,「実質的な縁故の程度程度が濃密なものであったとは認められない」ことなどを根拠として,相続財産合計約3億7800万円のうえ,300万円だけを分与するのが相当であると判断しています。
民法958条の3第1項は,上記①ないし③の要件に加えて,「相当と認めるとき」に,相続財産の全部または一部を与えることができると規定しており,分与の相当性を要件にしています。もっとも,一般的には,この分与の相当性判断は,上記①ないし③の要件の有無の判断の中に取り込まれることが多いです。すなわち,上記①ないし③の要件を充足して,特別縁故者に該当するということであれば,分与の相当性も認められるのが一般的です。
なお,特別縁故者に基づく分与請求があれば,請求者は分与に対する一種の期待権を有することになり,相続の対象たりうるとされています(大阪家審昭和39年7月22日)。一方,分与請求の前であれば,相続の対象にはならないとするのが一般的です。
4 特別縁故者を申立てる場合の弁護士費用について
当事務所に特別縁故者を申立てる場合の弁護士費用については,おおよそ以下の金額となります。また,申立に際して,実費が必要となります。また,そもそも,相続人がいるか分からない場合,相続財産となる財産があるか分からない場合には,相続人調査・相続財産調査等だけをお受けすることも可能です(この場合の費用は1万円から3万円程度です。)。
経済的利益の金額 | 着手金 | 報酬金 |
金300万円以下の場合 | 10万円から20万円(消費税別)程度 | 16%(税別) |
金300万円超え金3000万円以下の場合 | 10%+18万円(税別) | |
金3000万円超え金3億円以下の場合 | 6%+138万円(税別) | |
金3億円超えの場合 | 4%+738万円(税別) |
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