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お盆休みについて
当事務所では、8月12日(木)から8月15日(日)までお盆休みとさせていただきます。
ゴールデンウィークについて
当事務所では、4月27日(月)から5月9日(日)まで休業とさせていただきます。
地方更生保護委員会における少年院からの仮退院の審理
地方更生保護委員会は,少年院からの仮退院や退院の許可について,審理して決定する機関です。
地方更生保護委員会は,少年院に収容されているものが,
①処遇の最高段階に達し,かつ仮に退院させることが改善更生のために相当であると認めるとき
②処遇の最高段階に達していない場合において,その努力により成績が向上し,保護観察に付することが改善更生のために特に必要であると認めるとき
に仮退院をゆるすものとされています(更生保護法41条)。
地方更生保護委員会は,少年院の長からの申出を受けて,仮退院の可否の審理を行うことになっています。
少年院からの仮退院の審理は,対象者の性格・心身の状況,非行の内容・経緯・動機,被害結果についての対象者の認識,非行を悔いる気持ち,及び非行に至った事故の問題性についての認識,引受人の状況,出院後に予定されている生活環境等を総合的に考慮して決定するとされています。
一般論として,少年院から出院する場合,ほぼ全員が仮退院によって少年院を出院されているようです。成人の仮釈放率は,5割から6割程度ですので,運用状況に明らかな差異があります。
養育費や婚姻費用の増額・減額の始期について(ほかでは聞けない養育費・婚姻費用の話し②)
養育費・婚姻員費用は,一度,当事者間の協議,調停,審判等で決まった場合であっても,その後の事情の変更があった場合には,その事情に応じて,増額・減額が認められることがあります。減額事由としては,義務者の減収,権利者の増収,義務者の扶養家族の増加(義務者が,再婚して,再婚相手との間で新たに子をもうけたという事情が該当します。),子の就職等の事情があげられます。一方,増額事由としては,義務者の増収,権利者の減収,子の進学等があげられます。この点に関しては,「養育費や婚姻費用の増額・減額の請求について」をご参照ください
また,養育費・婚姻費用の増額,減額の請求の事件については,最終的な解決まで時間がかかるので,増額・減額の始期が問題となることが少なくありません。増額,減額の金額も重要なのですが,それとともにいつから増額になるのか,いつから減額になるのかという点が重要になることがあるのです。
例えば,以下のような事案があったとします。
・XとYは,平成26年2月に離婚。その際に,XとYは,Xが,Yに対して,養育費として毎月5万円を支払うことを合意。
・Xは,平成27年2月に失職。収入が0円となる。
・Xは,Yに対して,平成27年6月に対して,養育費5万円を支払うことができないことから,減額してほしいという要請をするようになる。もっとも,協議はまとまらない。
・Xは,平成27年7月に養育費減額の調停を申し立てる。
・XとYは,平成28年1月に本調停において,Xが,Yに対して,養育費として月額1万円を支払うことを合意(養育費を4万円減額することになった。)。
以上のような事案の場合,Xが,Yに対する養育費の支払いが,月額1万円になるのはいつからでしょうか。失職した,つまり減額事由のあった平成27年2月からでしょうか。あるいは,減額の要請をした平成27年6月からでしょうか。それとも,調停の申立をした平成27年7月でしょうか。また,調停において合意がなされた平成28年1月からでしょうか。
ケース研究327号〔家庭事件研究会〕の「養育費・婚姻費用の増減額の始期について」という論文は,この点について,いくつかの事例をもとに分析を加えています。ここに掲載されている事例を分析すると,基本的な,裁判所の考え方も見えてきます。以下では当該論文を基にして説明をいたします。
養育費,婚姻費用の増額,減額の始期は,従来の家庭裁判所の実務においては,原則として請求時点(あるいは調停・申立時点)とされています。要するに,上記の事例ですと,請求をした平成27年6月かあるいは平成27年7月が減額の始期となるのが原則ということになります。
