Archive for the ‘少年事件のコラム’ Category

年齢切迫の少年事件

2015-01-31

少年事件で,家庭裁判所送致時,少年の20歳の誕生日が迫っている場合を「年齢切迫」といいます。

少年事件として,少年法の対象となるのは「少年」です。そして,「少年」とは,20歳に満たないものをいいます(少年法2条,3条1号)。そこで,少年が少年審判前に20歳になれば,もはや少年法の対象外となりますので,家庭裁判所は,年齢超過として事件を検察官に逆送しなければなりません(少年法19条2項)。一方,少年が20歳になるまでは,家庭裁判所が少年事件として審判をすることができます。ただ,少年が20歳になっていなくても,「年齢切迫」案件の特殊性から,家庭裁判所が,検察官に逆送することがあります。
「年齢切迫」案件の逆送には,
①20歳の誕生日が間近であり実質的な調査を行う時間が少ない場合,すなわち,実質的な調査を行っていると20歳の誕生日を迎えてしまう場合
及び
②そのような状況にはなくても(「年齢切迫」であるが,審判までに20歳の誕生日を迎えることが明らかとまではいえない場合),様々な事情を考慮して起訴が相当であると家庭裁判所の裁判官が判断した場合
があります(①②は,厳密にいうと,少年法20条の刑事処分相当逆送に該当します。)。20歳になっていなくても,「20歳の誕生日が迫っている」という事情等をも考慮して,刑事処分が相当として検察官に送致されることがあるということです。

逆送後,少年は,成人と同様な手続を受けることになります。逆送されると少年は原則として刑事裁判を受けることになり(刑事処分が相当として逆送された事件については,犯罪の嫌疑が有る限り,検察官は原則として起訴をしなければなりません。少年法45条5号本文),前科がつく可能性があります(少年審判の決定は前科として扱われません。)。また,少年が,少年法に基づく,教育的な処遇を受ける機会がなくなり,場合によっては,少年の更生という観点から好ましくない結果となる可能性があります。そこで,「年齢切迫」の案件を受任した弁護士は,迅速に手続をすすめて,20歳に達する前に終局的な審判が得られるよう,裁判所に働きかける活動をすることがあります。
もっとも,一方で,刑事裁判を受ければ,執行猶予付の判決になることが確実であるが,少年審判であれば少年院送致になる可能性が相当程度あるという事案もあります(薬物犯罪等が多いです。)。このような事案では,かえって,刑事裁判を受けることを希望される方もいることも事実であり,方針については綿密に協議をする必要があります(年齢切迫の関係でお悩みの方は,メールでの御質問も受け付けておりますので,「お問合せ」から御連絡ください。)。

また,一度,逆送されたとしても,裁判所(刑事手続が係属している裁判所)が,刑事処分(懲役,罰金等)を科すよりも,少年法上の保護処分(保護観察,少年院送致等)を科すことが相当であると判断した場合には,家庭裁判所に移送することも稀にあります(少年法55条)。逆送後の刑事公判において,当該決定が下された場合には,事件は家庭裁判所に移送されて,少年審判が開かれて処分が決定されることになります。

例えば,福岡地方裁判所小倉支部平成26年3月27日の決定は,上記②を理由として逆送された19歳の少年について(窃盗犯),再度,家庭裁判所に移送すべきかが問われた事件です。当該決定は,①保護処分の許容性,②保護処分の有効性という二つの側面から詳細な検討を加えており,少年法55条移送の適否を判断するうえ参考になります。当該決定は,①被害回復がされていること,3万円の贖罪寄付がされていることから,刑罰ではなく保護処分を選択することが,社会的に許容されるものであること,②被告人を更生させるためには,十分な矯正教育を行いままで刑事罰を科すよりも,強力な枠組みの中で専門家による指導監督のもと,事故の問題点に真摯に向き合わせ,就労に向けた技術や技能を習得させるべく,緻密な矯正教育を施すこととが有効であると判示しています。
当該決定においては,少年が,同種の窃盗行為を多数繰り返してきたことが認められ,本件犯行が常習的なものといえると認定しつつ,「現在19歳という被告人の年令からすると,今回が被告人を教育する最後の機会であると考えられる。」と判示しており.少年法における保護処分の価値を高く評価していることが特徴的です。

 

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
     少年事件に強い弁護士

 

警察学校相互連絡制度と少年事件について~非行や犯罪を学校に秘密にするということ~

2014-09-13

少年事件では,少年が非行や犯罪をして,警察から取調を受けている場合,警察が,少年の通学している学校に対して,連絡をすることを心配される方がいます。特に,学校に事件のことが知られておらず,もし知られてしまえば,退学等の処分が下される可能性が高い場合,状況により,できるだけ学校に知られることのないようにするべく対応していく必要があります。

