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少年事件の捜査~成人の刑事事件の捜査との違い~

2016-01-03

1 犯罪少年に対する捜査の原則

 少年(以下,犯罪少年の意味で用います。)の被疑者に対する捜査と成人の被疑者に対する捜査はどういった違いがあるのでしょうか。 

 少年法40条は,以下のとおり規定しています。

「少年の刑事事件については,この法律で定めるものの外,一般の例による。」

 「一般の例」というのは,要するに,刑事訴訟法,刑事訴訟法規則等により規定されている成人の捜査に関する規定のことです。少年の刑事事件の捜査については,少年法で特別の規定がない限り,成人の事件と同一に処理をされていくことになるのです。

2 勾留ができる要件の特則など

 少年法には,勾留に関して特別な規定があります。

 少年の被疑者について逮捕・勾留される可能性があることは,成人の被疑者と変わりはありません。勾留の要件は,刑事訴訟法60条に記載されています。要するに,証拠隠滅か逃亡のおそれがある場合に勾留されることになっています。

 もっとも,心身ともに未熟な少年に対して逮捕勾留することは可能な限り回避することが望ましいのです。

 そのため,少年法は勾留に関して以下の特則を定めています。

 少年法48条
1 勾留状は,やむを得ない場合でなければ,少年に対して発することはできない。
2 少年を勾留する場合には,少年鑑別所にこれを拘禁することができる。
3 (略)

 上記のとおり,少年にとって勾留が心身に及ぼす悪影響が大きいこと,また,後記のとおり少年については「勾留にかわる観護措置」という手段をとることができるため,少年については,「やむを得ない場合でなければ」勾留することができないとされているのです。
「やむを得ない場合」とは,施設上の理由(少年鑑別所は基本的に家庭裁判所の本庁所在地にしかなく定員も限られている。すでに定員が満員になっている場合には,「やむを得ない場合」と判断される。),少年の資質(年齢,非行歴,性格等から成人と同様に勾留しても弊害がない。),事件の内容(重大事件や事案の複雑な事件の場合には,捜査をする必要が高いので,「やむを得ない場合」に該当することが少なくない。)等の事情を総合的に判断して決定するものとされています。

 ただ,実務上は,「やむを得ない場合」という規定が非常に緩やかに解釈されている印象を持ちます。少年事件であっても,成人の刑事事件とほぼ同じような基準で勾留が認められてしまっているといっても過言ではないと思います(もちろん,成人の刑事事件では勾留されるであろう事件について,逮捕後,勾留を経過せずに,家庭裁判所に送致をされて鑑別所に収容されるような事件もあります。)。

また,「やむを得ない場合」として,勾留が認められたとしても,裁判官の判断により,勾留場所を警察署ではなく,少年鑑別所とすることも可能です。
それでは,どのような場合に勾留場所を少年鑑別所とすべきでしょうか。
一般的には,「少年の勾留場所の選定についても,裁判官の合理的裁量によることになるが,根本的には少年の人権への配慮と捜査の必要性との総合考慮によって決定すべきである。・・・一般的な基準としては,16歳未満の少年・・・前歴のない少年,精神的発達の遅れが目立つ少年など,被影響性の強い少年については,少年鑑別所に勾留する方が適当である。」(注釈少年法[第3版]458頁 田宮裕・廣瀬健二編)とされています。

3 勾留に代わる観護措置とは?

 また,少年法は「勾留に代わる観護措置」という制度をもうけています

 検察官は,勾留の要件が備わっている場合,裁判官に対して,勾留に代えて観護措置の請求を行うことができます(少年法43条1項)。

 勾留と「勾留に代わる観護措置」は,以下の点で異なるとされています。

① 警察署ではなく,少年鑑別所に収容される。
② 勾留は延長することができるが,勾留に代わる裁判は延長することができない。

 ただ,この「勾留に関する観護措置」という制度は,一部の地域を除いて,利用されることは非常に少なくなっています。

4 犯罪捜査規範の特則

 結局,刑事訴訟法等の法律上は,少年の捜査と成人の捜査では大きな違いがないのですが,刑事訴訟法等の法律の運用上は,少年の健全な育成を目的とする少年法の理念に服するべきものとされています。そのような理念を具体化するために.国家公安員会規則の犯罪捜査規範の中で,少年の刑事事件の捜査の心構え等が規定されています。

 例えば,以下のような規定があります。

 犯罪捜査規範 203条
少年事件の捜査については,家庭裁判所における審判その他の処理に資することを念頭に置き,少年の健全な育成を期する精神をもって,これに当たらなければならない。

 犯罪捜査規範 204条
少年事件の捜査を行うに当たっては,少年の特性にかんがみ,特に,他人の耳目に触れないようにし,取調べの言動に注意する等温情と理解をもってあたり,その心情を傷つけないように努めなければならない。

 犯罪捜査規範 207条
 少年の被疑者の呼び出し又は取調べを行うに当たっては,当該少年の保護者又はこれに代わるべき者に連絡するものとする。ただし,連絡をすることが当該少年の福祉上不適当であると認められるときは,この限りでない。

