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オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致の決定を取消した事案②)
前回のコラム(「オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致の決定を取消した事案①)」)に引き続き,もう1件,詐欺に関与した少年を少年院送致とした家庭裁判所の決定を取消した事例を紹介します。東京高等裁判所平成27年6月24日の決定です。
事案の内容としては,以下のとおりです。
・少年は,楽をして大金を稼ぎたいとの考えから,インターネト掲示板で高収入即日払いのアルバイトを探し,当該掲示板を通じて共犯者らと知り合った。
・少年は,共犯者らから仕事の内容として荷物を受け取りに行く仕事で,報酬は15万円であると聞いた。少年は,何らかの犯罪に関わる仕事,例えば,覚せい剤などの違法薬物を受け取る仕事の可能性があると考えたものの,荷物を取りに行くだけなら捕まることはないと軽く考えて計画に加わった。
・共犯者らが,共謀して他人の息子を騙り現金を騙し取ろうと考えて,被害者方に電話をかけ,その息子になりすましてお金が必要であると嘘をついて,1200万円の交付を要求した。
・少年は,共犯者から指示を受けて,コンビニエンストアの駐車場で被害者から1200万円の交付を受けようとしたものの,被害者が警察に通報したため未遂に終わった。
・少年には同種余罪がない。
この事案について東京家庭裁判所は,「本件非行における少年の責任の重さ,少年が規範意識を希薄化させた経緯,及びその程度,少年の監護環境に加え,少年は知的能力の影響で志向が深まりにくいという傾向を有していることなどに照らすと,試験観察を含めた在宅処遇によって少年が自己の問題点を改善できるとは考え難く,少年については,この機会に矯正施設に収容することが必要かつ相当である」として,少年を第1種少年院に送致しました。
これに対して,東京高等裁判所は,少年院送致の決定を取消したのですが,本件で注目すべきなのは,「本件非行における少年の責任の重さ」についての評価が相当でないと断言している点です。
判断の分かれ目となったのは,客観的な少年の役割の重大性を重要視するか,それとも少年の主観的な認識も重要視するかという点です。原審決定は,少年が現金を受け取るという犯罪の遂行に必要不可欠な役割を担っていたという客観的な側面から少年の責任の重さを論じていますが,本決定では,客観的側面だけを見るのではなく,少年の自己の役割等に対する主観的認識も重視して,少年の責任の重さを論じています。
具体的には,本決定では,「少年は,本件故意又は共謀の内容について詐欺を含めた何らかの犯罪に関与するかもしれないが,それでもやむを得ないという程度の認識をもっていたにとどまる旨供述しているところ,この供述を排斥するに足りる証拠はない。原決定は,「悪質重大事案であり」,「犯行の完遂に必要な不可欠な役割を果たした」というが,少年がどこまでの認識をもって本件詐欺に関与したかという点を論じることなく,客観面だけからそのように断じて少年の責任の重さを殊更に強調するのは,一面的な見方であり,評価の在り方としていささか相当性を欠くというべきである」,「少年の規範意識が希薄化しているとの評価は免れないが,その規範意識が著しく希薄化しているという原決定の指摘は,明らかに行き過ぎというべきである。」と判示しております。
「振り込め詐欺と少年事件(少年院送致と保護観察を分けたもの)」のコラムでも説明をいたしましたが,振り込め詐欺でいわゆる「受け子」などの役割を担うものは,客観的には「犯罪の完遂に必要不可欠な役割」ということになりますが,主観的には犯罪の全体像を知らず「何か悪いことに加担している」程度の認識しか持っていない場合も少なくありません(そもそも故意を争いたくなるような事案も少なくありません。)。
少年事件における振り込め詐欺の事案では,客観的側面から直ちに悪質な事案と断ずるのではなく,少年の主観的認識を細かくフォローしていくことも,必要不可欠であると認識させる事案です(続)。
★ 当事務所の少年事件の処理方針等は以下を参照してください。
少年事件に強い弁護士
オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致の決定を取消した事案①)
前回のコラム(オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致と保護観察を分けたもの))でも説明をしたとおり,振り込め詐欺の少年事件は被害金額が多額で欺罔方法も悪質であることから犯情の悪質性が高い一方,少年の役割が受動的で故意の認識も曖昧なものにとどまることが少なくないという特徴があり,少年院送致とするのか,保護観察とするのかは,相当悩む事案も少なくありません。
いくつかの少年審判例を参考としながら,少年のオレオレ詐欺の事件の処遇について考えてみたいと思います。特に,少年院送致と保護観察を分けたものは何だったのかという観点から検討していきたいと思います。
東京高等裁判所平成27年6月24日の決定は,詐欺に関与した少年を少年院送致とした千葉家庭裁判所の決定を取り消した事例です。
事案の内容としては,以下のとおりです。
・少年が,友人や知らない人と共謀していた。
・少年以外の共犯者が,警察官になりすまして高齢の被害者8名に対して9回にわたり電話で被害者らの預貯金を保護するため,金融機関等から至急預貯金を引き出して,被害者宅を訪れる警察官や金融機関関係者に交付する必要があるかのような嘘を言った。
・少年やその他の共犯者が,警察官や金融機関関係者に成りすまして現金約4555万円をだまし取った。
・少年は,友人である共犯少年から,「ブラックな仕事」を一緒にしようと誘われていた。
・少年は中学生2年のころまでは特に問題は見られなかったが,その後,共犯少年と不良交友が始まり,夜遊びや怠学が目立つようになり,数件の補導歴があった。
・家庭裁判所の事件係属歴はない。
・少年は,家族関係の問題から,家出して共犯少年のアパートに住むようになったことがあり,そのときに,共犯少年の期限を損ねたくないという思いもあり,共犯少年が所属していた詐欺グループに加わり詐欺に関わるようになった。
