離婚慰謝料(不貞を理由として慰謝料を請求する場合)の金額
離婚事件において,一方が,相手方の不貞行為により,婚姻関係が破たんし離婚を余儀なくされたとして,慰謝料を請求することがあります。実務上は,不貞を理由とする,離婚慰謝料の金額がクルーシャルな問題となることが非常に多いです。私自身,法律相談において,不貞を理由とする慰謝料の客観的な相場を教えてほしいと聞かれることがあります。
不貞慰謝料の金額は,明確な相場があるわけではなく,結局は,個別具体的な事情を総合的に考慮して決定されます。もっとも,個別具体的な事案において,想定される慰謝料の金額について,ある程度の幅をもって示すことは可能ですし,また,離婚慰謝料の金額を算定するにあたり,どのような事情がどの程度考慮されるかということを示すことも可能です。
近時,「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」(ケース研究322号26頁以下)という論考に,上記の点について詳細な記載があります。当該論考は,平成24年4月から平成25年12月までの間の東京家庭裁判所で終局した離婚事件(不貞慰謝料については44件)を対象としており,比較的近時の相応の分量の裁判例が研究対象とされていること,和解や認諾ではなく判決によって判断が示された事件で,しかも,当事者双方が慰謝料の支払義務,およびその金額等について積極的に争われた事件等を対象としており,裁判所の考え方を推察することができるという点で,非常に貴重な論考です。
上記44件のうち,認容件数は29件で,平均認容額は223万円だったようです。一般的な弁護士も,離婚慰謝料(不貞)の平均的な金額を「200万円くらい」ととらえていることが多いかと思いますので,上記数値は弁護士の感覚にも合致しているように思います。
また,上記認容事案のうち,慰謝料金額がもっとも高額だったのは,700万円(1件)で,当該事案も含めて,300万円を超える金額となったのは,29件中4件(約13%)だけのようです。一般論として,慰謝料金額が高額な事案よりも,低額な事案のほうが和解等でまとまりやすいのではないかと推測されますので,実際上は,上記300万円を超える金額が認められる事案の割合はさらに低くなるものと思います。
300万円を超える事案がかなり特殊なものであり,一般的な事例においては,このあたりの金額が限界になることがうかがえます。
逆にいえば,300万円を超えた4件の内容が,どのような事案であったかが興味深いところです。
上記論考では,高額の慰謝料が認められた事案について,以下の要素があったと説明をしています。
① 不貞期間が長い。
② 不貞相手が複数いる。
③ 不貞発覚後の被告の対応が悪い。
④ 婚姻後の同居期間が長い。
⑤ 未成熟子がいる。
⑥ 当事者に経済力がある。
判決により,300万円を超える金額の認容するためには,上記事情について十分に主張立証していくことが必要になるものと思われます。