上記論文は以下のように,養育費,婚姻費用の増額,減額の始期が,原則として請求時点(あるいは調停・申立時点)であることを説明をしております。
「増減額の事由が発生した以降,家裁の合理的な裁量によってその増減額の始期を定めることができると解されており,原則として,請求時(調停・審判申立時)とする考え方も,家裁の合理的な裁量の一つの帰結であるということもできる。」
もっとも,上記論文に掲載されている事例を見ると,必ずしも,申立時になっていない事案も散見されます。どういった場合にどういった理由から例外的な処理がされるのでしょうか。審判例を見ながら理由を探っていきたいと思います。
例えば,養育費の事例ですと,以下のような判断がされているようです。
1 減額の場合
(1) 減額事由
義務者の扶養家族の増加 13件
義務者の減収 12件
権利者の増収 3件
(2) 減額の始期
請求時(調停・審判申立時) 12件
審判時 5件
減額事由発生時 3件
その他 4件
2 増額の場合
(1) 増額事由
子の進学 8件
義務者の増収 3件
権利者の減収 2件
(2) 増額の始期
請求時(調停・審判申立時) 3件
審判時 0件
増額事由発生時 4件
(内請求時より後に発生3件,前に発生1件)
その他 3件
上記は養育費の場合ですが,婚姻費用の場合も,大きな傾向は変わりがありません。
おおよそ,以下の点を指摘することができると思います(あくまで,掲載された事例から帰納したもので,どのような事件にも適用されるというものではありません。)。
[減額の場合]
・始期は,請求時(調停・審判申立時)が原則で,半分近くの事案が請求時(調停・審判申立時)となる。
・減額事由発生時とする事例は少ない。
・減額事由発生時とした事案は,減額事由が「義務者の減収」のものに限定される。
・減額事由発生時とした事案で,減額事由が「義務者の扶養家族の増加」のものはない。
・逆に,審判時とした事案は,ほとんどが,減額事由が,「義務者の扶養家族の増加」のものである。
要するに,
①請求時を原則としつつ,
②「義務者の減収」を理由とする減額請求の場合には,請求時より前から認められる余地がそれなりにあるが,
③「義務者の扶養家族の増加」を理由とする減額事由の場合には,請求時より前から認められることは少なく,
④さらに,「義務者の扶養家族の増加」と理由とする減額事由の場合には,請求時より後の審判時となる事例もそれなりにありうるということがいえると思います。
一般論として,「義務者の減収」の場合には,ある程度の減収が認められなければ,そもそも,減額は認められません。そうすると,減収が認められるケースの中には,義務者が相当に困窮して,とても,従前の婚姻費用・養育費を支払うことができなくなっている事例が多数存在するものと思われます。一方で,「義務者の扶養家族の増加」があると,そのような事情だけで基本的には減額が認められますが,扶養家族が増加しただけで,義務者が直ちに困窮するということも通常は考え難いと思います。そのような事情が,家庭裁判所の判断の背景にあるのではないかと思います。
[増額の場合]
・始期は,請求時(調停・審判申立時)が原則。
・審判時とする例はなかった。
・増額事由発生時とする事例もあるが,実質的には(請求時より前に発生したのは),1件だけ。
・当該1件は増額事由発生の原因が「子の進学」。
要するに,増額の場合には,
①請求時より前を始期とするものはまれで,
②特に,「子の進学」以外の理由だとほとんど認められない
ということがいえると思います。
「子の進学」の場合には,請求時より前を始期とするものもあります。「子の進学」という事情は,義務者においても,ある程度,予期できるものということができる場合も少なくないということが,家庭裁判所の判断の背景にあるのではないかと思います。
★養育費等に関する説明は以下もご参照ください。
養育費について
養育費や婚姻費用の増額,減額の請求について(ほかでは聞けない養育費・婚姻費用の話①)
1 養育費・婚姻費用の増額請求,減額請求できるか。
最近,一度決まった養育費(婚姻費用も同じです。以下の話は婚姻費用でもほぼ共通します。)の金額を変更したいという相談を受けることが多くなりました。養育費を決める流れ,手順等については,「養育費について」を参照してください。