警察から学校に事件の情報が伝わるルートとしては,「警察学校相互連絡制度」に基づく警察から学校への情報提供があります。
この制度は,児童生徒の非行や問題行動に対して,早期に発見,対応して,犯罪被害防止するために,都道府県の警察本部と教育委員会が協定を結び,警察と学校が相互に連絡を取り合うという制度です。

東京都教育委員会は,平成16年に警視庁とこの協定を結びました。その後,区市町村の教育員会も同じ内容の協定を結ぶようになり,私立学校の中にも警察と同じ内容の協定を結んでいるところがあります。

協定では,警察が,学校に対して,

① 逮捕事件

② ぐ犯事件

③ 非行少年等及び児童・生徒の被害に係る事案で警察署長が学校への連絡の必要性を認めた事件

について連絡をすることになっており,

学校は,警察署に対して,児童生徒の暴力行為等の非行問題,児童生徒が犯罪に巻き込まれたり,被害者となることを防ぐために,警察の協力が必要な場合等,その他,学校長が警察へ連絡することが特に必要と判断する場合等に連絡をすることになっています。

この制度によると,警察は,事前に少年や保護者に連絡をすることなく,学校に事件の情報を伝えてしまいますので,学校に事件のことが知られていない少年にとっては大きな脅威となります。警察の広範な裁量のもと,少年のプライバシー情報が学校に連絡をされる制度になっている点も問題だと思われます。

少年は,いろいろなところでつまずきながら成長していくものです。仮に,少年が非行を犯してしまった場合であっても,できる限り,適切な教育的働きかけをして,少年を正しい道を進ませることは,本来の学校の使命の筈です。「適切な教育的働きかけ」がどのような内容になるかは,ケースバイケースですが,当然,少年を安易に退学に追い込むものではなく,在学させたうえで指導するということになることも少なくないと思います。学校側が,事案に応じて,適切な判断をしてくれるのであれば,非行の事実を学校に隠す必要はなく,むしろ,学校側に積極的に伝えたうえで,一緒に今後のことを考えた方がよいということになります。しかしながら,実際には,非行をして逮捕されてしまうと,それだけで退学をさせようとする学校も少なくないのが現実です。このような現実を考慮しますと,学校に非行や逮捕の事実を知られないようにするという活動が必要になる場合もあります。学校を休む必要がある場合には,学校に対してどのように申告するかは問題となります。学校側で予想される対応や少年本人の気持ちを勘案して決めていくしかないと思います。

警察・学校相互連絡制度が導入されていても,警察は,対象となる事件全てを機械的に学校に連絡をしているわけではないとされています。そこで,学校への連絡を避けるべき事情がある場合には,弁護人は,早期に警察署に対して,警察・学校相互連絡制度に基づく連絡を避けるよう申し入れを行う活動をすることがあります。ただし,このような活動が功を奏するかは分かりません。私の経験上は,このような活動をしても,徒労に終わるという確率が少なくないと考えています。もっとも,教育委員会によっては,当該制度の運用についての指針を作成して,警察から受けた連絡内容だけを根拠として,少年に不利益な措置がとられないようにすることを定めているところもあるようです。実際に,当該制度により学校に対して連絡が避けられないという場合もありますので,その場合には,教育委員会の指針等も確認したうえで,学校と話し合いをする必要があるかと思われます。

なお,本協定は,警察署と各教育委員会を単位として締結されるものですので,例えば,埼玉県内の警察署が,東京都内の学校に上記事項の連絡をするということはないものと考えられます。

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
少年事件に強い弁護士

少年事件における観護措置の要件と「ショック療法」

2014-05-15

観護措置とは,少年事件において,家庭裁判所が,事件を受理してから最終的な決定を行うまでの期間,少年の身柄を保全するとともに,少年の心身を鑑別する必要があると判断した場合,最終的な決定まで,暫定的に少年を保護するための措置です。

観護措置には,家庭裁判所調査官の観護に付する措置(少年法17条1項1号)と少年鑑別所で身柄を拘束する収容観護の2種類があります。しかしながら,実務上,前者はほとんど行われておらず,観護措置は後者の収容観護を指すのが一般的です。

観護措置の要件は,①審判条件があること,②少年が非行を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること,③観護措置の必要性が認められることです。

実務上,クルーシャルな問題となるのは,③の要件です。一般的には,③は,①´証拠隠滅のおそれ,逃亡のおそれがあるため身柄を拘束する必要があること,②´緊急的に少年の保護が必要があること(自傷,自殺のおそれがある場合,家族から虐待のおそれがある場合等),③´少年を収容して心身鑑別をする必要があることのいずれかに該当する場合に認められるとされています。

