婚姻費用と不貞の関係~不貞をしたものは婚姻費用を請求できるのか?~

2015-05-04

 婚姻費用を請求する側が不貞をしていることがあります。この場合,不貞をしていた事実が,婚姻費用の請求に影響を及ぼすことはあるのでしょうか。

 一つの考え方は,婚姻関係の破たんの原因をつくったものでも,婚姻費用分担の請求をすることができ,金額にも影響しないというものです。以前は,婚姻費用の請求において,有責性を重視しない考え方が比較的有力に主張されていたように思います。したがって,今でも,このような考え方を持っている弁護士等は少なくないかと思います。

 ただ,最近の裁判例の大勢は,有責配偶者からの婚姻費用の請求は,信義則あるいは権利濫用の見地から許されない,あるいは減額されるという考え方をとっています(例えば,大阪高等裁判所平成28年3月17日決定,東京家庭裁判所平成20年7月13日決定等の例があります。)。

 具体的に不貞の事実はどのような影響を及ぼすのでしょうか。婚姻費用は,配偶者の生活に関わる部分と子どもの生活に関わる部分に分かれますが,有責配偶者からの婚姻費用の請求ということになりますと,子どもの生活費に関する部分にだけが認められるとする裁判例等が多くなっています。

 上記の大阪高等裁判所平成28年3月17日決定は,「夫婦は,互いに生活保持義務としての婚姻費用分担義務を負う。この義務は,夫婦が別居しあるいは婚姻関係が破綻している場合にも影響を受けるものではないが,別居ないし破綻について専ら又は主として責任がある配偶者の婚姻費用分担請求は,信義則あるいは権利濫用の見地からして,子の生活費に関わる部分(養育費)に限って認められると解するのが相当である」と判示しています。

  もっとも,婚姻費用分担請求の審判等の中で,不貞を問題とすることは注意が必要になることがあります。離婚の裁判の中で,不貞を問題とするときとは異なる考慮が必要になる場合があります。

 一般的に不貞の事実認定は困難で審理に時間がかかることがあります。一方,婚姻費用分担請求をする側の人は,経済的余裕がないことも多く,場合によっては,困窮していることも少なくありません。したがって,婚姻費用分担請求に関しては速やかな判断が求められることが多く,不貞の審理をじっくりしていくこと時間がないような事件も少なくありません。そのため,婚姻費用分担請求の審理では,有責性が明白な場合にだけ,婚姻費用の請求を認めない,あるいは減額するという考え方が有力です。そのことをもって,実務上は,原則として,有責性は婚姻費用の金額等に影響を与えないという言い方をされることも少なくありません。不貞をしたものからの婚姻費用請求も事実上減額等がされずに認められていたというケースが少なくないのもこのためだと思います。

 しかしながら,上記大阪高裁の決定は,ソーシャルネットワークサービス上の通信内容からは,「単なる友人あるいは長女の習い事の先生との間の会話とは到底思われないやりとりがなされていることが認められる。」と認定してるものの,婚姻費用請求者の「有責性が明白な場合」とまで言えるかは疑問です。実際,原審では,「ソーシャルネットワークサービス上の通信において,一定程度,相互に親近感を抱いていることをうかがわせる内容のものであることが認められるが,このことをもって,申立人と本件男性講師が不貞関係あったとまで認めることはでき」ないと判示しており,不貞行為の有無自体が微妙な判断であたことをうかがうことができます。

 そうすると,原則として,有責性が婚姻費用の金額等に影響を与えないという考え方も通用しなくなっていくのではないかと思われます。そして,今後もこのような傾向が継続していくのではないかと思います。

 なお,補足ですが,養育費の金額等は,請求者の有責性が影響を与えることは基本的にはありません。

 

 

 

Copyright(c) 2014 品川総合法律事務所 All Rights Reserved.
【対応エリア】東京・神奈川・埼玉・千葉