養育費が決まっている場合(協議,調停,審判等を問いません。)であっても,養育費の金額を増額したり,減額したりすることができる場合があります。相手方が承諾すれば,当然,増額,減額できるのですが,相手方が承諾しなくても増額,減額できる場合があります。それは,養育費の金額が決まった後,「事情に変更の生じたとき」(民法880条参照)です。
簡単にいうと,養育費が決められた当時,前提とされていない事情,予期されていなかった事情が発生した場合には,養育費の増額,減額を請求することができる場合があるのです。
2 養育費等の増額,減額の事由
養育費の増額の理由として認められるのは,以下のようなものです。
① 義務者(支払う側)の一定以上の増収
② 権利者(もらう側)の一定以上の減収
③ 子どもの進学等→例えば,子どもが私立学校に進学したといったような場合です。
一方,養育費の減額の理由として認められるものは,以下のようなものです。
① 義務者の一定以上の減収
② 権利者の一定以上の増収
③ 義務者の扶養家族の増加→義務者が再婚して子どもをもうけたような場合です。
3 どの程度の収入の変化で減額増額できるか。
養育費を決めた後,何らかの事情が発生したからといって,簡単に養育費の減額,増額を認めてしまうと,当事者の地位が不安定になってしまいます。そのため,上記の事情が発生すれば直ちに養育費の増額,減額を認めてよいのかという問題があります。
結論からいうと,増額の場合も,減額の場合も③の事情が発生すれば,それだけで,養育費の増額,減額は認められると考えてよいと思います。例えば,義務者に新たに子どもができれば,減額が認められるのが一般的ですし,子どもが私立学校に進学するといような場合ですと,増額が認められます(ただし,この場合であっても,増額,減額の金額を決めるにあたっては,当事者間で激しい争いになることも少なくありません。)。
問題は,①②の場合,すなわち当事者の増収,減収の場合です。当事者の収入が毎年変化することは当然のことです。収入が変化したからといって,毎年,養育費等の金額を変更することは生産的ではありません。そこで,減収,増収を理由とする場合には,一定以上の収入の変化が要求されています。
それではどのくらい収入が変化すれば増額,減額の請求が認められるのでしょうか。この点は,非常に難しい問題です。非常にざっくりいうと,実務上は,かなり厳格に解されているのが現実だと思います。例えば,東京高等裁判所平成26年11月26日審判(ただし,婚姻費用の事案です。)は,義務者の収入が約12.5%減少した事案について,「それほど大幅な減収とは認められない」と判示しております(横浜家庭裁判所川崎支部は当該事案について養育費の減額を認めていましたが,東京高等裁判所では上記の点等を指摘したうえで,事件を川崎支部に差し戻しています。)。
いずれにせよ,養育費等の増額,減額が認められるかどうかは,事案に応じて決定していくものですので,増額,減額の請求をお考えの方は専門家に御相談されることをおすすめします。
4 増額,減額請求の方法
養育費等の増額,減額を請求する場合は,まずは,交渉から初めて交渉がまとまらなかった場合には,調停,審判等で決めていくことになります。
ただ,注意が必要なのは,養育費等の増額,減額請求をする場合,なるべく早く請求(調停)をしたほうが,経済的なメリットが大きいということです。なぜならば,実務上は,養育費の増額,減額の始期が,請求時点(調停申立時点)とされることが多く,それ以前については清算を求めることができないとされることが多いからです(養育費の増額,減額の始期の詳しい説明は,(「養育費や婚姻費用の増額・減額の始期について」を参照してください。)。つまり,請求が遅くなれば,その分だけ,経済的に損をしてしまう可能性が高いのです。それも,養育費等の増額,減額を請求する場合には,調停申立をするか,さもなくば証拠を残すために,内容証明郵便で請求をするか,どちらかをすべきだと思います。内容証明郵便で請求を出せない場合でも,電話ではなく,メールやLINEなど形に残るような方法を使ったほうがよいと思います。
