少年事件と虞犯事件

2016-01-09

1 虞犯少年とは何か?

 虞犯少年とは,少年法3条1項3号に定められています。

 

 少年法3条1項3号

 次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照らして,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年

イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。

ロ 正当の理由ななく家庭に寄り附かないこと。

ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかたわしい場所に出入りすること。

二 自己又は他人の徳性を害するおそれのある行為をする性癖のあること

 

 虞犯少年は,現実に犯罪を行っている少年ではなく,将来の犯罪に結びつくような問題行動がある少年です。成人の場合には,現に犯罪を行っていなければ,将来の犯罪に結びつくような問題行動があっても罰せられることはありません。

 未だ犯罪を行っていないものの,将来の犯罪に結びつくような問題行動がある少年をどのように取り扱うかについては,国によって対応が分かれています。日本のように一定の枠をつくって,その枠の中にはいった少年を司法制度の枠内で対応していくところもありますし,行政による助けが必要な少年ということで虐待少年等と同じく児童福祉制度の枠の中で扱うところもあります。

 

2 虞犯少年という類型をつくるメリットデメリット

 虞犯少年を司法制度に取り込むことや少年法における虞犯の定め方には,批判もあります。

 少年法上の虞犯の制度に対する批判は以下のようなものです。

① 実際に犯罪を行っておらず,他人に危害を加えたわけでもないのに,非行の類型とするのは妥当でない。

② 将来,罪を犯したり,刑罰法令に触れたりする可能性を正確に予測することは困難。

③ 少年法の定める虞犯事由は曖昧で不当に少年の自由を制約するおそれがある。

 確かに,虞犯という概念を広げていくと,幅広く少年に処分を加えることが可能になり,少年の人権侵害を招きかねないという問題はあります。現に犯罪を行っていなくても,犯罪を行いそうというだけで処分されてしまうという危険性は理解できるところかと思います。

 もっとも,実際問題として,現に犯罪を行ってからでないと司法が介入できないということになると,少年本人にとっても深刻な事態が招来される可能性があることは否定できないところがあります。そのような少年に対して,時には強制的な措置を使ってでも少年に対する働きかけを行っていく必要があること自体は否定できないところだと思います。仮に,少年法上の虞犯を児童福祉制度の枠内に取り込むような制度をつくったとしても,少年自身の保護のために,一定の強制措置を認めることにはならざるをえないと思います。結局,現状の少年法の虞犯制度の存在自体は必要なものだと思います。

ただ,虞犯の要件を考える上では,いろいろな問題があり,虞犯制度の危険性等を踏まえて虞犯の要件等を考えていく必要があるかと思います。

 

3 虞犯の要件

 虞犯の要件は,少年法3条1項3号に定められたイから二までの事由(これを虞犯事由といいます。)のどれかに該当し,かつ,性格又は環境に照らして,将来,犯罪,触法行為をするおそれのあることです(将来,犯罪等をするおそれがあることを虞犯性といいます。)。

 問題となることが多いのは,虞犯性です。虞犯性は,将来,犯罪等をするおそれのあることをいいますが,実務上は,単なる推測ではなく,経験則に基づき高度な蓋然性があることを意味するとされています。

 また,虞犯事由と虞犯性の関係ですが,虞犯事由が認められるのであれば,虞犯性があることも推認されるという見解もあります。もっとも,実務上は,虞犯事由があるからといって,直ちに虞犯性が認められるというような処理はされておらず,虞犯事由以外の幅広い事情から虞犯性の有無を判断するのが一般的かと思います。

 上記のとおり,虞犯制度は,少年に不必要な権利制約を加える危険性があり,それを避けるためにも,虞犯性の要件は厳密に考えるべきと思われます。

 

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