犯罪捜査規範 208条
 少年の被疑者については,なるべく身柄の拘束を避け,やむを得ず,逮捕,連行または護送する場合には,その時期及び奉納について特に慎重な注意をしなければならない。

  また,「少年警察活動推進上の留意事項について(依命通達))」という通達では,少年の被疑者の取調べを行う場合においては,やむを得ない場合を除き,少年と同行した保護者その他適切な者を立ち会わせることに留意するものとされています。

 もっとも,以上のような犯罪捜査規範や通達に沿った運用がされているか多分に怪しいものがあります。私の経験上も,上記の通達を根拠として,少年の取調べに立ち会いたいと交渉することがありますが,認めてもらえないことが大半です。

 

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   少年事件に強い弁護士

全件送致主義~少年事件では示談をしても裁判所に送られる?~

2016-01-02

1 全件送致主義と起訴便宜主義

少年事件の大きな特徴の一つとして「全件送致主義」という原則が採用されていることがあげられます。

少年事件では,捜査機関は,一定の嫌疑がある限り,原則としてすべての事件を家庭裁判所に送致しなければなりません。これを「全件送致主義」といいます。要するに,被害金額が少ない事件,示談ができた事件であっても,原則として,家庭裁判所に送致をされるのです(捜査機関により,嫌疑がないということであれば,家庭裁判所に送致されずに終了することになります。)。

これに対して,成人の刑事事件では,起訴便宜主義が採用されています。これは,捜査機関が,被疑者の性格や年齢、犯罪の軽重や情状を考慮し,起訴するか否か,要するに,裁判等をするかを判断するという原則です。

例えば,成人男性が痴漢をした場合,被害者と示談が成立すれば,不起訴処分となり,裁判にならずに終わることが多いです。一方,少年が痴漢をした場合,被害者と示談が成立したとしても,検察官は,家庭裁判所に事件を送致します。

少年事件の場合,「示談はあまり意味がないのですか?」ということを聞かれることがありますが,成人男性だと不起訴になるのに,少年だと家裁送致になるというケースがあるということは事実です。

全件送致主義を定める少年法の条文は以下のとおりです。

(司法警察員の送致)
第四十一条  司法警察員は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは,これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも,家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは,同様である。

(検察官の送致)
第四十二条  検察官は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑があるものと思料するときは,第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて,これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも,家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは,同様である。

2 なぜ,全件送致主義が採用されているのか?

少年法は少年に甘いということをいう人が多いのですが,全件送致主義と起訴便宜主義を比べると単純にそのように割り切ることができないことが分かります。

それでは,なぜ,一見すると,少年に厳しいように見える,全件送致主義が採用されているのでしょうか。それは,端的にいうと,少年法が少年の健全育成を目的としているからということになります。

この点については,少年法[川出敏裕]3頁の説明が分かりやすいので,そのまま引用します。

「事件の客観的な側面だけをみるかぎり,軽微なものであっても,それが少年の深い犯罪性の表れであるかもしれず,それをよく調査したうえで,その少年にとって最も適切な措置を行う必要があること,そして,その調査と判断を行うのに適した期間は,そのためのスタッフを備えた家庭裁判所であって捜査機関ではないとい考え方に基づいているのである。」

例えば,上の例で,少年が痴漢の被害者と示談をすることができたからといって,少年に問題がないということを示しているわけではありません。もしかしたら,少年は,資質,生活環境等に重大な問題を抱えているかもしれません。しかも,少年について,そのような問題点が解消されなければ,今後も,同じように痴漢をしてしまう可能性があるかもしれません。捜査機関は,捜査のプロフェッショナルであっても,そのような少年の資質,環境等について,調査,判断するプロフェッショナルではありません。そこで,そのような少年の問題性を調査,判断するスタッフを備えた家庭裁判所に判断をさせることが適切であるということで,全件送致主義が採用されています。

3 全件送致主義に例外はあるのか

全件送致主義の唯一の例外が,交通反則通告制度の対象となる,軽微な道路交通法違反事件です。この制度が利用される場合には,少年であっても,反則金を支払えば,家庭裁判所に事件が送致されることなく,警察段階で手続が打ち切られることになっています(道路交通法130条)。

4 簡易送致って何?

また,捜査機関が,家庭裁判所に送致する際に,簡易送致という特別な送致の方式がとられることがあります。簡易送致とはあくまでも送致の方式の一つで,当該方式によっても,捜査機関が家庭裁判所に送致すること自体にかわりはありません。ですので,全件送致主義の例外ではありません。ただ,実質的にみると,全件送致主義の例外に近いのではないかと思えることもあります。