以上は一般的な説明です。養育費等の増額,減額をお考えの方は当事務所まで御連絡ください(お問合せフォームはこちらをクリックしてください。)。
保護処分歴がなく,被害金額が多額でなく,示談が成立している恐喝事件で少年院送致決定の判断がされた事案(東京高等裁判所平成29年12月21日)
この事案は,恐喝事件で少年院送致が相当であると判断された事案なのですが,以下の点が特徴的です。
①被害金額が2万1500円で,示談も成立している。
②少年には保護観察等の保護処分を受けたこともなかった。
一般論としては,①②のような事情があれば,保護観察等の処分が下される可能性も十分にありうるところであり,非常に微妙な判断だったと思います(また,少年事件でなく,成人の刑事事件であれば,執行猶予付の判決になる可能性が非常に高い事案といえると思います。)。
この審判の内容は,少年院送致をする理由について,具体的かつ丁寧に説明していて,非常に参考になります
まず,裁判所は,①について,恐喝をした経緯,動機等について,詳細に認定をしており,さらにそこから少年の共感性の乏しさ,自己中心性の大きさが看取できると判断しています。一般論としても,少年事件においては,単に,結果を見るのではなく,非行に至る経緯,動機,手口等から,少年本人の問題点を解明することが重要であると示しています。一般論としては,成人の事件では,結果が重視されます。成人の事件では,恐喝事件でいえば決定的に重要になるのは,被害金額で,一定の被害金額を超えると,実刑判決が見えてくるというようなイメージがありますが,少年事件ではそのような見通しをたてるのは困難かつ危険であるということになるかと思います。
一方,裁判所は,示談成立については,あまり高く評価していません。この点については,被害弁償等の事情は,少年の反省心や保護者の監護能力の問題として考慮されるにすぎないと考えるのが伝統的な立場であるとされているのが一般的な考え方です。被害弁償がなされているのであれば,少年が反省している,保護者の監護能力が一定程度認められるというような論法です。本件の審判では,「本件非行の上記の悪質さに照らせば,被害者との間で示談が成立したという点を少年の処遇決定に際して考慮するにも限度があるというべきである。」と判示しています。
この審判例をみてあらためて思うのは,少年事件の場合には,被害結果の軽重から少年の処遇についての安易な見通しをもつことが危険であること,非行の結果が軽くても,非行の背景を緻密に分析して,可能な限り非行の因子を取り除いておくことが極めて重要だということです。
養育費や婚姻費用の算定と失職した当事者の収入
養育費や婚姻費用(養育費も婚姻費用も考え方は同じです。以下では,養育費として話をすすめます。)は,権利者,義務者の双方の収入を基にして算出されます。それでは,一方当事者が,失職していている場合,養育費をどのように算定するのでしょうか(なお,一度,養育費・婚姻費用が決定された後でも,当事者の一方が失職した場合には,増額減額等の余地があります。この点については,「養育費や婚姻費用の増額・減額の請求について」をご参照ください)。
この点に関しては二つの異なる考え方があります。
一つ目は,現に当事者が得ている実収入で計算すべきとする考え方です。失業保険を受給しながら就職活動をしているような場合には,当該失業保険の金額を収入として算定すべきということになります。
二つ目は,潜在的な稼働能力に基づき認定するという方法です。仮に,失職して収入が減少していたとしても,「本来であれば〇〇円稼げる筈だ!」と認定して,当該金額を基準として算定するという考え方です。潜在的稼働能力に基づく収入金額は,賃金センサス等を使用することが多いかと思います(「賃金センサス」とは,厚生労働省が昭和23年より毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の結果をまとめたものです。この調査では,事業所が属する地域,企業の規模別に,雇用形態,就業形態,職種,性別,年齢,学歴などの労働者の属性別に見た賃金の実態が記載されたものです。)。
実務上は,上記二つの考え方を併用しているのが実情かと思います。
