Archive for the ‘おれおれ詐欺の研究’ Category

オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致の決定を取消した事案②)

2016-03-13

 前回のコラム(「オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致の決定を取消した事案①)」)に引き続き,もう1件,詐欺に関与した少年を少年院送致とした家庭裁判所の決定を取消した事例を紹介します。東京高等裁判所平成27年6月24日の決定です。

 事案の内容としては,以下のとおりです。

・少年は,楽をして大金を稼ぎたいとの考えから,インターネト掲示板で高収入即日払いのアルバイトを探し,当該掲示板を通じて共犯者らと知り合った。

・少年は,共犯者らから仕事の内容として荷物を受け取りに行く仕事で,報酬は15万円であると聞いた。少年は,何らかの犯罪に関わる仕事,例えば,覚せい剤などの違法薬物を受け取る仕事の可能性があると考えたものの,荷物を取りに行くだけなら捕まることはないと軽く考えて計画に加わった。

・共犯者らが,共謀して他人の息子を騙り現金を騙し取ろうと考えて,被害者方に電話をかけ,その息子になりすましてお金が必要であると嘘をついて,1200万円の交付を要求した。

・少年は,共犯者から指示を受けて,コンビニエンストアの駐車場で被害者から1200万円の交付を受けようとしたものの,被害者が警察に通報したため未遂に終わった。

・少年には同種余罪がない。

 この事案について東京家庭裁判所は,「本件非行における少年の責任の重さ,少年が規範意識を希薄化させた経緯,及びその程度,少年の監護環境に加え,少年は知的能力の影響で志向が深まりにくいという傾向を有していることなどに照らすと,試験観察を含めた在宅処遇によって少年が自己の問題点を改善できるとは考え難く,少年については,この機会に矯正施設に収容することが必要かつ相当である」として,少年を第1種少年院に送致しました。

 これに対して,東京高等裁判所は,少年院送致の決定を取消したのですが,本件で注目すべきなのは,「本件非行における少年の責任の重さ」についての評価が相当でないと断言している点です。

 判断の分かれ目となったのは,客観的な少年の役割の重大性を重要視するか,それとも少年の主観的な認識も重要視するかという点です。原審決定は,少年が現金を受け取るという犯罪の遂行に必要不可欠な役割を担っていたという客観的な側面から少年の責任の重さを論じていますが,本決定では,客観的側面だけを見るのではなく,少年の自己の役割等に対する主観的認識も重視して,少年の責任の重さを論じています。

 具体的には,本決定では,「少年は,本件故意又は共謀の内容について詐欺を含めた何らかの犯罪に関与するかもしれないが,それでもやむを得ないという程度の認識をもっていたにとどまる旨供述しているところ,この供述を排斥するに足りる証拠はない。原決定は,「悪質重大事案であり」,「犯行の完遂に必要な不可欠な役割を果たした」というが,少年がどこまでの認識をもって本件詐欺に関与したかという点を論じることなく,客観面だけからそのように断じて少年の責任の重さを殊更に強調するのは,一面的な見方であり,評価の在り方としていささか相当性を欠くというべきである」,「少年の規範意識が希薄化しているとの評価は免れないが,その規範意識が著しく希薄化しているという原決定の指摘は,明らかに行き過ぎというべきである。」と判示しております。

 「振り込め詐欺と少年事件(少年院送致と保護観察を分けたもの)」のコラムでも説明をいたしましたが,振り込め詐欺でいわゆる「受け子」などの役割を担うものは,客観的には「犯罪の完遂に必要不可欠な役割」ということになりますが,主観的には犯罪の全体像を知らず「何か悪いことに加担している」程度の認識しか持っていない場合も少なくありません(そもそも故意を争いたくなるような事案も少なくありません。)。

 少年事件における振り込め詐欺の事案では,客観的側面から直ちに悪質な事案と断ずるのではなく,少年の主観的認識を細かくフォローしていくことも,必要不可欠であると認識させる事案です(続)。

★ 当事務所の少年事件の処理方針等は以下を参照してください。
  少年事件に強い弁護士

 

 

 

オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致の決定を取消した事案①)