・もっとも,少年は,家出後,約2か月程度で自宅に戻っており,詐欺グループとのかかわり合いもなくなった。
・その後は,詐欺グループからの誘いに応じず,アルバイトをしていた。
以上の事実関係を基にして,東京高等裁判所は,「少年は,共犯少年に誘われて本件非行に及んだものの,その後は,自宅に戻り,詐欺グループとの関係を断ち切り,正業に就いて働く姿勢を示していたのであって,これらの事情からすると,本件非行は一過性のものであり,少年の非行性は原決定が憂慮するほど進行していないように思われる。」などと判示して,少年院送致とした原審決定を差し戻しました。
この事例において被害金額は,4555万円と非常に多額となっていて,犯情が悪質であることは否定できません。ただ,一方で,少年が,詐欺に関与していたのは,数か月に限定されています。そもそも,少年が,詐欺グループに加わった経緯は,家出をして共犯少年と一緒に暮らしていた時に,たまたま共犯少年が詐欺グループに入っていたからです。もともと,詐欺グループと濃厚な関係があったわけではないということもうかがうことができます。もちろん,家族の関係に改善がなければ,少年が,再度,家出して詐欺グループと接点を持つ可能性もあると思われますが,裁判所は「少年と家族との関係には改善の兆しが見られ・・・」と判示しており,その点も,強く憂慮することはできないと判断しています。
そして,少年は,自宅に戻ってから,詐欺グループとの関わり合いを絶っており(現実的に,詐欺グループからの誘いにものっていない。),少年が,二度と詐欺グループに関わらないということは十分に現実的だと思います。
本件で少年院送致が相当とならなかったのは,少年に非行性の深化が見られなかったことが大きな要因になったことは明白です。そして,詐欺グループにいた期間,詐欺グループに入った原因,あるいはその原因が解消されるかという点が重要な判断材料になっているものと思われます。
本件は,詐欺グループに入っている!ということから,少年の非行性が深いと安易に認めることの危険性を示していると思います。少年の生活歴,環境面等を丁寧に分析して,非行の原因を探っていき,現時点ではその原因が解決していると説得的に説明していくことが必要であると考えさせる事案です(続)。
★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
少年事件に強い弁護士
オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致を回避する!)
これまでのコラムでたびたび指摘をしているとおり,オレオレ詐欺に関与した少年を少年院送致にするか,保護観察にするかはとても悩ましい問題です。被害金額の大きさを重視すれば,少年院送致に傾き,少年の更生可能性を重視すれば,保護観察に傾くという事案が多いのです。
いずれにせよ,少年の弁護人・付添人は,少年の更生の可能性を信じて,少年院送致を避けるべく活動をしていくことが多いと思います。以下では私の経験上,少年院送致を回避するために,どのような点を重視して,どのような活動をする必要がよいのかを備忘録的にまとめてみました。
オレオレ詐欺の事案は,非常に難しい事案ばかりで,以下のまとめも十分なものではないと思いますが,それでも,私が担当したオレオレ詐欺の事案は,ほとんど少年院送致を回避することができています。
分かりやすいように事例として,以下を題材にしたいと思います。
少年Aが,懇意にしていた不良グループの友人Bから,「荷物を受け取る仕事をして欲しい,報酬は1回10万円。捕まるかもしれないけど,どんな荷物を受け取るか知らなけかったければ,すぐ釈放される。」と言われて,Aは,オレオレ詐欺だろうなとは思ったものの,いろいろ聞くのも野暮だと思い,遊ぶお金が欲しかったこともあって,その仕事をすることして,結局,ある日指定の場所に出向いて,オレオレ詐欺の受け子として被害者Cから500万円を受け取った。
1 詐欺に関与していた期間・回数について
重要度 ★★★★★
まず,重要なのは,少年が,どの程度の期間にどの程度の件数の詐欺に関与していたかという点です。この点はとても重要で,場合によっては,決定的に重要な意味を持つことも少なくありません。
長い期間,たくさんのオレオレ詐欺に関与していたということであれば,その少年は,詐欺であることを強く認識して,たくさんの被害者がたくさんのお金を失っていたことを理解して,それでもなお詐欺に関与していたということになります(少なくとも,そのように理解することが容易な状況にあったということができると思います。)。そうすると,少年の問題性はとても大きく,少年院送致の判断に傾くと思います。
一方,少年が,1回だけしか関与していないというような事案ですと,オレオレ詐欺の悪質性を認識する機会に乏しく,少年自身の問題性は必ずしも大きくないと評価される余地がでてきます。
オレオレ詐欺の事案では,まずは,少年がどのくらいの期間にどの程度の件数の詐欺に関与していたのかを把握することが不可欠です。そして,関与期間が短く,関与回数が少ないということであれば,その点を少年自身の問題性が大きくないことと結び付けて主張していくことが重要です。
2 被害金額の多寡
重要度 ★(ただし,場合によっては,★★★★)
いうまでもなく,本事例の被害額500万円という金額は多額です。成人の刑事事件でいえば,通常,実刑判決となるような事案です(示談等が成立する場合は別ですが。)。
ただし,少年事件の場合ですと,被害金額が決定的な意味を持つわけではないように思います。受け子として受け取ったお金がたまたま大きかったからといって,少年自身の問題性が大きかったとはいえませんし,逆もまた然りです(ありていに言えば,出し子にとっては,被害金額の多寡は,偶然の要素が強いと思われます。)。
ただ,「1」とも関係しますが,多額のお金を受け取り,それを認識していたにもかかわらず,なお,オレオレ詐欺を続けていたということになると,少年の問題性は大きいと考えられ,少年院送致の判断に傾いていくものと思われます。
3 詐欺であることの認識
重要度 ★★★★