簡易送致の要件は以下のとおりです。

① 犯罪事実が軽微
② 犯罪の原因,動機,少年の性格,行状,家庭の状況・環境等から,再犯のおそれがないこと
③ 刑事処分または保護処分を行う必要がないと明らかに認められること
④ 窃盗,詐欺,横領及び盗品等に関する罪,または長期3年以下の懲役若しくは禁固,罰金,拘留または科料にあたる罪の事件であること
⑤ 被害の程度としては,被害額または盗品等の価額の総額がおおむね1万円以下のもの,その他法益侵害の程度が極めて軽微なものであること
⑥ 犯行に凶器を使用したものでないこと,被疑事実が複数あるものでないこと,かつて飛行を犯し,過去2年以内に家庭裁判所に送致または通告されたものでないこと,被疑事実を否認していないこと,告訴・告発に係るものでないこと,被疑者を逮捕したものでないこと,権利者に返還できない証拠物がないこと

長期3年以下の懲役の罪の事件はなかなかないように思いますので,実際には窃盗等の財産事件でよく使われているように思います。要するに,簡易送致とは,犯罪事実が軽微で,少年に処分を下す必要がないことが明らかな場合にとることのできる制度です。

簡易送致の方式で事件が送致された場合,家庭裁判所は,事件の記録に基づいて,簡易送致の形式的な基準に適合しているかどうか,刑事処分又は保護処分を必要としないと明らかに認められるかを判断して,それに合致していれば,それ以上の調査等をすることなく,審判不開始決定をすることになります。

簡易送致の方式で送致がされた場合でも,裁判所が,通常の事件と同様に調査,審判をする必要があると認められた場合には,調査命令を出したり,また,審判開始決定をしたりすることも可能です。ただ,実際に,調査,審判がなされることは少ないので,家庭裁判所の判断は形式的なものにとどまるという見方もできます。そうすると,実質的には,全件送致主義の例外に近いものと考えることもできるのです。実務的には,少年事件のうち30%くらいは簡易送致で処理をされているといわれており,全件送致主義の高い理想から外れていないかという問題はあると思います。ただ,現実問題として重要な事件に裁判所の限られた資源を投入することを可能とするためには意義のある制度なのかもしれません。

 

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少年法の対象~何をしたら少年事件~

2016-01-01

1 少年ってなに?

 少年法は,「非行少年」を対象とする法律といわれています。それでは,「非行少年」とはどのような意味でしょうか。

 まず,「少年」は,少年法2条1項に定義が書かれています。いうまでもなく,少年=二十歳に満たない者です。
非行をした時点で,「少年」であっても,その後,成人すると,少年法の対象ではなくなります。19歳のときに窃盗を犯しても,20歳になると,少年審判で処分をすることはできなくなります。20歳になりそうな少年をどのように扱うかは 年齢切迫の少年事件の投稿を参照してください。

2 非行ってなに?

 一方,「非行」という言葉はやや注意が必要です。一般的に非行というと,タバコをすったり,飲酒をしたりすることも含みます。警察活動として行われる補導も,同様の行為の防止をも目的とするものです。
もっとも,少年法が対象としている「非行」は,より限定された意味で使われています。具体的には,少年法3条1項に該当する少年だけが「非行」少年ということになります。

 具体的には,以下のように記載されています。

少年法3条1項
1 罪を犯した少年
2 十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
3 次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照らして,将来,罪を犯し,または刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年

イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入りすること
二 自己又は他人の特性を害する行為をする性癖のあること

 以上のうち,1号は,犯罪少年といわれる類型です。犯罪をしてしまった少年がこれに該当します。

 2号は,触法少年といわれる類型です。刑罰法令に違反する行為をした14歳未満の少年がこれに該当します。犯罪=刑罰法令に違反する行為ではありません。14歳未満の少年が,刑罰法令に違反する行為をしたとしても,責任能力がないため,いかなる意味においても,犯罪とはなりません。逆にいえば,14歳未満の少年は,何をしても,犯罪をすることはできないことになります(少年法3条1項2号により,「非行」をしたとして,少年法の対象とはなります。)。
 3号は,虞犯少年といわれる類型で,上にかいたイ,ロ,ハのいずれかに該当し,将来,罪を犯し,または刑罰法令に触れる行為をするおそれのあることが要件となります。イ,ロ,ハ,二の事由があること(波線部分)を虞犯事由,将来刑罰法令に違反する行為をするおそれがあること(二重線部分)を,虞犯性といいます。

3 虞犯は特別?

    触法少年は,刑罰法令に違反することが要件となりますが,虞犯少年は,刑罰法令に違反することすらも要件とはなりません。刑罰法令に違反しなくても,少年法の対象とされているのです。少年法の理念が,単に過去の行為に応じて処罰を下すというものではなく,将来に向かって少年を教育して,再非行を防止するという点にあることが顕著にあらわれています。
 もっとも,虞犯は抽象的に記載されておりますので,将来犯罪をするおそれがある,という将来の予測が要件となっておりますので,非常に曖昧な概念であることは事実です。反抗期の少年であれば,「保護者の正当な監督」を拒絶しがちな場合も少なくないかと思います。そのような監督を拒絶しがちな少年は,将来犯罪をする虞がある!と簡単に認定されてしまうと,あまりに広い範囲の少年が虞犯ということになってしまいます。