以上の要件に該当しなければ,観護措置決定を行うことができないとするのが一般的な考え方です。

しかしながら,実務上は,非行に対する懲罰として,社会から隔離して,鑑別所に収容することで,少年を反省させるという,いわゆる「ショック療法」とすることを目的として,観護措置決定がなされているのではないかと思われる事案がないわけではありません。

私自身,付添人として,裁判官と面会した際に,裁判官から,「鑑別所に行ってもらって,反省させたほうがいいでしょう。」というようなニュアンスのことをいわれたことがあり,「ショック療法」という考え方が,根強く残っていると実感したことがあります。また,「少年鑑別所における観護措置の意義」(白鵬法学創刊号)によると,付添人経験がある弁護士を対象に,「ショック療法」を重視することについての見解を聴取したところ,13%の弁護士が,「賛成」「やや賛成」と回答したとのことです(ただし,20年以上前の調査です。)。

確かに,「結果として少年鑑別所の処遇が教育・治療的な機能を果たすことは望ましいことであり,一定期間社会から隔絶することにより,少年に対し,事故を見つめ直す機会と場を与え」(注釈少年法[第3版]田宮裕・廣瀬健二[編]169頁)ることは望ましいことと思いますし,実際に,そのような効果がみられる事案もあります。もっとも,あくまで観護措置の要件は,上記のとおりであり,懲罰的な「ショック療法」のみを目的とする観護措置は許されないことは当然のことで,付添人の立場から厳重にチェックをする必要があると考えています。

少年事件における観護措置の期間(少年鑑別所に収容される期間)

2014-05-05

 観護措置の期間は「原則」2週間です。ただし,特に継続の必要がある場合,決定により1回更新(2週間を加算)することが可能とされています(少年法17条3項,4項本文)。実務上は,ほぼ間違いなく更新がされますので,観護措置の期間は基本的に4週間となります。少年事件の観護措置の期間は,成年の刑事事件における起訴後勾留(原則2か月で1か月ごとに更新でき,しかも,更新回数に制限がない。)と比較すると,相当短くなっているということができます。少年法は,長期間の身柄拘束が,少年の心身に悪影響を与えることに考慮したものです。

 もっとも,少年事件における観護措置の場合にも一定の要件を満たせば,観護措置の期間の更新を,さら追加してもう2回行うことが認められます。要件は,①死刑,懲役,禁固に該当する罪の事件において,②その非行事実に認定に関して証人尋問,鑑定,検証を行うことを決定したもの,またはこれを行ったものについて,少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由があることです。この制度は,特別更新と呼ばれているもので,非行事実が激しく争われ,多数の証人を取り調べる必要がある事案において,4週間という期間内に証拠調べを実施することは困難ということから平成12年の改正法で採用されたものです。

 近年では,複雑な事件について非行事実が激しく争われる事件が増加し,また,検察官関与事件の対象が拡大したこともあり,観護措置の特別更新がされる事例が増加しているといわれています。
  
しかしながら,一方で,安易な観護措置決定の特別更新がされる事例もあるといわれています。基本的には,付添人,検察官,裁判所が格段の努力をして,可能な限り,4週間以内に審理を遂げて,終局決定をすることを目指すべきです。その意味で,証人尋問等が実施されたから,特別更新をするのが当然であると考えるのは適切ではないと思います。もっとも,この点については,  付添人となる弁護士側の努力も欠かせないところだと思われ,少年の身体拘束を短くするという使命を強く思う必要があるかと思います。
  一方で,成人の刑事事件においては,起訴後勾留期間に制限はないので,少年事件において8週間という観護措置の期間を設けること自体に無理があるとする見解もあります。「実際の特別更新事例の実情及びその検討結果・・・からも窺えるように家庭裁判所や関係者の運用上の努力には限界があり,観護措置期間(8週間)内に終局決定に至ることが困難な事例が生じることは避けられないこと・・・観護措置期間内に終局決定に至ったとしても,実際上の使用や不都合が生じうること・・・などから,更なる観護措置期間延長の手当ても検討すべきである。」としたうえで,さらに,次善の策として,「検察官送致決定の弾力的な活用」を提言する見解もあり(注釈少年法[第三版]田宮裕,廣瀬健二[編]),立法面,運用面のいずれからも注視が必要になるかと思われます。

Newer Entries »
Copyright(c) 2014 品川総合法律事務所 All Rights Reserved.
【対応エリア】東京・神奈川・埼玉・千葉