オレオレ詐欺の受け子ですと,少年は,単に荷物を受け取ってこいというようなことをいわれたに過ぎないこともあります。少年は,「なんか怪しいな」,「オレオレ詐欺かもしれないな。でもどうやって騙されているのか分からない。」というような微妙な認識を持ちながら,上からの指示に従って,受け子の役割を果たすというケースもあります。オレオレ詐欺に関与していると明確に認識して,あえてオレオレ詐欺に関与するよりも,その点の認識が曖昧な場合のほうが,少年の問題は大きくないと判断されることが多いと思います。
極めて重要なのは,取調で少年がそのような認識を正確に説明して,それに沿った供述調書をつくることです。「なんか怪しいな」という認識は,「オレオレ詐欺で間違いないな」という認識とも違いますし,「オレオレ詐欺ではないな。」という認識とも違います。グレーは,グレーであって,黒でも白でもないのです。そのあたりを,取調において少年が正確に説明して,その説明どおりの供述調書を作成していくことができるかが極めて重要になるのです。ただ,そのように自分の認識を正確に表現をすることは簡単なことではありません。まずは,少年の認識を時系列で正確に把握をしたうえで,それをきちんと表現することができるようにすることが必須です。私は,少年の認識が問われるケースにおいては,少年と繰り返し取り調べの予行練習をすることがあります。
(続く)
オレオレ詐欺と少年事件(少年院送致か保護観察か)
1 少年の詐欺事件の増加
最近,オレオレ詐欺に関わった少年の刑事事件を扱うことが多くなりました。
オレオレ詐欺とは,いわゆる特殊詐欺と呼ばれるもののうちの一つです。特殊詐欺には,オレオレ詐欺のほか,架空請求詐欺,融資保証詐欺,還付金詐欺などが含まれます。
オレオレ詐欺を含む特殊詐欺の事案は,全ての少年事件の件数の中でも相当数を占めているようです。
2 少年のオレオレ詐欺事件の特徴
オレオレ詐欺に関与した少年について,どのような処遇にするか,端的にいえば,保護観察等にするのか,少年院送致にするのか,非常に悩ましい事案が少なくありません。被害金額が大きく,悪質な詐欺だと思われる一方,少年自身の問題は必ずしも根深くないような事案があるのです。
一般論として,オレオレ詐欺は,被害金額が大きな金額になることが多いです。成人の事件ですと,被害金額が100万円を超えてくると,実刑判決(執行猶予がつかない判決)を意識するようになることが多いように思いますが,オレオレ詐欺の場合,被害金額は簡単に100万円を超えてきます。
実際に,オレオレ詐欺の事件は,成人の場合であっても,少年の場合であっても,厳罰化が進んでいると強く感じます。一昔前には,執行猶予がついたり,保護観察になったりする事件であっても,今では,実刑判決が下されたり,少年院送致の処分となったりすることが多くなったと実感します。
今なお,オレオレ詐欺が跋扈している現状からすると,このような厳罰化の流れもやむを得ないことだとは思います。
ただ,一方で,多くのオレオレ詐欺の少年事件を担当していると,情状酌量を認めてもらいたい!少年院に行かせたくない!と強く思う事案も間違いなくあります。
オレオレ詐欺は,複数人が役割を分担して行うことが多く,例えば,詐欺の電話を架ける「架け子」,被害者から現金を受け取る「受け子」,見張りをする「見張り役」等の役割を分担することがあります。そして,特に,少年の場合ですと,末端で受け子,見張り役として振り込め詐欺に関与することが多く,少年の役割が,受動的,消極的なものであることが少なくありません。また,そもそも,詐欺に関与しているという意識が希薄で,例えば,少年の認識としては,「詐欺のような犯罪に関与しているかもしれないな!」という程度にとどまることも少なくありません。
当初は,単なる単なる合法的なアルバイトとして勧誘されて,途中で,詐欺であることに気付くようなケースもあります。私が担当した事件の中には,前歴がなく,真面目に大学に通っている少年が,アルバイト感覚で,振り込め詐欺に関与するようになってしまうというものもありました。このような事態が起こるのは,少年独特の判断能力や社会経験の乏しさが大きく影響しているように思います。
被害金額は,莫大でマスコミにも取り上げられるような社会的影響も大きい事件であっても,関与した少年には問題性は小さく,再犯の可能性が乏しいのではないかと思える事件も少なくないのです。
3 少年審判での処遇はどうなるのか。
上記のとおり,オレオレ詐欺の少年事件の処遇は非常に難しいものがあり,裁判所でも,様々な事情を慎重に考慮しているようです。次回から最近の審判例を参考にしながら、裁判所の考え方等を探っていきたいと思います。特に,少年院送致と保護観察を分かつものは何だったのか!というような観点から審判例を検討していきたいと思います(続)。
★ 当事務所の少年事件の処理方針等は以下を参照してください。
少年事件に強い弁護士
少年事件の保護観察所における社会貢献活動
1 社会貢献活動の義務付け
社会貢献活動は,平成23年度から保護観察の処遇の一つとして導入されました。そして,平成27年6月から特別遵守事項の一つとして,保護観察の対象者に義務付けて行うことができるようになりました(保護観察の説明自体は,少年事件の紹介ページ「少年事件に強い弁護士」 や保護観察について(少年事件) で説明しています。)。
更生保護法51条2項6号は,特別遵守事項として,「善良な社会の一員としての意識の涵養及び規範意識の向上に資する地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を一定の時間行うこと」を定めることができると規定しており,この「社会活動」がいわゆる社会貢献活動というものです。
少年事件の保護観察の処遇の一つとしても効果を挙げている制度ですのでご紹介します。
2 社会貢献活動の内容,対象者
社会貢献活動は,保護観察中の人が,地域社会に貢献する活動を通じて,更生を図ることを目的とした制度です。社会貢献活動は,対象者の改善更生を目的として実施されるもので,贖罪,制裁を目的とするものでないことが特徴です。
具体的な活動内容は,
① 老人施設や障害者支援施設での清掃活動での清掃活動や介護補助活動
② 公共施設等での清掃活動
③ 違反広告物撤去作業
④ 切手整理活動
等です。
社会貢献活動が導入される以前から,保護観察所では,「社会参加活動」と呼ばれるボランティア活動を実施していました。従前の「社会参加活動」では,福祉施設での活動,清掃活動,レクリエーション活動,体験活動が実施されてきました。もっとも,現在はレクリエーション活動,体験活動を除く活動は,基本的に社会貢献活動として位置づけられています(社会参加活動は,レクリエーション活動や体験学習等を行うものとして現在も存続しています。)。