そこで,虞犯性を認定するためには,慎重な判断が必要です。虞犯性は,少年の性格や環境に照らし,将来罪を犯しまたは刑罰法令に触れる行為をする危険が,ある程度具体的に予測されるものであることが必要となります(名古屋高等裁判所決定昭和46年10月27日家月24巻6号66頁等を参照)。実務上は,虞犯事由以外の様々な事情を考慮して,虞犯性を判断することが多いと思います。
 虞犯については,いろいろと問題があるところですので,少年事件と虞犯事件についてでまとめています。

 一つ虞犯少年に関して面白い審判例を紹介します。東京家庭裁判所平成27年6月26日の審判は,現金受取型特殊詐欺の実行行為の一部(いわゆる受け子)に関与したこと等を内容とする虞犯を認定して,少年を第一種少年院に送致しました。もともと,少年は,詐欺罪で逮捕されたものの,家庭裁判所に送致する段階で,少年の犯罪に関与していることの故意が明確でなかったため,虞犯として送致をされたものと考えられます。結局,証拠上,犯罪少年として認定することが困難だったため,犯罪をしていなくても認定できる虞犯少年として送致された事案で,実務上もあまりみない類型のように思います。

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少年事件の取調べ~傾向と対策~

2015-12-26

1 少年の被疑者の取調べと成人の被疑者の取調べ

 少年の被疑者の取調については,刑事訴訟法や少年法に特別な規定はありません。ですので,成人の事件と同じように行われます。

 もっとも,一般的に,少年は,被暗示性・迎合性が高く,意に反する供述調書が作成される可能性が高いといわれています。また,特に否認事件では,いまだに,捜査機関によって脅迫的・威圧的な取調べが行われることもあります。

 少年事件の場合,供述調書が作成されてしまうと,あとで,供述調書に記載された内容を争うことは非常に困難となります(成人の事件も同様ですが,少年事件の場合,捜査機関が作成した記録は全て家庭裁判所に送付され,証拠として採用されることに制限はないので,成人の事件にも増して,供述調書の内容を争うことは困難となるということがいえると思います。)。

2 少年の取調べに対する対応

 私の場合,少年事件で問題のある調書が作成されないように,いくつか工夫をしております。以下はその一部です。

① 接見回数を増やす!

 とにかく,接見回数を増やして,少年に対して供述調書の重要性,問題のある供述調書が作成されてしまうと,取り返しのつかない可能性があること,捜査機関の取調べの方法を繰り返して説明することが重要です。また,捜査機関の言動,取調べの状況等を逐一把握することも欠かせません。特に,否認事件の場合は,毎日,接見に行くことを基本としています。

② とにかく分かりやすい表現をする!

 少年の場合,成人と比較して,法律的な用語に対する理解が不足している可能性がありますので,とにかく,少年に対して,法律用語を丁寧に説明することが必須になります。

 例えば,以下の事案で考えたいと思います。

・少年が,被害者に対して,包丁で切り付けた。
・被害者は,負傷したものの,一命はとりとめた。
・少年が,殺人未遂罪の被疑事実で逮捕・勾留された。
・少年は,殺すつもりはなかったということで,殺意を否認している。

この場合,弁護人が,少年に対して,「取調べでは,殺意は否認してください。」と説明するだけでは著しく不十分だと思われます。

 そもそも,殺意(殺人の故意)とは,被害者が死亡すると認識して,その結果を認容する心理状況とされています。

 例えば,
「殺してやると思って,切り付けてしまいました。」
と記載された供述調書は,当然,殺人の故意を自白したということになります。
さらに,
「死なないかもしれないと思ったし,死んでしまうかもとも思ったけど,結局,どうなってもいいと思って,切り付けてしまいました。」
と記載された供述調書も,殺人の故意を自白した供述調書になってしまいます(専門的には「未必の故意」を自白したということになると思います。)。
このような内容でも,被害者が死亡すると認識して,その結果を認容してしまっていることになっておりますので,殺人の故意がある記載になってしまっているのです。

単に,少年に対して「殺意を否認してください」というだけでは,後者のような供述調書が作成されるのを防止することはできません。内容的にも一読しただけだと意味をとりにくいので,少年が,よく分からないまま,供述調書に署名,指印をしてしまうことも十分に考えられます(例えば,少年が,「死なないかもしれないと思った。」と記載されているから問題ないと考えて,署名,指印してしまうことはありうることだと思います。)。

そのため,少年に対して,殺人の故意とは何かを具体的かつ丁寧に説明したうえで,捜査機関が調書に記載しそうなストーリーを想定して,捜査機関が作り出しそうな文言を考えながら話をする必要があると思います。

③ 黙秘の練習!