東京高等裁判所平成28年1月19日決定(平成27年(ラ)第2305号)は,養育費の算定にあたり失職した義務者の収入の考え方の基準を示しています。
当該決定は,まず,原則として上記一つ目の考え方を採用すると指摘しています。すなわち,「養育費は,当事者が現に得ている実収入に基づき算定するのが原則」であると指摘しています。
ただし,二つ目の考え方も採用できる場合があると指摘しています。すなわち,上記決定は,「義務者が無職であったり,低額の収入しか得ていないときは,就労が制限される客観的,合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず,そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される場合に初めて,義務者が本来の稼働能力(潜在的稼働能力)を発揮したら得られるであろう収入を諸般の事情から推認し,これを養育費算定の基礎とすることが許されるというべきである」と指摘しています。
要するに,上記決定は,「本来の稼働能力を発揮しておらず,そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される場合」に二つ目の考え方を採用できるとしているのです。もっとも,このような場合に該当するのかは,事案の中で様々な事情を考慮して決定する以外にありません。
少なくとも,以下の事情は考慮されるものになるかと思います。
➀ 失職した経緯・理由
失職した理由が,病気,怪我等が原因であれば,直ちに,再就職することは困難であると評価され,賃金センサス等を利用した推定計算を否定する材料の一つになります。一方,特に,理由もなく自主退職したのであれば,再就職が容易であるとして,賃金センサスを使用したり,場合によっては,退職前の収入で計算することもあります。
② 失職した当事者の年齢,職歴,技能(資格等)
失職した当時,年齢が高かったり,特に資格等を有していなければ,再就職が困難であると評価され.賃金センサス等を利用した推定計算を否定する材料の一つになるかと思います。
③ 退職直前の収入
④ 失職してから経過した時間の長短
失職して時間が経過すればするほど,再就職の可能性が高まりますので,推定計算を肯定する材料の一つになるかと思います。
⑤ 失職してからの就職活動の具体的内容とその結果(求人状況等も含む。)
上記決定では,考慮要素として,「抗告人の退職理由,退職直前の収入,就職活動の具体的内容とその結果,求人状況,抗告人の職歴等の諸事情」等を掲げています。
例えば,失職してすぐの時点では,雇用保険の収入だけで計算することができるとしつつ,一定期間経過後は潜在的稼働能力で計算することができるとされるような場合もあるかと思います。実際に,上記決定においても,「少なくとも,抗告人が平成27年×月に失職した直後から従前の収入と同程度の収入が得られたはずであるとの原審の認定判断は・・・是認できないものである」と認定しています。
★養育費等に関する説明は以下もご参照ください。
養育費について
学校での体罰
1 体罰の絶対的な禁止
学校での教師の体罰は禁止されています。誤解されることも多いのですが,教師の体罰は,絶対的に禁止されていて,例外は一切ありません。親権者の体罰は法律上認められると考える余地もありますが,教師の体罰は絶対的に禁止されています。
学校教育法11条は以下のとおり記載されています。
「校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,児童,生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし,体罰を加えることはできない。」
教師側からは,
「教育上必要な行為だ!」,「愛情に基づくものだ!」「ほかでもやっている!」「子どもも分かってくれている!」などという言い分が出てくることもありますが,いずれも,全く理由がありません。体罰禁止のリーディングケースとして取り上げられるのが,大阪高等裁判所昭和30年5月16日判決です。この判決では,①教育上必要がある懲戒行為であったとしても,暴行の違法性は阻却されないこと,②体罰の動機が生徒への愛情に基づくとか,それが全国的に現に広く行われている一例にすぎないということは違法性がないとする理由がないこと,③親の懲戒権を援用して教員の体罰を認めることはできないことを明らかにしています。
