観護措置の取消と少年事件

2016-06-01

1 観護措置を争う二つの方法

少年事件で「観護措置がでて,鑑別所に行くことになってしまった。早く出してあげたい。どうすればいいんでしょうか。」
という質問をよく受けます(観護措置に関する一般的な説明は,少年事件の基本ページ「少年事件に強い弁護士」のQ&Aの個所をご参照ください。)。
少年事件において観護措置決定がなされた場合,その決定を争う方法には,
①異議申立(少年法17条2項)
②観護措置取消申立(少年法17条8項,少年審判規則21条)
という二つがあります。
少年事件には,成年の刑事事件における「保釈」という制度はありません。保釈金を支払って釈放してもらうということはできません。したがって,早期に身柄を釈放するための方法は,①②の申立をして,裁判所に認めてもらうしかありません。

2 異議と観護措置取消のどちらの制度が有用か? 

①の異議申立が認められるのは,そもそも観護措置決定が,要件を満たしておらず違法な場合です(要するに,観護措置決定をした時点で,罪証隠滅のおそれも,逃亡のおそれも,資質鑑別の必要性もない場合です。)。①の申し立てに対しては,観護措置を決定した裁判官とは異なる裁判官が判断をすることになります(合議体といいまして,複数の裁判官が判断します。)。ただ,①の異議申立が認められる事案は極めて少ないのが実情です。また,細かな点ですが,①の手段を用いると,事件の記録が,当該異議申立を審理する合議体にうつり,審判を担当する裁判官のもとから離れますので,その点に伴う不利益が出てくる可能性があることも事実です。

実務上は,②の観護措置取消の申立の手段が頻繁に使われており,②の手段は,①よりも有用性が高い手段ということができると思います。観護措置は,その必要がなくなったときは,速やかに取り消さなければならないとされています(少年審判規則21条)。①は,「観護措置決定の要件がない!」と主張して,観護措置自体を争う方法ですが,②は,観護措置決定後の事情や調査の結果等も勘案して,「観護措置の必要はなくなった!」と主張して,観護措置の取消を求める方法です。

現在の裁判所の運用をみる限り,逮捕・勾留がなされている事案については,原則として,観護措置の決定が下されてしまう処理がされているように思われます。観護措置決定自体は,幅広い事案で認められてしまうのが現状です。そのような中で,観護措置取消の申立は,事案に沿ったきめ細かな事情を主張して判断を促すことができる有用な手段です。
観護措置の決定が下される前に,観護措置決定をしないように求める意見書を提出したうえで,裁判官と面接をすることがありますが,そのときに,裁判官から,「事情は分からなくもないが,事案としては観護措置をとる事案だと思う。あとは,係属部と話をしてください。」という趣旨の話をされたことがあります。裁判所のほうでも,観護措置決定自体はある程度類型的に決めていくものの,観護措置取消の判断では柔軟に検討するという姿勢をとっているように思います。

なお,受験等の重要なイベントがある場合,一時的に観護措置を取消してもらい,イベント終了後,再度,観護措置をとるという柔軟な方法がとられることもあります。

3 観護措置取消を求める付添人活動

私は,観護措置取消を求める場合,すぐに,家庭裁判所で記録を閲覧して,観護措置取消を主張するために,どのようなことを重視していけばよいか検討して戦略を立てることとしております。特に,裁判所が,観護措置の要件(①証拠隠滅のおそれ,②逃亡のおそれ,③心身鑑別の必要性)のうち,どの要件を充足するものとして,観護措置決定を下したのかを把握することが必要です。また,親の身元引受書・陳述書,学校の成績表,合格証書,試験の予定表など,可能な限り,多くの添付資料をつけることも必要です。

例えば,私は,家庭裁判所が,③の要件を重視して観護措置決定を下した事案において,

(1) 精神障害や資質状の問題をうかがわれず,そもそも,心身鑑別の必要がない,あるいは乏しい
(2) (必要性がない,あるいは乏しい)心身鑑別をするよりも,学校に通学させて,環境調整をさせたほうが,少年にとってはるかに有益である。

といった事情を詳細に主張して,観護措置決定を取消してもらった事案があります。

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