 少年にも黙秘権が保障されていることは当然です(憲法38条1項,刑事訴訟法192条1項)。そこで,必要に応じて,少年に対して,黙秘をすすめることがあります。

 もっとも,単に,取調べにおいて,黙秘をするということは,想像以上に困難です。捜査機関が,事件に関係のある話,ない話を交えながら,様々な話をしていく中で,少年が黙秘を貫くことは非常に難しいものがあります(実際に,屈強な成人の被疑者であっても,簡単に,黙秘できなくなってしまうケースは何度も見てきています。)。

 そこで,私の場合は,黙秘をすすめる場合,私が警察官になりきって,少年と一緒に黙秘の練習をすることがあります。少年に,「黙っている」ことを経験させるのです。

 また,捜査機関は,少年の取調べの状況や少年の言動・態度などを(例えば,「少年はふてくされた態度をとっていた。」など),捜査機関の主観を交えながら,報告書等(「取調状況報告書」という名称がつくことが多いです。)に記載することがあります。必要以上に変な報告書が作成されないようにするためにも,黙秘をするにしても,「練習」が必要になってくるのです。

3 最近の傾向

 最近の傾向としては,検察に送致されて一番最初に作成する弁解録取書で,かなり詳細な事実関係を記載することがあるといわれています。勾留後は,被疑者国選弁護人制度が定着したため,勾留後は弁護人が選任されることが一般的ですので,検察としても,弁護人が介在する前に,詳細な自白をとっておきたいと考えているといわれています。そのため,とにかく,時間との戦いということを肝に銘じて,少しでも早く,接見に行くようにしています。

 

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触法少年事件の難しさ

2015-08-02

少年事件の中で,触法事件という類型があります。触法事件とは,触法少年を対象とする事件です。触法少年とは,14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年をいいます(少年法3条1項2号)。

14歳未満の少年は,刑事責任能力がありません(刑法41条1項)。責任能力がないものが,刑罰法令に違反する行為を行っても「犯罪」にはなりません。簡単にいうと,14歳未満の少年は,絶対に「犯罪」をすることはできないのです。「触法」とは,「犯罪」ではないが,刑罰法規に抵触するという意味で使用されています。

触法少年は,犯罪をしたわけではないので,逮捕,勾留をすることはもちろん,捜査をすることもできません(警察は,捜査をすることはできませんが,「調査」をすることはできます。)。すなわち,14歳以上の犯罪少年と14歳未満の触法少年では,別個の規律が定められています。私自身,触法少年事件の付添人として活動をしたことがありますが,犯罪少年の事件にはない,様々な困難にぶつかりました。その点を説明する前に,簡単に触法事件の特徴を簡単に説明します。

① 触法少年については,児童福祉機関(児童相談所)による措置に委ね,児童福祉機関が相当と認めた場合に家庭裁判所に送致をすることになっています(児童福祉機関先議の原則です。)。

② 児童相談所所長は,福祉的措置が適切であると判断した場合は,当該福祉的措置をとります。福祉的措置には,児童,保護者への訓戒,誓約書の提出といった,(少年に与える影響が)比較的軽いものから,児童福祉施設への入所措置,里親委託といった重大なものまであります。

③ 児童相談所所長が,家庭裁判所の審判に付することが相当であると判断した場合には,事件を家庭裁判所に送致をします。触法事件において,事件を家庭裁判所に送致する権限を有するのは,児童相談所所長で,検察官や警察官ではありません(少年法3条2項)。なお,児童相談所所長は,故意の犯罪行為により,被害者を死亡させた罪,死刑,無期,短期2年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪の場合については,原則として家庭裁判所に送致しなければならないとされています(少年法22条の2第1項)。

④ 家庭裁判所で審判の処分は,一般の犯罪少年と異なることはありません。ただし,施設に収容される場合,当該施設は,少年院ではなく,児童自立支援施設になることが多いです。なお,少年院送致は,「おおむね12歳以上」の少年に可能ですが,保護処分決定時に14歳未満の少年の場合,「特に必要と認める場合」である場合のみ,少年院送致が可能です(少年法24条1項ただし書き)。

⑤ 警察官は,捜査をすることはできませんが,事件の真相を明らかにするため,調査をすることができます(少年法6条の2第2項)。当該調査に関して,少年及び保護者は,付添人を選任することができます。

⑥ 少年を逮捕,勾留することはできませんが,児童相談所所長が,「一時保護」をとることにより,少年の身柄を拘束することができます。

触法事件の大きな特徴は,上で書いたように,児童相談所所長が,少年の身柄を拘束するかどうか,少年に福祉的措置をとるかどうか,事件を家庭裁判所に送致をするかどうかを決定する大きな権限を持っているという点です。そのため,触法事件の付添人となった場合には,児童相談所と対峙して,時には意見を言って議論をして,時には協調しあっていく必要があります。ただし,私の経験上,触法事件は福祉の枠組みで処理をされていくため,付添人としての活動が困難になるという場面に出くわすことがよくあります。毎回,触法事件の難しさを痛感します。

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保護観察について(少年事件)

2015-06-06

 

1 保護観察とは何ですか。

 少年事件の保護観察について説明していきます。なお,保護観察の一般的な説明については,少年事件に強い弁護士 のQ&Aのコーナーもご参照ください。 

 保護観察とは,少年を施設(要するに少年院等のことです。)に収容することなく,社会の中で普通に生活をさせながら,改善更生をさせるために働きかけを行うという処分です。少年院に生かせたくない!という希望がある場合,少年審判の中で,保護観察の処分を獲得することが一つの目標になります。

