保護処分歴がなく,被害金額が多額でなく,示談が成立している恐喝事件で少年院送致決定の判断がされた事案(東京高等裁判所平成29年12月21日)
この事案は,恐喝事件で少年院送致が相当であると判断された事案なのですが,以下の点が特徴的です。
①被害金額が2万1500円で,示談も成立している。
②少年には保護観察等の保護処分を受けたこともなかった。
一般論としては,①②のような事情があれば,保護観察等の処分が下される可能性も十分にありうるところであり,非常に微妙な判断だったと思います(また,少年事件でなく,成人の刑事事件であれば,執行猶予付の判決になる可能性が非常に高い事案といえると思います。)。
この審判の内容は,少年院送致をする理由について,具体的かつ丁寧に説明していて,非常に参考になります
まず,裁判所は,①について,恐喝をした経緯,動機等について,詳細に認定をしており,さらにそこから少年の共感性の乏しさ,自己中心性の大きさが看取できると判断しています。一般論としても,少年事件においては,単に,結果を見るのではなく,非行に至る経緯,動機,手口等から,少年本人の問題点を解明することが重要であると示しています。一般論としては,成人の事件では,結果が重視されます。成人の事件では,恐喝事件でいえば決定的に重要になるのは,被害金額で,一定の被害金額を超えると,実刑判決が見えてくるというようなイメージがありますが,少年事件ではそのような見通しをたてるのは困難かつ危険であるということになるかと思います。
一方,裁判所は,示談成立については,あまり高く評価していません。この点については,被害弁償等の事情は,少年の反省心や保護者の監護能力の問題として考慮されるにすぎないと考えるのが伝統的な立場であるとされているのが一般的な考え方です。被害弁償がなされているのであれば,少年が反省している,保護者の監護能力が一定程度認められるというような論法です。本件の審判では,「本件非行の上記の悪質さに照らせば,被害者との間で示談が成立したという点を少年の処遇決定に際して考慮するにも限度があるというべきである。」と判示しています。
この審判例をみてあらためて思うのは,少年事件の場合には,被害結果の軽重から少年の処遇についての安易な見通しをもつことが危険であること,非行の結果が軽くても,非行の背景を緻密に分析して,可能な限り非行の因子を取り除いておくことが極めて重要だということです。