少年事件の取調べ~傾向と対策~
1 少年の被疑者の取調べと成人の被疑者の取調べ
少年の被疑者の取調については,刑事訴訟法や少年法に特別な規定はありません。ですので,成人の事件と同じように行われます。
もっとも,一般的に,少年は,被暗示性・迎合性が高く,意に反する供述調書が作成される可能性が高いといわれています。また,特に否認事件では,いまだに,捜査機関によって脅迫的・威圧的な取調べが行われることもあります。
少年事件の場合,供述調書が作成されてしまうと,あとで,供述調書に記載された内容を争うことは非常に困難となります(成人の事件も同様ですが,少年事件の場合,捜査機関が作成した記録は全て家庭裁判所に送付され,証拠として採用されることに制限はないので,成人の事件にも増して,供述調書の内容を争うことは困難となるということがいえると思います。)。
2 少年の取調べに対する対応
私の場合,少年事件で問題のある調書が作成されないように,いくつか工夫をしております。以下はその一部です。
① 接見回数を増やす!
とにかく,接見回数を増やして,少年に対して供述調書の重要性,問題のある供述調書が作成されてしまうと,取り返しのつかない可能性があること,捜査機関の取調べの方法を繰り返して説明することが重要です。また,捜査機関の言動,取調べの状況等を逐一把握することも欠かせません。特に,否認事件の場合は,毎日,接見に行くことを基本としています。
② とにかく分かりやすい表現をする!
少年の場合,成人と比較して,法律的な用語に対する理解が不足している可能性がありますので,とにかく,少年に対して,法律用語を丁寧に説明することが必須になります。
例えば,以下の事案で考えたいと思います。
・少年が,被害者に対して,包丁で切り付けた。
・被害者は,負傷したものの,一命はとりとめた。
・少年が,殺人未遂罪の被疑事実で逮捕・勾留された。
・少年は,殺すつもりはなかったということで,殺意を否認している。
この場合,弁護人が,少年に対して,「取調べでは,殺意は否認してください。」と説明するだけでは著しく不十分だと思われます。
そもそも,殺意(殺人の故意)とは,被害者が死亡すると認識して,その結果を認容する心理状況とされています。
例えば,
「殺してやると思って,切り付けてしまいました。」
と記載された供述調書は,当然,殺人の故意を自白したということになります。
さらに,
「死なないかもしれないと思ったし,死んでしまうかもとも思ったけど,結局,どうなってもいいと思って,切り付けてしまいました。」
と記載された供述調書も,殺人の故意を自白した供述調書になってしまいます(専門的には「未必の故意」を自白したということになると思います。)。
このような内容でも,被害者が死亡すると認識して,その結果を認容してしまっていることになっておりますので,殺人の故意がある記載になってしまっているのです。
単に,少年に対して「殺意を否認してください」というだけでは,後者のような供述調書が作成されるのを防止することはできません。内容的にも一読しただけだと意味をとりにくいので,少年が,よく分からないまま,供述調書に署名,指印をしてしまうことも十分に考えられます(例えば,少年が,「死なないかもしれないと思った。」と記載されているから問題ないと考えて,署名,指印してしまうことはありうることだと思います。)。
そのため,少年に対して,殺人の故意とは何かを具体的かつ丁寧に説明したうえで,捜査機関が調書に記載しそうなストーリーを想定して,捜査機関が作り出しそうな文言を考えながら話をする必要があると思います。
③ 黙秘の練習!
少年にも黙秘権が保障されていることは当然です(憲法38条1項,刑事訴訟法192条1項)。そこで,必要に応じて,少年に対して,黙秘をすすめることがあります。
もっとも,単に,取調べにおいて,黙秘をするということは,想像以上に困難です。捜査機関が,事件に関係のある話,ない話を交えながら,様々な話をしていく中で,少年が黙秘を貫くことは非常に難しいものがあります(実際に,屈強な成人の被疑者であっても,簡単に,黙秘できなくなってしまうケースは何度も見てきています。)。
そこで,私の場合は,黙秘をすすめる場合,私が警察官になりきって,少年と一緒に黙秘の練習をすることがあります。少年に,「黙っている」ことを経験させるのです。
また,捜査機関は,少年の取調べの状況や少年の言動・態度などを(例えば,「少年はふてくされた態度をとっていた。」など),捜査機関の主観を交えながら,報告書等(「取調状況報告書」という名称がつくことが多いです。)に記載することがあります。必要以上に変な報告書が作成されないようにするためにも,黙秘をするにしても,「練習」が必要になってくるのです。
3 最近の傾向
最近の傾向としては,検察に送致されて一番最初に作成する弁解録取書で,かなり詳細な事実関係を記載することがあるといわれています。勾留後は,被疑者国選弁護人制度が定着したため,勾留後は弁護人が選任されることが一般的ですので,検察としても,弁護人が介在する前に,詳細な自白をとっておきたいと考えているといわれています。そのため,とにかく,時間との戦いということを肝に銘じて,少しでも早く,接見に行くようにしています。
★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
少年事件に強い弁護士