体罰は,刑事上は,暴行罪(傷害罪)等に該当する可能性があり,また,民事上は損害賠償請求の対象となります。
体罰の違法性は明らかですが,それでも,なかなか教育現場から撲滅されることはありません。例えば,2013年度の体罰による全国公立学校教員の懲戒処分者は3953人にも上っています。明るみに出ない体罰も相当数あると考えられますので,まだまだ教育現場では,体罰が蔓延しているということが明らかだと思われます。
学校での体罰にお悩みの方はお気軽に御連絡ください(お問合せフォームはこちらをクリックしてください。)。
2 体罰とは何か
それでは,どこまでが体罰になるでしょうか。
行政解釈は,
「懲戒の内容が身体的性質のものである場合を意味する。」
「身体に対する侵害を内容とする懲戒-なぐる,蹴るの類-がこれに該当する。」
「被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒もまたこれに該当する。たとえば端座・直立等,特定の姿勢を長期間にわたって保持させるというような懲戒は体罰の一種と解せられなければならない」
「特定の場合が体罰に該当するかどうかは,当該児童の年齢・健康・場所・および時間的環境など,さまざまな条件を考え合わせて肉体的苦痛の有無を判定」すべきとしています(昭和23年12月22日,法務超法務調査意見長官から国家地方警察本部長官,厚生省社会局,文部省学校教育局あての「児童懲戒権の限界について」と題する調査2発第18号回答)。
例えば,生徒児童を殴るける等の暴行を加える行為が体罰に該当することは当然です。
さらに,長時間直立等の姿勢を口頭の指示で強いることも体罰として禁止される可能性が高いと考えられます。また,学校体育の時間あるいはクラブ・部活動の時間において,罰として長時間ないし長距離の耐久走・うさぎ跳び等を強いるのも体罰に該当する可能性が高いと考えられます。
今日では,放課後に児童生徒を教室に残して,トイレにも行かせずに,一切室外に出ることを許さない,別室私道のため給食の時間を含めて生徒を長く別室に留め置き,一切室外に出ることを許さないというような処分も体罰に該当すると考えられています。
特に,現在においても,部活動等では,目先の勝利のために,ひいては,学校・教師の名誉のために,生徒に対し,生徒の将来を無視した非科学的な過酷な練習を強要することが少なくありません。程度を超えれば,これらの指導も体罰として違法なものとなるのです(実際に,体罰事件が起きる時間帯は,「授業中」などよりも,「部活動中」のほうが多いのが現実です。)。いわゆる,「ブラック部活」というものが,今でも蔓延しているのが現状です。
3 体罰の問題について
体罰はなぜ禁止されているのでしょうか。教育とは,生徒と教師の信頼関係を基礎としなければ成立しないものですが,体罰はこの信頼関係を根本的に破壊するものです。より深く考えると,体罰は,児童・生徒に対して悪影響が与えることはもちろん,教師側にも深刻な悪影響を与えます。現行法上体罰が違法であることはもちろんですが,実質的に考えても,体罰が教育上不適切な行為でないことは科学的に明らかにされているのです。
(1) 児童・生徒に対する影響
いうまでもなく,教師の暴力により,生徒・児童に対して重大な障害が発生することがあります。場合によっては,生徒・児童に重篤な後遺症が残ったり,死亡事故となったりするなど,取り返しのつかない結果が発生することもあります。。
また,体罰が,児童・生徒に精神的な苦痛を与えることも当然です。
さらに,体罰により,児童・生徒が,不登校,学校嫌いになったり,勉強意欲が減退したり,さらには,明朗さの喪失,教師の顔をうかがいながらの行動しかできず,主体的行動ができなくなるなどの影響が出ることもあります。
また,間接的には,力のあるものに対する盲従,暴力肯定の傾向等などの影響もあるとされています。そのため,体罰のあるところでは,いじめが発生しやすいということが明らかにされています。
(2) 教師に対する影響
体罰は,教師の教育能力の低下を招くものとされています。