社会貢献活動の対象者は,①自己有用感や社会性が乏しく,社会から孤立する傾向が顕著であるもの,②特段の理由がなく,不就労または不就学の状態が継続しているもの,③素行不良者と交友があり,その影響のもとで同調的に行動する傾向が顕著であるもの,④比較的軽微な犯罪,非行を繰り返すもののいずれかに該当して,社会貢献活動により処遇効果が期待できるものとされています。
特に,仕事や学業に従事していない少年,通信制高校に通っていたり,フリーターをしている少年等の比較的自由な時間を持っている少年には処遇効果が期待される制度となっています。
社会貢献活動は,特別遵守事項として義務付けられて参加する対象者もいれば,保護観察官等の働きかけに同意して任意に参加する対象者もいます。
特別遵守事項の場合は5回参加が義務となっております。任意参加の場合には回数の定めはありません。活動は原則として1回につき2時間から5時間程度行われます。
3 社会貢献活動の意味
保護観察は,犯罪や非行した対象者に対して,社会内での指導や支援を行うことを通じて,その改善更生や再犯防止を図る制度です。
非行をして保護観察処分になる少年は,物事が続かずに挫折を繰り返した経験が多く,そのために,他人から感謝されることが少なく,自己肯定感が低いことが多いです。そのような少年が社会貢献活動をすることで,貴重な社会経験を積むことができるとともに,健全な方法で社会に貢献していることを実感して達成感を味わうことができることも少なくないようです。特に,第三者から感謝されたり,プラスの評価をされたりすることで,自己肯定感を高めることは,重要な意義があると思います(施設利用者等からの温かい言葉は,少年にとって一定のインパクトを持つことが多いようです。)。社会貢献活動をして自信を得た少年が,社会に踏み出していくきっかけをつかみ,就労につながるようなケースもあるようです。私自身も,少年が,社会貢献活動等を通じて,施設利用者と交流,保護司,保護観察官とともに作業をして連帯感を味わうことで,社会にかかわる自信を持つことができるようになったようなケースも認識しています。
少年事件と虞犯事件
1 虞犯少年とは何か?
虞犯少年とは,少年法3条1項3号に定められています。
少年法3条1項3号
次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照らして,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由ななく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかたわしい場所に出入りすること。
二 自己又は他人の徳性を害するおそれのある行為をする性癖のあること
虞犯少年は,現実に犯罪を行っている少年ではなく,将来の犯罪に結びつくような問題行動がある少年です。成人の場合には,現に犯罪を行っていなければ,将来の犯罪に結びつくような問題行動があっても罰せられることはありません。
未だ犯罪を行っていないものの,将来の犯罪に結びつくような問題行動がある少年をどのように取り扱うかについては,国によって対応が分かれています。日本のように一定の枠をつくって,その枠の中にはいった少年を司法制度の枠内で対応していくところもありますし,行政による助けが必要な少年ということで虐待少年等と同じく児童福祉制度の枠の中で扱うところもあります。
2 虞犯少年という類型をつくるメリットデメリット
虞犯少年を司法制度に取り込むことや少年法における虞犯の定め方には,批判もあります。
少年法上の虞犯の制度に対する批判は以下のようなものです。
① 実際に犯罪を行っておらず,他人に危害を加えたわけでもないのに,非行の類型とするのは妥当でない。
② 将来,罪を犯したり,刑罰法令に触れたりする可能性を正確に予測することは困難。
③ 少年法の定める虞犯事由は曖昧で不当に少年の自由を制約するおそれがある。
確かに,虞犯という概念を広げていくと,幅広く少年に処分を加えることが可能になり,少年の人権侵害を招きかねないという問題はあります。現に犯罪を行っていなくても,犯罪を行いそうというだけで処分されてしまうという危険性は理解できるところかと思います。
もっとも,実際問題として,現に犯罪を行ってからでないと司法が介入できないということになると,少年本人にとっても深刻な事態が招来される可能性があることは否定できないところがあります。そのような少年に対して,時には強制的な措置を使ってでも少年に対する働きかけを行っていく必要があること自体は否定できないところだと思います。仮に,少年法上の虞犯を児童福祉制度の枠内に取り込むような制度をつくったとしても,少年自身の保護のために,一定の強制措置を認めることにはならざるをえないと思います。結局,現状の少年法の虞犯制度の存在自体は必要なものだと思います。
ただ,虞犯の要件を考える上では,いろいろな問題があり,虞犯制度の危険性等を踏まえて虞犯の要件等を考えていく必要があるかと思います。
3 虞犯の要件
虞犯の要件は,少年法3条1項3号に定められたイから二までの事由(これを虞犯事由といいます。)のどれかに該当し,かつ,性格又は環境に照らして,将来,犯罪,触法行為をするおそれのあることです(将来,犯罪等をするおそれがあることを虞犯性といいます。)。
問題となることが多いのは,虞犯性です。虞犯性は,将来,犯罪等をするおそれのあることをいいますが,実務上は,単なる推測ではなく,経験則に基づき高度な蓋然性があることを意味するとされています。
また,虞犯事由と虞犯性の関係ですが,虞犯事由が認められるのであれば,虞犯性があることも推認されるという見解もあります。もっとも,実務上は,虞犯事由があるからといって,直ちに虞犯性が認められるというような処理はされておらず,虞犯事由以外の幅広い事情から虞犯性の有無を判断するのが一般的かと思います。
上記のとおり,虞犯制度は,少年に不必要な権利制約を加える危険性があり,それを避けるためにも,虞犯性の要件は厳密に考えるべきと思われます。
★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
少年事件に強い弁護士
少年事件の付添人とは?