2016-03-11

  前回のコラム(オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致と保護観察を分けたもの))でも説明をしたとおり,振り込め詐欺の少年事件は被害金額が多額で欺罔方法も悪質であることから犯情の悪質性が高い一方,少年の役割が受動的で故意の認識も曖昧なものにとどまることが少なくないという特徴があり,少年院送致とするのか,保護観察とするのかは,相当悩む事案も少なくありません。

 いくつかの少年審判例を参考としながら,少年のオレオレ詐欺の事件の処遇について考えてみたいと思います。特に,少年院送致と保護観察を分けたものは何だったのかという観点から検討していきたいと思います。

 東京高等裁判所平成27年6月24日の決定は,詐欺に関与した少年を少年院送致とした千葉家庭裁判所の決定を取り消した事例です。

 事案の内容としては,以下のとおりです。

・少年が,友人や知らない人と共謀していた。

・少年以外の共犯者が,警察官になりすまして高齢の被害者8名に対して9回にわたり電話で被害者らの預貯金を保護するため,金融機関等から至急預貯金を引き出して,被害者宅を訪れる警察官や金融機関関係者に交付する必要があるかのような嘘を言った。

・少年やその他の共犯者が,警察官や金融機関関係者に成りすまして現金約4555万円をだまし取った。

・少年は,友人である共犯少年から,「ブラックな仕事」を一緒にしようと誘われていた。

・少年は中学生2年のころまでは特に問題は見られなかったが,その後,共犯少年と不良交友が始まり,夜遊びや怠学が目立つようになり,数件の補導歴があった。

・家庭裁判所の事件係属歴はない。

・少年は,家族関係の問題から,家出して共犯少年のアパートに住むようになったことがあり,そのときに,共犯少年の期限を損ねたくないという思いもあり,共犯少年が所属していた詐欺グループに加わり詐欺に関わるようになった。

・もっとも,少年は,家出後,約2か月程度で自宅に戻っており,詐欺グループとのかかわり合いもなくなった。

・その後は,詐欺グループからの誘いに応じず,アルバイトをしていた。

 以上の事実関係を基にして,東京高等裁判所は,「少年は,共犯少年に誘われて本件非行に及んだものの,その後は,自宅に戻り,詐欺グループとの関係を断ち切り,正業に就いて働く姿勢を示していたのであって,これらの事情からすると,本件非行は一過性のものであり,少年の非行性は原決定が憂慮するほど進行していないように思われる。」などと判示して,少年院送致とした原審決定を差し戻しました。 

 この事例において被害金額は,4555万円と非常に多額となっていて,犯情が悪質であることは否定できません。ただ,一方で,少年が,詐欺に関与していたのは,数か月に限定されています。そもそも,少年が,詐欺グループに加わった経緯は,家出をして共犯少年と一緒に暮らしていた時に,たまたま共犯少年が詐欺グループに入っていたからです。もともと,詐欺グループと濃厚な関係があったわけではないということもうかがうことができます。もちろん,家族の関係に改善がなければ,少年が,再度,家出して詐欺グループと接点を持つ可能性もあると思われますが,裁判所は「少年と家族との関係には改善の兆しが見られ・・・」と判示しており,その点も,強く憂慮することはできないと判断しています。
 そして
,少年は,自宅に戻ってから,詐欺グループとの関わり合いを絶っており(現実的に,詐欺グループからの誘いにものっていない。),少年が,二度と詐欺グループに関わらないということは十分に現実的だと思います。

 本件で少年院送致が相当とならなかったのは,少年に非行性の深化が見られなかったことが大きな要因になったことは明白です。そして,詐欺グループにいた期間,詐欺グループに入った原因,あるいはその原因が解消されるかという点が重要な判断材料になっているものと思われます。
 
本件は,詐欺グループに入っている!ということから,少年の非行性が深いと安易に認めることの危険性を示していると思います。少年の生活歴,環境面等を丁寧に分析して,非行の原因を探っていき,現時点ではその原因が解決していると説得的に説明していくことが必要であると考えさせる事案です(続)。

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
少年事件に強い弁護士

オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致を回避する!)

