少年事件で保護観察の遵守事項に違反して少年院に送致された事案

2015-05-07

 保護観察(保護観察一般の説明については,少年事件のページ「少年事件に強い弁護士」のQ&Aのコーナーや保護観察について(少年事件)をご参照ください。)の遵守事項に違反した少年について,少年院に送致されるのは,以下の要件がある場合です(少年法26条の4第1項)。

(1) 保護観察を受けた少年が遵守事項を守らない。

(2) 保護観察所の所長が警告をしても,遵守事項を守らない。

(3) 遵守事項違反の程度が重い

(4) 保護観察によっては,少年の更生改善を図ることができない。

 (1)(2)はある程度客観的に明らかになることなので,判断が難しいのは(3)(4)です。

 (3)の要件については,遵守するよう警告を受けた遵守事項の内容(遵守事項の違反に対して最終的に少年院送致の措置をとることが妥当な内容であるか),遵守事項を遵守しなかった理由及び態様(どの程度違反が継続しているか,どのような程度社会に危険があるか),保護観察所長が実施した指導監督及び保護者に対する措置の内容並びにこれらに対する少年及び保護者の対応の状況等の具体的な事実を総合的に考慮して決定されるものとされています(平成20年5月9日法務省保観325号矯正局長・保護局長依命通達「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務の運用について」を参照)。

 (4)の要件については,保護観察所所長の警告の後の少年の改善更生の意欲,及び行状の変化,警告に係る遵守志向を遵守しなかった後の環境の変化,保護観察を継続した場合に期待できる効果等の具体的事実を総合的に考慮して決定されるものとされています(上記通達を参照)。

 東京家庭裁判所平成27年9月1日の少年審判は,保護観察中の19歳の少年に対する少年院送致の申請について,少年を少年院に送致すると決定した事案で,(3)(4)をどのように認定をしていくかということを考えるうえで,参考になります。

 事案の概要は以下のとおりです。

①少年は,平成24年ころ,保護観察の審判を受けた(インターネットを通じて知り合った友人の財布や原動機付自転車を窃取,別の被害者の携帯電話を損壊,父親から現金3万円を詐取)。

②保護観察の一般遵守事項には,
・再度犯罪をすることがないよう,または非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること,
・保護観察官及び保護司による指導監督を誠実に受けること、保護観察官または保護司の呼出しまたは訪問を受けたときは,これに応じ,面接を受けること,
・保護観察に付されたときに保護観察所の長に届け出た住居または転居することについて保護観察所の長から許可を受けた住居に居住すること,
・転居または7日以上の旅行をするときは,あらかじめ,保護観察所の長の許可を受けること
などが設定されている。

③平成26年,少年は,現金1万1000円が入った財布等を窃取。

④平成27年,少年は,保護観察所の長の許可をうけることなく,7日以上の家出を行い,さらに,繰り返し家出を行い,保護観察官から,保護観察所へ出頭するよう命令を受けたものの,これに応じなかった。

⑤保護観察所所長が,上記遵守事項を遵守するように警告した。

➅それでも,少年は,家出をして,保護観察官からの出頭に応じなかった。

 

 上記事案において,東京家庭裁判所は,上記の経緯に照らすと,「少年が遵守事項を遵守せず,警告を受けたにもかかわらず,なお遵守事項を遵守せず,その程度が重いと認められる」と判示して,上記(1)(2)(3)の要件を満たすと判断しました。

 また,「少年が3年にわたり保護観察の指導を受けながら,これを真に受け止めず,家出を繰り返したり職を転々とする中で,置き引き・・・友人との間の金の貸し借りの問題を起こした上,これらの処理に父母を任せるなどし,父母との信頼関係を破壊してきたこと等に鑑みると,少年が抱える資質上,性格上の問題性は根深いものといわざるをえない。父母は,少年に対する観護の意欲を示すものの,これまでの経緯に照らすと,親子関係の改善は容易ではなく,現時点ではその監護力に多くを期待することができない。」と判示して,上記(4)の要件を満たすと判断しました。

 本審判は,保護観察所の所長の警告後においても,少年の行状の変化がなく,環境の改善,特に,両親との関係の改善も見られないこと,3年間の保護観察期間において保護観察の実を上げることができていないことなどを重視して(3)の要件を認定したものと考えられます。逆にいえば,例えば,警告後,少年が保護観察所の指示に従うようになったり,また,両親の監護能力に期待が持てるような状況になったりするような事情がある,あるいは,保護観察3年の期間でつまずきながらも,少年が更生の道を進んでいたりするなどの事情があれば,逆の判断もありえたところかと思われます。
 
 
保護観察期間中に遵守事項違反があった場合,可能な限り迅速に対応する必要があります。事件に応じた見通しなどを知りたい場合,何をしたほうがよいか聞きたい場合には,当事務所まで御連絡ください(当事務所の少年事件に関する説明は,少年事件に強い弁護士をご参照ください。)。

 

【追記① 令和5年6月17日】
名古屋家庭裁判所令和3年12月15日決定は,少年が,保護観察所所長の警告を1回受けたにもかかわらず,保護観察所所長から許可を受けた住居に居住しなかったという事案で,遵守事項違反の程度が重く,少年の問題性の根深さや保護環境等を考慮すると,保護観察によっては少年の構成を図ることはできないとして,少年院を送致するとしました(判例タイムズ1507号253頁)。

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