1 弁護人と付添人の違いは何?
「弁護人」と「付添人」はどこが違うのでしょうか。
少年事件では,少年が,家庭裁判所に送致されたあと,少年や保護者は,付添人を選任することができます。
少年事件において,家庭裁判所に送致される前の段階(捜査の段階)では,弁護人として選任することができますが,捜査段階の弁護人選任の効力は,家庭裁所送致時に失われます(最高裁判所昭和32年6月12日決定は,被疑者の弁護人として選任届が提出されていても,同事件が家庭裁判所に送致後,改めて付添人として選任しなければ,当該弁護人を当然に付添人ということはできないと判示しています。)。
成人の刑事事件では,起訴前に弁護人として選任された弁護人が,起訴後も当然に弁護人となります(刑事訴訟法17条)。
これが,成人事件と少年事件の違いの一つです。
2 だれが付添人になれるのか?
あるサスペンス小説で,少年が,弁護士にして,なかなか事件のことの話をしようとしないので,保護者が付添人になって真相解明に乗り出すというものがありました。
実際に,少年事件の付添人は,資格等に制限があるわけではなく,保護者もなることができます(少年法10条2項。ただ,弁護士以外のものがなる場合には,家庭裁判所の許可が必要となります(少年法10条1項))。
そのため,少年の保護者も家庭裁判所の許可を受けて付添人になることはできるのです。後記のとおり,少年の保護者ではできなくても,付添人であればできることもありますので,保護者が付添人になる意味が全くないわけではありません。
そういった意味で,保護者が付添人になるという小説のストーリーはなかなか考えられたものだと思いました。
ただし,付添人としての重要な責任を果たすためには,少年法に関する知識,少年の成長発達に関する知識等が必要になってくることが多く,弁護士が付添人になることが望ましいことは間違いないと思います。実際,付添人のほとんどが弁護士付添人で,その割合は90%を超えるといわれています(平成25年では,98.7%に達しているようです。)。
3 私選付添人と国選付添人
付添人は選任者によって私選付添人と国選付添人とに分かれます。私選付添人は,私人が選任した付添人,国選付添人は裁判所が選任した付添人です。
私選の付添人を選任することができるのは,少年と少年の保護者です(少年法10条1項)。少年は十分に判断能力がない場合もありますので,保護者は,少年の意思に反しても付添人を選任することができますし,また,少年は,保護者が選任した付添人を解任することもできないとされています。
一方,国選付添人が選任されるのは,以下の場合です。
パターン①
・検察官の関与の決定された,かつ,少年に弁護士である付添人がいない事件(少年法22条の3第1項)
パターン②
・故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合,死刑または無期もしくは長期2年以上の懲役懲役もしくは禁固にあたる罪の事件であって,
・少年に弁護士の付添人が選任されておらず,
・少年が少年鑑別所に収容されていて,
・しかも,家庭裁判所が弁護士である付添人を関与させることが適切であると判断した事件(少年法22条の3第2項)
パターン③
・被害者等による審判傍聴が実施される事件で少年に弁護士である付添人が付されていない事件(少年法22条の5第1項)
成人事件における国選弁護人は,選任される事件に限定はありませんが,少年事件は,以上のとおりかなり限定的な場合に,国選付添人が選任されるということになっています。
4 付添人の権限
付添人には,以下のような権限が認められています。
・審判への出席権(少年審判規則28条4項)
・記録及び証拠物の閲覧権(少年審判規則7条2項)
・少年鑑別所における収容中の少年との立会人なしの面会権(少年鑑別所法81条1項)
・少年に審判における証拠調べ手続における立会権と証人や鑑定人への尋問権(少年法14条2項,15条2項)
・審判での意見陳述権(少年審判規則30条)
・証拠調べの申出権(少年審判規則29条の3)
・保護処分決定に対する抗告権(少年法32条)
5 国選付添人と私選付添人はどちらがよいか。
よく法律相談で国選付添人と私選付添人のどちらがよいかということを聞かれます。
一概にどちらがよいかということは判断できません。
国選付添人のメリットは,国費で付添人を選任できることです。私選付添人のメリットは,自ら付添人を選任することができるということです。
一般の方の中には,国選付添人は,私選付添人より能力が低い,あるいは熱意がないと考えられている方もいます。
しかし,必ずしもそうとは言い切れません。国選付添人をやられている弁護士の中には,経験豊富で能力も高く,ほとばしる情熱を持っている方もいます。逆に,私選付添人をされている方の中にも,経験,能力がともに乏しく,情熱もいまいちという方もいます。要は,国選であるにせよ,私選であるにせよ,誰が付添人になるかということが重要です。
国選付添人に不安を持ったら,私選付添人を検討されるのも一考かと思われます。余談ですが,少年審判のときに,「少年院での保護観察が相当である」という意見を述べた国選付添人がいたと聞いたことがあります(例えるなら,「左に右折しろ!」ということを言っているようなものです。)。少しでも,不安を感じることがありましたら,御相談をいただければと思います。
6 付添人の役割
昔から付添人の役割については議論がされてきました。
成人の刑事処分は,加害者に対する制裁であって,加害者にとってもっぱら不利益処分であることに争いはありません。
一方,少年事件の保護処分(保護観察処分,少年院送致等)は,少年にとって専ら不利益な処分とまでは言い切れないものがあります。少年の手続は,少年の成長発達に有益な教育的な処分という側面が否定できません。
そのため,付添人には,少年の権利を擁護する弁護人的性格と家庭裁判所が手続を円滑にすすめるのに協力する家庭裁判所の協力者的性格を併せ持つとされています
付添人の性格のうちどちらの性格を強調するかは,いくつか具体的な場面で問題となることがあります。例えば,付添人が,少年の改善教育にとっての効果を考えずに,少年の要求に従い,ひたすらに軽い処分を求めることができるか,あるいは,少年が親から虐待を受けているという事実を付添人が把握したものの,少年も親もそれを隠すことを望んでいる場合,付添人がその事実を裁判所に伝えるべきかなどです。
私の考え方としては,付添人は,少年の権利を擁護する弁護人的性格を強調すべきことを基本としつつ,その中で,少年の成長発達権を充足させるような最善の処遇を実現すべきと考えています。また,単に,「少年の意思」ということから短絡的に判断をせずに,そもそも少年の意思表示が有効なものなのかを真摯に検討したり(例えば,上記の二つ目の例では,少年の意思表示自体が無効であると思われます。),「少年の意思」を実現することが少年の利益にかなわないと考えるときは少年の意思」自体を変化させることができないか,少年に向かい合って真摯に話し合いをする必要があると思います(究極的には,少年院送致という処分を受けることを納得させる必要がある場面もあるように思います。)。
★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
少年事件に強い弁護士
家庭裁判所調査官の少年事件における役割
1 家庭裁判所調査官はどんな人?