2016-03-07

 これまでのコラムでたびたび指摘をしているとおり,オレオレ詐欺に関与した少年を少年院送致にするか,保護観察にするかはとても悩ましい問題です。被害金額の大きさを重視すれば,少年院送致に傾き,少年の更生可能性を重視すれば,保護観察に傾くという事案が多いのです。
 いずれにせよ,少年の弁護人・付添人は,少年の更生の可能性を信じて,少年院送致を避けるべく活動をしていくことが多いと思います。以下では私の経験上,少年院送致を回避するために,どのような点を重視して,どのような活動をする必要がよいのかを備忘録的にまとめてみました。
 オレオレ詐欺の事案は,非常に難しい事案ばかりで,以下のまとめも十分なものではないと思いますが,それでも,私が担当したオレオレ詐欺の事案は,ほとんど少年院送致を回避することができています。

 分かりやすいように事例として,以下を題材にしたいと思います。
 少年Aが,懇意にしていた不良グループの友人Bから,「荷物を受け取る仕事をして欲しい,報酬は1回10万円。捕まるかもしれないけど,どんな荷物を受け取るか知らなけかったければ,すぐ釈放される。」と言われて,Aは,オレオレ詐欺だろうなとは思ったものの,いろいろ聞くのも野暮だと思い,遊ぶお金が欲しかったこともあって,その仕事をすることして,結局,ある日指定の場所に出向いて,オレオレ詐欺の受け子として被害者Cから500万円を受け取った。

1 詐欺に関与していた期間・回数について
重要度 ★★★★★

 まず,重要なのは,少年が,どの程度の期間にどの程度の件数の詐欺に関与していたかという点です。この点はとても重要で,場合によっては,決定的に重要な意味を持つことも少なくありません。
 長い期間,たくさんのオレオレ詐欺に関与していたということであれば,その少年は,詐欺であることを強く認識して,たくさんの被害者がたくさんのお金を失っていたことを理解して,それでもなお詐欺に関与していたということになります(少なくとも,そのように理解することが容易な状況にあったということができると思います。)。そうすると,少年の問題性はとても大きく,少年院送致の判断に傾くと思います。
 一方,少年が,1回だけしか関与していないというような事案ですと,オレオレ詐欺の悪質性を認識する機会に乏しく,少年自身の問題性は必ずしも大きくないと評価される余地がでてきます。
 オレオレ詐欺の事案では,まずは,少年がどのくらいの期間にどの程度の件数の詐欺に関与していたのかを把握することが不可欠です。そして,関与期間が短く,関与回数が少ないということであれば,その点を少年自身の問題性が大きくないことと結び付けて主張していくことが重要です。

2 被害金額の多寡
重要度 ★(ただし,場合によっては,★★★★)
 いうまでもなく,本事例の被害額500万円という金額は多額です。成人の刑事事件でいえば,通常,実刑判決となるような事案です(示談等が成立する場合は別ですが。)。

 ただし,少年事件の場合ですと,被害金額が決定的な意味を持つわけではないように思います。受け子として受け取ったお金がたまたま大きかったからといって,少年自身の問題性が大きかったとはいえませんし,逆もまた然りです(ありていに言えば,出し子にとっては,被害金額の多寡は,偶然の要素が強いと思われます。)。
 ただ,「1」とも関係しますが,多額のお金を受け取り,それを認識していたにもかかわらず,なお,オレオレ詐欺を続けていたということになると,少年の問題性は大きいと考えられ,少年院送致の判断に傾いていくものと思われます。

3 詐欺であることの認識
重要度 ★★★★

 オレオレ詐欺の受け子ですと,少年は,単に荷物を受け取ってこいというようなことをいわれたに過ぎないこともあります。少年は,「なんか怪しいな」,「オレオレ詐欺かもしれないな。でもどうやって騙されているのか分からない。」というような微妙な認識を持ちながら,上からの指示に従って,受け子の役割を果たすというケースもあります。オレオレ詐欺に関与していると明確に認識して,あえてオレオレ詐欺に関与するよりも,その点の認識が曖昧な場合のほうが,少年の問題は大きくないと判断されることが多いと思います。
 極めて重要なのは,取調で少年がそのような認識を正確に説明して,それに沿った供述調書をつくることです。「なんか怪しいな」という認識は,「オレオレ詐欺で間違いないな」という認識とも違いますし,「オレオレ詐欺ではないな。」という認識とも違います。グレーは,グレーであって,黒でも白でもないのです。そのあたりを,取調において少年が正確に説明して,その説明どおりの供述調書を作成していくことができるかが極めて重要になるのです。ただ,そのように自分の認識を正確に表現をすることは簡単なことではありません。まずは,少年の認識を時系列で正確に把握をしたうえで,それをきちんと表現することができるようにすることが必須です。私は,少年の認識が問われるケースにおいては,少年と繰り返し取り調べの予行練習をすることがあります。