体罰は,子どもに恐怖を与えることによってコントロールする手段であり,短期的,表面的には矯正の効果が認められる手段です。体罰以外の教育手法は,子どもにすぐに変化をもたらすものでありませんので,体罰の短期的,表面的効果に味をしめて,他の教育的手法には目がいかなくなってしまいます。教師は,体罰にたより,児童・生徒と話をしながら,物事の是非,正不正を理解させ,適切な行動へ導くことをする努力をしなくなるのです。
4 体罰に対する解決方法
体罰の対する対応としては,以下のものが考えられます。いずれにせよ,子どもの状況を把握したうえで,子どもが何を望んでいるのかを確認したうえで,解決方法を選択していくことが必須となります。御依頼を受けた場合には,以下の手段のメリット,デメリットを勘案しながら,手段の選択をしていくことになります。
(1) 教師・校長らに対して説明,改善等の要求をする。
体罰を行った教師に対して説明,改善等の要求をして満足な対応をとってもらえない場合には,校長に対して同様の要求をすることになります。校長は,公務をつかさどり,所属職員を監督する義務を負う立場にあります(学校教育法28条)。校長は,教師が,その注意義務に違反しないよう監督するべき義務をおっていますので,個別の教師の問題だからといって,その教師と生徒・児童あるいは保護者とのやり取りに委ね,かかわらないということは許されないことです。
(2) 教育委員会(学事部)に対する改善措置・罷免の要求をする。
学校が対応しないということであれば,公立学校の場合には教育委員会に,私立学校の場合には,私学助成を統括する部署(東京都であれば学事部です。)に事実調査や対応を要請することになります。
(3) 事故報告書の開示請求をする。
体罰等があった場合,学校は,「事故報告書」を作成して,教育委員会に提出をすることになります。これについては,個人情報保護条例,情報公開条例等を利用して,開示を求めることができます。
(4) 学校設置者としての市区町村に対して改善要求をする。
(5) 民事上の損害賠償請求,刑事責任の追及をする。
(6) 弁護士会の人権擁護委員会に申立をする。
※体罰に関する案件についての弁護士費用は以下のとおりです。
・着手金
10万円から20万円(税別)程度
・報酬金
経済的利益等の成果に応じて,経済的利益の10%から15%(税別)程度
体罰でお悩みの方はお気軽に御連絡ください。
不貞行為とは何か
1 性交渉がなくても不貞?
不貞とは何でしょうか。
肉体関係を持つこと,つまり,性交渉をすることが不貞に該当することは言うまでもありません。問題は,肉体関係がなくても(厳密にいえば,肉体関係の立証ができなくても),不貞があったという認定をされることがあるかということです。
例えば,配偶者以外の異性と二人で食事に行くことは不貞でしょうか。食事に行く回数が1回ではなく,毎日行っているケースだと不貞になるでしょうか。キスをすれば不貞になるでしょうか。愛情表現たっぷりのメールのやり取りをすれば不貞になるでしょうか。手をつないで歩くことは不貞でしょうか。
「不貞慰謝料請求事件に関する実務上の諸問題」(判タ1278号45頁)では,
「そもそも,「不貞」が不法行為とされるのは,婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからである。・・・とすれば・・・「不貞」を肉体関係に限定する必要はなく,類型的に婚姻共同生活の平和を侵害する蓋然性がある行為かどうかを基準とすべきである。」
と説明されています。
この説(A説)によると,「不貞」は,肉体関係に限定されず,婚姻生活の平和を侵害するような行為かどうかという基準により判断されることになります。
ただし,「不貞」は肉体関係がある場合だけ!という説(B説)によっても,「不貞」ではないけど不法行為になる!ということになるという類型を認めることになると思います。
要するに以下のような整理が可能だと思います。
A説 不貞=肉体関係+α
B説 不貞=肉体関係 α=不貞以外の不法行為
結局,問題は,αに当たる部分は,どのようなものになるかという点に集約されるといっていいのではないでしょうか。
2 愛情たっぷりのメールをしたら不貞(不法行為)になるか?
