少年事件の捜査~成人の刑事事件の捜査との違い~
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1 犯罪少年に対する捜査の原則
少年(以下,犯罪少年の意味で用います。)の被疑者に対する捜査と成人の被疑者に対する捜査はどういった違いがあるのでしょうか。
少年法40条は,以下のとおり規定しています。
「少年の刑事事件については,この法律で定めるものの外,一般の例による。」
「一般の例」というのは,要するに,刑事訴訟法,刑事訴訟法規則等により規定されている成人の捜査に関する規定のことです。少年の刑事事件の捜査については,少年法で特別の規定がない限り,成人の事件と同一に処理をされていくことになるのです。
2 勾留ができる要件の特則など
少年法には,勾留に関して特別な規定があります。
少年の被疑者について逮捕・勾留される可能性があることは,成人の被疑者と変わりはありません。勾留の要件は,刑事訴訟法60条に記載されています。要するに,証拠隠滅か逃亡のおそれがある場合に勾留されることになっています。
もっとも,心身ともに未熟な少年に対して逮捕勾留することは可能な限り回避することが望ましいのです。
そのため,少年法は勾留に関して以下の特則を定めています。
少年法48条
1 勾留状は,やむを得ない場合でなければ,少年に対して発することはできない。
2 少年を勾留する場合には,少年鑑別所にこれを拘禁することができる。
3 (略)
上記のとおり,少年にとって勾留が心身に及ぼす悪影響が大きいこと,また,後記のとおり少年については「勾留にかわる観護措置」という手段をとることができるため,少年については,「やむを得ない場合でなければ」勾留することができないとされているのです。
「やむを得ない場合」とは,施設上の理由(少年鑑別所は基本的に家庭裁判所の本庁所在地にしかなく定員も限られている。すでに定員が満員になっている場合には,「やむを得ない場合」と判断される。),少年の資質(年齢,非行歴,性格等から成人と同様に勾留しても弊害がない。),事件の内容(重大事件や事案の複雑な事件の場合には,捜査をする必要が高いので,「やむを得ない場合」に該当することが少なくない。)等の事情を総合的に判断して決定するものとされています。
ただ,実務上は,「やむを得ない場合」という規定が非常に緩やかに解釈されている印象を持ちます。少年事件であっても,成人の刑事事件とほぼ同じような基準で勾留が認められてしまっているといっても過言ではないと思います(もちろん,成人の刑事事件では勾留されるであろう事件について,逮捕後,勾留を経過せずに,家庭裁判所に送致をされて鑑別所に収容されるような事件もあります。)。
また,「やむを得ない場合」として,勾留が認められたとしても,裁判官の判断により,勾留場所を警察署ではなく,少年鑑別所とすることも可能です。
それでは,どのような場合に勾留場所を少年鑑別所とすべきでしょうか。
一般的には,「少年の勾留場所の選定についても,裁判官の合理的裁量によることになるが,根本的には少年の人権への配慮と捜査の必要性との総合考慮によって決定すべきである。・・・一般的な基準としては,16歳未満の少年・・・前歴のない少年,精神的発達の遅れが目立つ少年など,被影響性の強い少年については,少年鑑別所に勾留する方が適当である。」(注釈少年法[第3版]458頁 田宮裕・廣瀬健二編)とされています。
3 勾留に代わる観護措置とは?
また,少年法は「勾留に代わる観護措置」という制度をもうけています
検察官は,勾留の要件が備わっている場合,裁判官に対して,勾留に代えて観護措置の請求を行うことができます(少年法43条1項)。
勾留と「勾留に代わる観護措置」は,以下の点で異なるとされています。
① 警察署ではなく,少年鑑別所に収容される。
② 勾留は延長することができるが,勾留に代わる裁判は延長することができない。
ただ,この「勾留に関する観護措置」という制度は,一部の地域を除いて,利用されることは非常に少なくなっています。
4 犯罪捜査規範の特則
結局,刑事訴訟法等の法律上は,少年の捜査と成人の捜査では大きな違いがないのですが,刑事訴訟法等の法律の運用上は,少年の健全な育成を目的とする少年法の理念に服するべきものとされています。そのような理念を具体化するために.国家公安員会規則の犯罪捜査規範の中で,少年の刑事事件の捜査の心構え等が規定されています。
例えば,以下のような規定があります。
犯罪捜査規範 203条
少年事件の捜査については,家庭裁判所における審判その他の処理に資することを念頭に置き,少年の健全な育成を期する精神をもって,これに当たらなければならない。
犯罪捜査規範 204条
少年事件の捜査を行うに当たっては,少年の特性にかんがみ,特に,他人の耳目に触れないようにし,取調べの言動に注意する等温情と理解をもってあたり,その心情を傷つけないように努めなければならない。
犯罪捜査規範 207条
少年の被疑者の呼び出し又は取調べを行うに当たっては,当該少年の保護者又はこれに代わるべき者に連絡するものとする。ただし,連絡をすることが当該少年の福祉上不適当であると認められるときは,この限りでない。
犯罪捜査規範 208条
少年の被疑者については,なるべく身柄の拘束を避け,やむを得ず,逮捕,連行または護送する場合には,その時期及び奉納について特に慎重な注意をしなければならない。
また,「少年警察活動推進上の留意事項について(依命通達))」という通達では,少年の被疑者の取調べを行う場合においては,やむを得ない場合を除き,少年と同行した保護者その他適切な者を立ち会わせることに留意するものとされています。
もっとも,以上のような犯罪捜査規範や通達に沿った運用がされているか多分に怪しいものがあります。私の経験上も,上記の通達を根拠として,少年の取調べに立ち会いたいと交渉することがありますが,認めてもらえないことが大半です。
★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
少年事件に強い弁護士