少年事件は,家庭裁判所で審理をされます(裁判所法24条2号,33条1項2号)。警察や検察が捜査を終了したら,事件を家庭裁判所に送ることになっています(少年法41条,42条)。少年事件は全件送致主義が採用されておりますので,犯罪の嫌疑がある限り,原則として家庭裁判所に送致されます。全件送致主義については, 少年事件と全件送致主義で解説しましたが,家庭裁判所調査官がいるから,全件送致主義が採用されているといっても過言ではありません。家庭裁判所に送致されたあとは,家庭裁判所調査官の出番です。
家庭裁判所に裁判官のほかに,家庭裁判所調査官が配属されています。少年事件の特徴の一つとして,家庭裁判所の調査官が重要な役割を担っていて,裁判官と共同して事件の処理にあたることが挙げられます。実際,調査官は非常に大きな役割を果たしています。
調査官とはどういう人でしょうか?と聞かれることがあります。一般の方には,裁判官はイメージがしやすいものの,調査官はイメージしにくいようです。
調査官は,基本的には,心理学,教育学,社会学等を専門に勉強してきています。ですので,法律家の裁判官とは別個の観点から,少年の問題点をって,少年の更正のために適切な処遇を考えていることが期待できるのです。ちなみに,少年事件の調査官は,非常にやりがいがある仕事のようで,司法試験を受かっても弁護士にならずに,少年事件に調査官として関与したくて,調査官になった方もいるようです。
調査官は,裁判所職員(家庭裁判所調査官補)採用Ⅰ種試験に合格した者の中から,家庭裁判所調査官補(裁判所61条の3)として採用されたあと,最高裁判所に置かれた家庭裁判所職員総合研修所において2年間の専門的な養成研修を受けて,正式に家庭裁判所調査官の資格を得ることになります。調査官は,首席調査官,次席調査官,総括主任調査官,主任調査官,一般の調査官に別れています。
家庭裁判所調査官が,少年事件において非常に重要な役割を果たしていることは間違いないところであり,「家庭裁判所調査官は,家庭裁判所におけるケースワーク的機能・福祉的機能の重要な担い手として,家庭裁判所の人的構成の最も顕著な特色となっている。今日,その専門的能力は,裁判所内外において高い評価を受けているばかりか,諸外国の制度と対比しても,その実務的な能力・資格・養成制度等も含めて,最も優れた水準にあるものといっても過言ではない。」(注釈少年法・田宮裕,廣瀬健二[編]118頁)との評価も受けています。
2 調査前置主義と社会調査
家庭裁判所に事件が送られると,必ず,事件についての「調査」がされます(少年法8条1項)。これを調査前置主義といいます。
ここでいう「調査」は,大きく二つに分かれます。
一つ目が,非行事実の存否に関する調査です。要するに,少年が非行をしたのかどうかという点を調べる調査です。これを「法的調査」といいます。
二つ目が,要保護性に関する調査です。要保護性とは,簡単にいうと,少年は,どれくらい,再非行の可能性があるか,どういうことをすれば,再非行の可能性を小さくできるかということです(要保護性の詳しい解説は,「少年事件の要保護生とは?」を参照してください。)。これを「社会調査」といいます。
法的調査は,法律の専門家である裁判官が行います。
一方,社会調査は,裁判官の命令により,家庭裁判所調査官が行っています(少年法8条2項)。調査官の重要な役割は,この社会調査を行うことです。
社会調査の方法は,少年法9条に定められています。
「前条の調査は,なるべく,少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境等について,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用するように努めなければならない」
具体的には,調査官は,少年や保護者に面接をして話をしたり,学校や職場に照会状を送って回答をしてもらったり,家庭や学校への訪問等をしたりして,調査をしていきます。これらの中でも,中心となるのは,少年や保護者と面接して行う調査です。
3 家庭裁判所調査官の調査の流れ
裁判官による調査命令が出されると,調査官は,保護者や少年に対して,照会状を郵送して,回答を求めます。また,同時に,裁判所に呼び出しを行います。
照会書で聞かれることや,面接調査で聞かれることは,少年の成育歴,生活状況,性格,家庭状況,(少年・保護者の)経歴,事件の内容・原因についての認識,今後の生活・監督の方針,被害者に対する謝罪・弁償等の状況です。
最終的に,調査官は,照会書に対する回答や性少年や保護者が面接調査で答えた内容を少年調査票という記録に記載をされていくことになります。少年調査票には,調査官の処遇意見も記載されることになります。処遇意見とは,要するに,少年審判をするのか(あるいは,するまでもないのか),審判をする場合には,処分(少年院送致,保護観察等)をするのが適切か,あるいは特に処分をする必要もないかという点についての意見です。少年調査票に係れている調査官の処遇意見は,裁判官が,審判を開始するかどうか,あるいは審判でどのような処分をするかという判断をするにあたり非常に重要な資料となります。
4 家庭裁判所調査官と付添人
裁判官は,調査官の意見を重視する傾向にあります。また,調査官は多くの情報を持っていて,しかも,持っている情報を専門的な視点から分析することができます。そのため,付添人としては,調査官と面会して,重要な情報の提供を受けたり,調査官の処遇に関する意見を探ったり,また,解決すべき問題点等の意見を交換し合ったりすることが非常に重要になっています。
そのため,少なくとも,審判が開かれるような事件においては,付添人は,1回は調査官と面会して協議を行うのが一般的だと思います。
付添人が,調査官と意見交換をした結果,調査官と処遇に関する意見が一致したとしても,調査官として,懸念材料を持っていることも少なくありません。その場合,付添人が,少年や保護者に働きかけて,懸念材料を解消していく活動をすることがあります。また,仮に,付添人と調査官の処遇に関する意見が一致しなかった場合,付添人としては,調査官の考え方を分析して,調査官の意見の前提となっている少年の環境等を変える努力をするなど,調査官の意見を覆すために活動をしていくことになります。