(続く)

 

オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致か保護観察か)

2016-03-06

 1 少年の詐欺事件の増加

  最近,オレオレ詐欺に関わった少年の刑事事件を扱うことが多くなりました。
 オレオレ詐欺とは,いわゆる特殊詐欺と呼ばれるもののうちの一つです。特殊詐欺には,オレオレ詐欺のほか,架空請求詐欺,融資保証詐欺,還付金詐欺などが含まれます。
 オレオレ詐欺を含む特殊詐欺の事案は,全ての少年事件の件数の中でも相当数を占めているようです。

2 少年のオレオレ詐欺事件の特徴

  オレオレ詐欺に関与した少年について,どのような処遇にするか,端的にいえば,保護観察等にするのか,少年院送致にするのか,非常に悩ましい事案が少なくありません。被害金額が大きく,悪質な詐欺だと思われる一方,少年自身の問題は必ずしも根深くないような事案があるのです。

 一般論として,オレオレ詐欺は,被害金額が大きな金額になることが多いです。成人の事件ですと,被害金額が100万円を超えてくると,実刑判決(執行猶予がつかない判決)を意識するようになることが多いように思いますが,オレオレ詐欺の場合,被害金額は簡単に100万円を超えてきます。
 実際に,オレオレ詐欺の事件は,成人の場合であっても,少年の場合であっても,厳罰化が進んでいると強く感じます。一昔前には,執行猶予がついたり,保護観察になったりする事件であっても,今では,実刑判決が下されたり,少年院送致の処分となったりすることが多くなったと実感します。
 今なお,オレオレ詐欺が跋扈している現状からすると,このような厳罰化の流れもやむを得ないことだとは思います。
 ただ,一方で,多くのオレオレ詐欺の少年事件を担当していると,情状酌量を認めてもらいたい!少年院に行かせたくない!と強く思う事案も間違いなくあります。
 オレオレ詐欺は,複数人が役割を分担して行うことが多く,例えば,詐欺の電話を架ける「架け子」,被害者から現金を受け取る「受け子」,見張りをする「見張り役」等の役割を分担することがあります。そして,特に,少年の場合ですと,末端で受け子,見張り役として振り込め詐欺に関与することが多く,少年の役割が,受動的,消極的なものであることが少なくありません。また,そもそも,詐欺に関与しているという意識が希薄で,例えば,少年の認識としては,「詐欺のような犯罪に関与しているかもしれないな!」という程度にとどまることも少なくありません。
 当初は,単なる単なる合法的なアルバイトとして勧誘されて,途中で,詐欺であることに気付くようなケースもあります。私が担当した事件の中には,前歴がなく,真面目に大学に通っている少年が,アルバイト感覚で,振り込め詐欺に関与するようになってしまうというものもありました。このような事態が起こるのは,少年独特の判断能力や社会経験の乏しさが大きく影響しているように思います。
 被害金額は,莫大でマスコミにも取り上げられるような社会的影響も大きい事件であっても,関与した少年には問題性は小さく,再犯の可能性が乏しいのではないかと思える事件も少なくないのです。

3 少年審判での処遇はどうなるのか。

  上記のとおり,オレオレ詐欺の少年事件の処遇は非常に難しいものがあり,裁判所でも,様々な事情を慎重に考慮しているようです。次回から最近の審判例を参考にしながら、裁判所の考え方等を探っていきたいと思います。特に,少年院送致と保護観察を分かつものは何だったのか!というような観点から審判例を検討していきたいと思います(続)。

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