2 保護観察の種類にはどのようなものがありますか。

 保護観察の種類には,以下のものがあります。

1号観察

少年法24条1項1号の保護処分に付されているもの

更生保護法48条1号

2号観察

少年院からの仮退院を許されて更生保護法42条において準用する同法40条の規定により保護観察に付されている者

更生保護法48条3号

3号観察

仮釈放を許されて更生保護法40条の規定により保護観察により付されている者

更生保護法48条4号

4号観察

刑法25条の2第1項の規定により保護観察に付されているもの

更生保護法48条4号

3 保護観察は誰が実施するのですか。

(1) 保護観察官と保護司について

 保護観察は,少年の居住地の保護観察所が中心となっておこないます(更生保護法60条)。

 実際に,保護観察で少年に指導監督・補導援護を行うのは,保護観察官または保護司と呼ばれる人たちです(更生保護法61条1項)。保護観察所の所長が,少年を担当する保護観察官及び保護司を指名します。

 保護観察官は,保護観察所等の専従の職員です。保護司は,いわゆる有識者で,非常勤・無給の国家公務員です。当然,守秘義務も課されます。

(2) 保護観察官と保護司が決まるまでの流れ

 東京家庭裁判所で保護観察の決定が出ますと,家庭裁判所庁舎内(2階)の東京保護観察所分室へ行くように指示されます。その分室で,保護観察について簡単に説明を受けたのあと,法務省中央合同庁舎内にある東京保護観察所(裁判所の隣の建物です。)へ出頭するように指示されます。そこに行くと,担当となる保護観察官が決まっていて,担当の保護観察官との面接があります。また,その面接の際に,担当の保護司が決まります。

 その後は,保護司が,少年と実際に接触をしていき,保護観察官は前面にはでないことが多いです。もっとも,処遇が困難な少年の場合には,保護観察官が直接担当する「直担」という制度もあります。

(3) 少年と保護司の相性があわない場合

 少年と保護司の相性は,保護観察を成功させるために看過することができない要素です。

 仮に少年と保護司の相性が悪く,少年の更正の観点から,重大な問題が生じている場合,あるいは生じそうな場合には,保護観察所に,担当保護司を変更したり,直担にしたりすることを申し入れることもあります。

4 保護観察はいつになったら終わるのですか。

 保護観察の期間は,原則として,少年が20歳に達するまでです(更生保護法66条)。ただし,保護観察の決定が出てから,少年が20歳に達するまでの期間が2年に満たないときは,2年とされています(更生保護法66条)。

 もっとも,保護観察を継続する必要がなくなったときには,保護観察が解除されます。解除が検討される期間は,後記「5」の保護観察の類型によって異なります。

5 保護観察にはどのような種類がありますか。

(1) 一般保護観察について

 一般保護観察は, 文字どおり,一般的な保護観察です。一般的でない特殊な保護観察とは,①交通事件に関する保護観察と②短期処遇勧告がなされた保護観察ですので,それ以外が,一般短期保護観察となります。

 一般保護観察は,保護観察に付されてから,おおむね1年を経過し,3か月以上継続して成績良好であれば,解除が検討されます。

(2) 一般短期保護観察について

 一般短期保護観察は,交通事件以外の事件で,保護観察に付された少年で短期処遇勧告がなされた少年です。

 短期保護観察に付するのは,①非行性がそれほど根深くないもの,②資質に著しい偏りがないこと,③反社会的集団に加入していないこと,④保護環境が著しく不良でないことに該当して,かつ,特別遵守事項が決められていない少年であって,短期間の指導監督及び補導援護により更生を期待できるものです。

 一般保護観察は,おおむね6か月以上7か月以内の期間に解除が検討されます。逆に,10ヶ月以内に解除できないときは,一般保護観察に切り替えがされます。

(3) 交通保護観察について

 交通頬観察の対象となるのは,交通関係事件で保護観察に付された少年で,短期処遇勧告がなされていない少年です。交通保護観察では,一般保護観察,一般短期保護観察とは異なり,できるだけ交通事件の保護観察を専門に担当する保護観察官や交通法規に通じた保護司等が担当するように配慮されています。

 交通保護観察では,必要に応じて,交通法規,運転技術等に関する個別指導,交通道徳の滋養,運転技術向上を図るための集団処遇が行われています。

 交通保護観察では,おおむね6か月経過後に解除が検討されています。

(4) 交通短期保護観察について

 交通短期保護観察の対象となるのは,交通関係事件で保護観察に付された少年で,短期処遇勧告がなされた少年です。

 交通短期保護観察に付するのは,非行を繰り返すおそれがあることは前提として,①一般非行性がないか,またはあっても非行の深まりがないこと,②交通関係の非行性が固定化していないこと,③資質に著しい偏りがないこと、④対人関係に特に問題がないこと,⑤集団処遇への参加が期待できること,⑥保護環境がとくに不良でないことに該当して,かつ特別遵守事項を定めない少年であって,短期間の指導監督及び補導援護により更生を期待できるものです。