余談になりますが,調査官との話から,その少年に関することだけでなく,一般論として,少年との接し方,かかわり方等について学べることも少なくなく,付添人の技量の研鑽の場としても有益ではないかと考えています。
5 少年審判での家庭裁判所調査官の役割
調査官は,少年審判にも出席します。ただ,裁判長の許可を得た場合には,調査官は,少年審判に出席しないことができます。実務上は,調査官が全事件の審判に立ち会うことは困難ですし,立ち会う意味が小さい事件もありますので,立ち合いを,観護措置のとられている事件,試験観察相当の意見が付されている事件,試験観察中の事件,裁判官が適切だと判断した事件に限定するという運用が行われているようです。
少年審判では,調査官も,少年に対して,質問をしたり,さとしたり,時には,説教をしたりすることがあります。裁判官は,少年とじっくり話をするのは,少年審判の日がはじめてというのが一般的ですが,調査官の場合には,少年審判の日までに,時間をかけてじっくり話をしています。少年と信頼関係をきずいている調査官の話は,少年の心を打つことも少なくないようです。
★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
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少年事件の記録
1 法律記録と社会記録
少年事件における記録は,法律記録(少年保護事件記録)と社会記録(調査記録)があります。
法律記録は,非行事実の存否を認定するための記録です。要するに,警察や検察から送られてくる,供述調書,実況見分調書等のことをいいます。
一方,社会記録は,家庭裁判所の送致後に作成される記録で,家庭裁判所の調査官が作成した調査結果や少年鑑別所の鑑別結果です。社会記録は,裁判官が,少年の要保護性の判断をする際に,重要な資料となります。
2 少年事件の記録の閲覧と謄写
少年事件の法律記録,社会記録を閲覧,謄写はどのような場合に認められているのでしょうか。
この点については,少年審判規則に規定があります。
少年審判規則第7条
① 保護事件の記録又は証拠物は,法第五条の二第一項の規定による場合又は当該記録若しくは証拠物の保管する裁判所の許可を受けた場合を除いては,閲覧又は謄写することができない。
② 付添人(法第六条の三の規定により選任された者を除く。以下同じ。)は,前項の規定にかかわらず,審判開始の決定があった後は,保護事件の記録又は証拠物を閲覧することができる。
要するに,原則として,少年事件の保護事件の記録は,裁判所の許可を受けた場合を除いては,閲覧,謄写することができないものの,付添人は審判開始決定後には法律記録の閲覧が可能になります(なお,被害者には,一定の範囲において,記録の閲覧,謄写をすることが認められていますが,波線部分は被害者の閲覧,謄写が認めている条項です。)。
一方,謄写については,付添人であっても,裁判所の許可を受けた場合に可能となります。
どのような範囲で謄写が認められるかという点については,法律で明確に規定されているわけではありません。
実務上は,法律記録については,個人情報等が記載された箇所について,マスキングがされるものの,それ以外の個所については謄写が可能となっています。一方,社会記録については,全ての個所について,謄写が認められないという扱いがされています。
もっとも,社会記録の謄写が認められないというのは,法律で規定されているわけではなく,あくまでも家庭裁判所の実務上の扱いに過ぎません。したがいまして,かつては,社会記録を徹底的に読み込んでこそ,付添人活動が充実するという信念のもとに,社会記録の謄写を認めていた裁判官もいたようです。ただ,現状では,社会記録の謄写が認められるのは,皆無といってもよいので,付添人は,必要な箇所をメモしてくる必要があります。
さらに,補足すると,メモを作成するにあたり,パソコンを使用することも,少なくとも,東京家庭裁判所においては認められていません(横浜家庭裁判所,千葉家庭裁判所等でも認められていないようです。)。裁判所としては,パソコンを使用してメモを作成するとなると,正確性や迅速性の観点から,謄写と変わらないと考えているようです。ただ,手書きのメモでも場合によっては,同じようなものを作成することが可能ですので,裁判所の考え方が,正しい考え方か疑問が残るものと思わざるをえないところがあることは事実です(パソコンの利用を認めてもらえるだけで,付添人の負担はかなり軽減されるのですが・・・。)。
3 少年事件の記録閲覧謄写のタイミング
法律記録は家庭裁判所に送致された段階ですべての資料がそろっています(もっとも,余罪事件や共犯事件の記録が追送というかたちで送られてくることも少なくありません。この場合,少年法規則第29条の5に基づき,家庭裁判所が,付添人に通知をすることになります。)。そこで,私の場合,法律記録は家庭裁判所に送致された後,すぐに,閲覧に行きます。そして,内容を確認した後,必要な箇所について,謄写の申請をするようにしています。
一方,社会記録は,家庭裁判所に送致されたあと,徐々に綴られていくものです。
身柄事件でいうと,少年審判期日の数日前に少年鑑別所が作成した鑑別結果通知書が綴られ,少年審判期日の2日から1日前に家庭裁判所の調査官が作成した調査票が綴られることになります。
したがって,少年事件を担当する場合,少年審判期日の数日前は比較的余裕をもった予定に調整しておくようにしています。
4 少年事件の記録と秘密保持
特に,社会記録は,重大プライバシーに関する情報が含まれていることもあり,例えば,少年自身が全く知らされていなかったような,家庭の秘密等に至る事情が記載されていることもあります。社会記録は,外に漏洩されないという前提で作成されていて,逆にいえば,そのような前提があるからこそ,貴重な情報が収集できるということがいえると思います。そのため,私としては,第三者に漏洩しないことはもちろん,少年,保護者にもみだりに内容を開陳しないようにしています。もっとも,社会記録の内容は,要保護性の解消のために有益な記載が多々含まれていることが多いので,必要に応じて,プライバシーの問題等が発生しない箇所を少年,保護者に伝えることはあります。
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少年事件の要保護性とは?
