親子とは?

2014-02-04

・生物学的親子関係と法律的親子関係

いくつか親子関係に関するコラムが続きました。

ところで,そもそも,親子とは何でしょうか。多くの人は,「血のつながりがあること」と回答すると思います。「血のつながりがあること」という意味での親子関係を,ここでは,生物学的親子関係ということにします。実は,この生物学親子関係は,法律上親子関係が認められる場合(これを法律的親子関係ということにします。)は,必ずしも,一致しません。

・生物学的親子関係はあるけれど法律的な親子関係でない場合

まずは,生物学的親子関係ではあるけれど,法律的な親子関係でない場合とはどのような場合があるでしょうか。いわゆる認知を受けていない婚外子(非嫡出子)の父子関係はこれに該当します。

例えば,未婚のAさんがBさんの子(生物学的な子)Cを出産した場合を考えてみます。この場合,AさんとCさんの母子関係は,分娩の事実により当然に発生します(Aさんが,Cさんを認知することなく,母子関係が発生します。)。一方,認知という手続がない限り,BC間に法律的な親子関係は発生しません。Aさんが,Bさんに対し,Cと生物学的親子関係が認められるというDNA鑑定結果を持っていって,親子なのだから養育費を支払えと主張しても,そのような主張は認められません。Aさんとしては,まず,Bさんに認知をしてもらうか,あるいは,強制的に認知をさせて(要は,裁判をして),法律的親子関係を発生させ,養育費を支払わせるという手続をとる必要があるのです。つまりこの場合,

生物学的親子関係+認知=法律的親子関係

という関係が成り立つのです。

・法律的な親子関係ではあるけれど生物学的には親子関係がない場合

それでは,逆に法律的な親子関係ではあるけど,生物学的親子関係はない場合とはどのような場合があるでしょうか。まず思いつくのが養子縁組をした場合で,これは分かりやすいと思います。

さらに,嫡出子の場合,父子関係が争える要件が限定されていることとの関係で,生物学的親子関係は認められないけれども,法律的な親子関係がある状態が継続するということがありえます。

例えば,以下のような設例で考えてみたいと思います(民法Ⅳ・内田貴176頁をベースにした事案です。)。

設例

春子は夏夫と結婚後,会社勤めを始めたが,職場の同僚冬彦と情交関係を持つようになった。やがて春子は冬彦の子と思われる長男太郎を出産したが,夏夫が自分の子であると信じて喜んでいたので,打ち明けられなかった。やがて,春子と夏夫は不和になり,太郎の親権者を春子と定めて協議離婚をした。離婚後,太郎の出生後10年余りたってから,夏夫は,太郎が,自分と似ていないと思うようになり,DNA鑑定を行ったところ,太郎と自分の間に生物学的親子関係は認められないという鑑定結果を得た。

問題の焦点は嫡出否認の訴えという制度です。

婚姻中に妻が妊娠した場合,その子は夫の子である蓋然性が高いため,夫の子であると推定されます(民法772条1項)。つまり,上の事例では,太郎は,冬彦の子であると推定されます。太郎のように,嫡出子であると推定される子を推定される嫡出子といいます。もちろん,上の事例のように,推定される嫡出子だからといって夫の生物学的親子であるとは限りません。

それでも,推定される嫡出子と夫の法律的な親子関係を覆すためには,嫡出否認の訴え(民法774条,775条)という特別な制度を利用する必要があります。これ以外の方法で,推定される嫡出子と夫の法律的親子関係を覆す手段はありません。

それでは嫡出否認の訴えというものは,どのような制度でしょうか。関連する条文を見ていきたいと思います。

 

第772条の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる。

 

民法775条

前条の規定による否認権は,子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。・・・

 

民法776条

夫は,子の出生後において,その嫡出であることを承認したときは,その否認権を失う。

 

民法777条

嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。

 

つまり,少なくとも条文上は

◇嫡出否認の訴えは,父しか提起できない。

◇父が嫡出子であることを認めてしまったら,嫡出否認の訴えを提起することができない。

◇嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知った時から(ただし,この点については争いがあります。最近は,他人の子であると知った時から起算するという解釈をとる裁判例も少なくないようです。),1年間の間だけ提起することができる。

と読めるのです。すなわち,以上のような嫡出否認の要件に該当しないのであれば,嫡出否認の訴えを提起することができず,したがって,夫と子は生物学的親子関係がなくても,法律的親子関係があるという状態が続いていくのです。

設例の事案でいえば,少なくとも,夏夫が,太郎との間で生物学的親子関係がないと認識したときから1年以上経過すると,夏夫は,親子関係を争うことができなくなり,夏夫,太郎は法律的な親子であるという状態が継続していくことになるのです。

ここまでは,これまでの一般的な考え方でした。ただし,最近では以上のような考え方とは異なる考え方も有力になってきています。この考え方は,端的に言えば,DNA鑑定等により,生物学的親子関係が認められないのであれば,法律的親子関係を覆すことを認めるべきだというものです。今後のことは何ともいえませんが,裁判所は,このような生物学的親子関係の有無を重視した判断に傾きつつあるという気がします。

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