 交通短期保護観察では,原則として,保護観察官が直接集団処遇を行い,担当保護司は指名されず,個別処遇も行われません。保護観察官は、少年に毎月の生活状況を報告させたり,交通講習を行ったりします。

 交通短期保護観察は,おおむね3か月以上4か月以内に解除が検討されます。逆に,6か月を超えて解除ができないときは,保護観察決定をした家庭裁判所の意見を聴いたうえで,交通保護観察に切り替えられます。

6 保護観察はどのようなことをするのですか。

(1) 保護司等による指導

 一般保護観察に付されると,少年は,月に1回から2回程度,担当の保護司あるいは保護観察官を訪問して,近況を報告します。保護司等は,少年に必要な指導,助言等をしたり,場合によっては,就職先のあっせん等をしたりします。

 保護司は,月に一度,少年の生活状況と保護観察の経過を記載した報告書を保護観察所長に提出することになっています。保護観察官は,その報告書を読み,必要に応じて,保護司に指示したり,必要であれば自ら少年と面接をしたりすることもあります。

 細かく言いますと,保護観察の内容は,①指導監督と②補導援護の二つです(更生保護法49条1項)。指導監督は,面接等により,対象者の行状を把握するとともに,少年が遵守事項を遵守して生活するように必要な指示を行うことなどを内容としています(更生保護法57条)。一方,補導援護は,就職の助言や生活指導など,少年が健全な社会生活を営むために必要な援助や助言を与えるというものです(更生保護法58条)

(2) 遵守事項

 少年には,保護観察期間中,遵守すべき事項が定められ,保護司等からは,この遵守事項を守るように指導監督が行われます。遵守事項には,保護観察の対象となる少年全員が遵守することを求められる一般遵守事項と保護観察対象者ごとに定められる特別遵守事項があります。
 一般遵守事項は,更生保護法50条で決まっています。具体的な内容は以下のとおりです。
① 再犯・再非行をしないよう健全な生活態度を保持すること
② 保護観察官等の呼出・訪問・面接に応じ,指導監督のため求められた労働・通学状況,収入・支出状況,家庭環境,交友関係等についての申告,資料提出を行い,保護観察官等による指導監督を誠実に受けること
③ 住居を定めて届出をして,その住居に居住すること
④ 転居・長期旅行をするときはあらかじめ保護観察所長の許可を受けること

(3) 類型別処遇制度について

 保護観察では,非行の態様,特徴的な問題性等により少年をいくつかに類型化して,その特性に焦点を合わせた効率的な処遇を実施できるように配慮されています。現在は,シンナー等乱用,覚せい剤事犯,暴力団関係,暴走族,性犯罪等,精神障害等,中学生,校内暴力,無職等,家庭内暴力等の類型が定められています。

 なお,以下のコラムでは,保護観察の応用問題について解説しています。
 少年事件における保護観察期間中の遵守事項違反
 少年事件で保護観察期間中の遵守事項を守らなかったら?
 少年事件における保護観察所の社会貢献活動
 少年事件で保護観察の遵守事項に違反して少年院に送致された事案
 
 
 

少年事件で保護観察の遵守事項に違反して少年院に送致された事案

2015-05-07

 保護観察(保護観察一般の説明については,少年事件のページ「少年事件に強い弁護士」のQ&Aのコーナーや保護観察について(少年事件)をご参照ください。)の遵守事項に違反した少年について,少年院に送致されるのは,以下の要件がある場合です(少年法26条の4第1項)。

(1) 保護観察を受けた少年が遵守事項を守らない。

(2) 保護観察所の所長が警告をしても,遵守事項を守らない。

(3) 遵守事項違反の程度が重い

(4) 保護観察によっては,少年の更生改善を図ることができない。

 (1)(2)はある程度客観的に明らかになることなので,判断が難しいのは(3)(4)です。

 (3)の要件については,遵守するよう警告を受けた遵守事項の内容(遵守事項の違反に対して最終的に少年院送致の措置をとることが妥当な内容であるか),遵守事項を遵守しなかった理由及び態様(どの程度違反が継続しているか,どのような程度社会に危険があるか),保護観察所長が実施した指導監督及び保護者に対する措置の内容並びにこれらに対する少年及び保護者の対応の状況等の具体的な事実を総合的に考慮して決定されるものとされています(平成20年5月9日法務省保観325号矯正局長・保護局長依命通達「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務の運用について」を参照)。

 (4)の要件については,保護観察所所長の警告の後の少年の改善更生の意欲,及び行状の変化,警告に係る遵守志向を遵守しなかった後の環境の変化,保護観察を継続した場合に期待できる効果等の具体的事実を総合的に考慮して決定されるものとされています(上記通達を参照)。

 東京家庭裁判所平成27年9月1日の少年審判は,保護観察中の19歳の少年に対する少年院送致の申請について,少年を少年院に送致すると決定した事案で,(3)(4)をどのように認定をしていくかということを考えるうえで,参考になります。