1 要保護性って何?
少年事件では,非行事実に加えて,要保護性も少年審判での審理の対象になるとされています。
要保護性とは,簡単にいうと,少年による再犯の危険性があり,保護処分により再犯の防止できることとされています(保護処分とは,少年院送致,保護観察等の処分です。)。
具体的には,以下の三つの要素から構成されているといわれています(少年法実務講義案(再訂版)39頁から40頁を参照)。
① 犯罪的危険性
この要素は,少年が,性格,環境等から,将来,非行を繰り返す可能性があることです。
② 矯正可能性
この要素は,保護処分によって,少年の犯罪的危険性を除去できる可能性があることです。
③ 保護相当性
この要素は,少年の処遇にとって,保護処分が有効,適切な手段であることです。例えば,児童福祉法上の措置や刑事処分など,他の手段をとることがより適切である場合には,要保護性がかけ保護処分に付することはできないことになります。
少年法のもとでは,少年が非行事実を行ったと認定されたとしても,将来,非行を繰り返すおそれがあり,保護処分等を行うことにより,将来の非行を防止できる可能性がなければ,保護処分に付することができないとされています。
例えば,少年法19条1項は,「家庭裁判所は,調査の結果,審判に付することができず,又は審判に付するのが相当でないと認めるときは,審判を開始しない旨の決定をしなければならない。」と定めており,少年法23条2項は,「家庭裁判所は,審判の結果,保護処分に付することができず,又は保護処分に付する必要がないと認めるときは,その旨の決定をしなければならない。」と定めております。これらは,非行事実が認定されたとしても,要保護性がない場合には,審判不開始決定をしたり,不処分決定をしたりすることを定めているのです。
要保護性は,単に,保護処分をするかどうかを決める要素となるだけでなく,どのような保護処分をするか決めるうえでも重要な要素となります。例えば,非行事実が軽微であっても,要保護性のうち上記①の要素が高い場合には,少年院送致のような思い保護処分に付されることもあります。
2 要保護性と環境調整
少年事件においては,要保護性というファクターが,非常に重要になってきます。
そのため,少年事件の付添人は,要保護性を解消(上記①を除去する)するための活動を行うことがあります。これを環境調整活動といいます。
要するに,環境調整活動とは,少年が再非行をしないための活動ということができます。付添人が行う環境調整活動は,非常に多岐にわたります。
以下はその一例です。
① 少年本人に内省を深めさせる活動
② 家族との折り合いが悪く,家庭に居場所がない場合には,家族関係の問題を解消するための活動
③ 学校側に在籍している少年の場合,今後も学校に在籍して,少年を受け入れてもらうための活動
④ 就業場所を確保するための活動
3 要保護性の審理の方法
少年事件では,非行事実の重大性ではなく,少年の要保護性の有無,程度によって,少年に言い渡す処分が決定されることになります。
成人の刑事事件の量刑では,「まず,犯行の動機,手段・方法,結果等の犯罪行為自体に関する要素(犯情)によって刑の大枠が定められたうえで,裁判所がその枠内で,一般予防や特別予防にかかわる犯情等からなる一般情状を考慮して,具体的な宣告刑を決定さするとされて」おります(少年法・川出敏裕 183頁)。すなわち,被告人が行った犯罪行為の重大性が決定的に重要な意味を持つことになります。この点は,少年事件と成人事件の大きな違いです。
それでは,少年事件において,要保護性は,どのように認定をされていくのでしょうか。
(1) 調査官による調査
少年の要保護性は,まず,裁判所の調査官による調査が行われて,その結果は,少年調査票という記録にまとめられることになります。裁判官は審判前に事前にその記録に目を通して,要保護性に対する心証をつくって審判に臨むことになります。
少年調査票は重要な資料になるので,付添人も,必ず,当該資料を読んで内容を分析したうえで,審理に臨むことになります。
(2)少年 審判期日における審理
少年審判期日においては,まず,非行事実に関する審理を行い,非行事実が認められるということになった場合,引続き要保護性の審理も行われます。審理は,基本的に,裁判官が,少年に対して,非行の動機・経緯・原因,少年の生活状況,学校・職場での就学・就労状況,家庭環境等について質問をして,少年が,この質問に回答する形で行われます。
そのあと,裁判官が,審判に出頭した少年の保護者に質問をしたり,付添人や調査官が,少年,保護者に質問をしたりすることになります。
以上のような審理を経て,裁判官は,要保護性についての最終的な心証を確定して,それに基づき処分を言い渡すことになります。
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