「逢いたい」,「大好きだよ」といった愛情表現を含む内容のメールをすることは,不法行為に該当するでしょうか。もちろん,メールの内容から,肉体関係の存在が立証できれば,「不貞」に該当することは明らかです。問題は肉体関係の立証まではできない場合です。
裁判例には,肯定した事例と否定した事例があります。
否定例である,東京地方裁判所平成25年3月15日判決は以下のとおり判示しています。
「たしかに,性交又は性交類似行為には至らないが,婚姻を破綻に至らせる蓋然性のある他の異性との交流・接触も,当該異性の配偶者の損害賠償請求権を発生させ余地がないとは言えない。しかしながら,私的なメールのやり取りは,たとえ,配偶者であっても,発受信者以外の者の目に触れることを通常想定しないものであり,配偶者との間で性的な内容を含む親密なメールのやり取りをしていたことそれ自体を理由とする相手方のプライバシーを暴くものであるというべきである。・・・メールの内容に照らしても・・・婚姻生活を破綻に導くことを殊更意図していたとはいえない。したがって・・・不法行為の成立を認めることはできない。」
この裁判例は,下線部分で記載されているように,肉体関係がなくても「不貞」に該当する余地があることを認めています。もっとも,①メールは一般的に他人には見られるものでないこと(他人のメールを見ることは,プライバシーを暴くものであること),②メールの内容が婚姻生活を破綻に導くことを殊更意図していたものではないことを理由として,愛情表現を含む内容のメールをしたことが「不貞」に該当しないと判示しています。
①の理由を強調すれば,メールでどのようなやり取りをしていても,それ自体は,不法行為にはならない!という方向に傾くとは思いますが,②の理由を強調すれば,メールの内容次第では,メールのやり取りをすること自体が不貞行為に該当するという方向に傾くかと思います。
一方,東京地方裁判所平成24年11月28日判決は,以下のとおり判示して,不法行為の成立を認めました。
「このようなメールは性交渉の存在自体を直接推認するものではないものの,YがAに好意を抱いており,Xが知らないままYと会っていることを示唆するばかりか,YとAが身体的な接触を持っているような印象を与えるものであり,これをXが読んだ場合,Xらの婚姻生活の平穏を害するようなものというべきである。」
ただし,肉体関係の存在を立証できなかったためか,慰謝料金額は30万円にとどまっています。
この裁判例は,配偶者がメールを読んだ場合に婚姻生活に与える影響を重視しています。平成25年の裁判例は,そもそも,メールは他人に見られるものではないというところから出発しており,両裁判例の違いは鮮明です。
3 面会することは不貞(不法行為)になるか?
単に,配偶者に内緒で異性と会ったりすることは不法行為になるでしょうか。
東京地方裁判所平成21年7月16日判決は,以下の事案で,不法行為の成立を否定しました。
①Y(アルバイトのホステス)は,Aに配偶者がいることを知りつつ,同伴出勤やアフターを頻繁に行った。
②勤務時間外にしばしば二人で会った。
③すなわち,おおよそ5か月間,週に3回から4回は昼間に会って昼食をともにし,週に3回は夕食をともにしていたほか,映画を一緒に鑑賞し,喫茶をするなどした。
上記裁判例は,以上の行為についても,「婚姻関係を破綻に至らせる蓋然背のある交流,接触であると認め難」いと判示しています。ただ,この裁判例は,相手方がホステスであったことが結論に影響している可能性はあるように思います。
一方,東京地方裁判所平成25年4月19日は,かつて不貞関係にあった異性と深夜に面会していたということが,不法行為に該当すると判示しており,面会行為自体が不貞行為になることを認めています。
面会すること自体が不法行為になるような事案はあるものの,
ア 相手方と以前交際していた
イ 面会の頻度が極端に多い
というような事例に限定されると思われます。
★不貞・不倫の慰謝料については下記もご参照ください。
不貞・不倫の慰謝料について
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