 事案の概要は以下のとおりです。

①少年は,平成24年ころ,保護観察の審判を受けた(インターネットを通じて知り合った友人の財布や原動機付自転車を窃取,別の被害者の携帯電話を損壊,父親から現金3万円を詐取)。

②保護観察の一般遵守事項には,
・再度犯罪をすることがないよう,または非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること,
・保護観察官及び保護司による指導監督を誠実に受けること、保護観察官または保護司の呼出しまたは訪問を受けたときは,これに応じ,面接を受けること,
・保護観察に付されたときに保護観察所の長に届け出た住居または転居することについて保護観察所の長から許可を受けた住居に居住すること,
・転居または7日以上の旅行をするときは,あらかじめ,保護観察所の長の許可を受けること
などが設定されている。

③平成26年,少年は,現金1万1000円が入った財布等を窃取。

④平成27年,少年は,保護観察所の長の許可をうけることなく,7日以上の家出を行い,さらに,繰り返し家出を行い,保護観察官から,保護観察所へ出頭するよう命令を受けたものの,これに応じなかった。

⑤保護観察所所長が,上記遵守事項を遵守するように警告した。

➅それでも,少年は,家出をして,保護観察官からの出頭に応じなかった。

 

 上記事案において,東京家庭裁判所は,上記の経緯に照らすと,「少年が遵守事項を遵守せず,警告を受けたにもかかわらず,なお遵守事項を遵守せず,その程度が重いと認められる」と判示して,上記(1)(2)(3)の要件を満たすと判断しました。

 また,「少年が3年にわたり保護観察の指導を受けながら,これを真に受け止めず,家出を繰り返したり職を転々とする中で,置き引き・・・友人との間の金の貸し借りの問題を起こした上,これらの処理に父母を任せるなどし,父母との信頼関係を破壊してきたこと等に鑑みると,少年が抱える資質上,性格上の問題性は根深いものといわざるをえない。父母は,少年に対する観護の意欲を示すものの,これまでの経緯に照らすと,親子関係の改善は容易ではなく,現時点ではその監護力に多くを期待することができない。」と判示して,上記(4)の要件を満たすと判断しました。

 本審判は,保護観察所の所長の警告後においても,少年の行状の変化がなく,環境の改善,特に,両親との関係の改善も見られないこと,3年間の保護観察期間において保護観察の実を上げることができていないことなどを重視して(3)の要件を認定したものと考えられます。逆にいえば,例えば,警告後,少年が保護観察所の指示に従うようになったり,また,両親の監護能力に期待が持てるような状況になったりするような事情がある,あるいは,保護観察3年の期間でつまずきながらも,少年が更生の道を進んでいたりするなどの事情があれば,逆の判断もありえたところかと思われます。
 
 
保護観察期間中に遵守事項違反があった場合,可能な限り迅速に対応する必要があります。事件に応じた見通しなどを知りたい場合,何をしたほうがよいか聞きたい場合には,当事務所まで御連絡ください(当事務所の少年事件に関する説明は,少年事件に強い弁護士をご参照ください。)。

 

【追記① 令和5年6月17日】
名古屋家庭裁判所令和3年12月15日決定は,少年が,保護観察所所長の警告を1回受けたにもかかわらず,保護観察所所長から許可を受けた住居に居住しなかったという事案で,遵守事項違反の程度が重く,少年の問題性の根深さや保護環境等を考慮すると,保護観察によっては少年の構成を図ることはできないとして,少年院を送致するとしました(判例タイムズ1507号253頁)。

少年事件と検察官関与制度

2015-05-05

少年事件の検察官関与制度とは,家庭裁判所が,一定の要件を満たす重大事件について,非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときに,裁判所の決定により,少年審判に検察官を出席させる制度です(少年法22条の2第1項)。

少年審判では,原則として,検察官が出席することはありません。検察官関与制度の趣旨は,非行事実について激しく争われる事件等について,証拠の収集,吟味における多角的視点の確保,少年と裁判官が激しく対峙する状況を回避して, 非行事実の適正な認定を図るという点にあります。

検察官関与決定があった場合には,検察官が,非行事実の認定に資する程度で,事件の記録・証拠物の閲覧・謄写,審判に出席,証人への尋問,少年本人尋問,意見陳述を行う権限が認められることになります(少年審判規則30条の5,同7条,同30条の6,同30条の8第1項,同30条の8第2項,同30条の10)。

検察官関与の決定が下されるのは,

①   故意の犯罪行為により被害物を死亡させた罪,その他死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役若しくは禁固に該当する罪に該当すること

②   非行事実を認定するために検察官が関与する必要がある場合

です。

もっとも,少年審判に検察官が関与することは,弊害もあります。そもそも,少年審判は,少年法の目的の実現のために,「懇切を旨として,和やかに行う」とされています(少年法22条で明記されています。)。しかし,検察官が,少年審判に出席するだけで,審判の雰囲気が一変することは少なくありません。また,少年に威圧的な態度で接して,糾弾するような検察官もいることは事実です。そのような場合,少年は,審判官からの質問を的確に理解できなくなったり,自己の意見を適切に伝えることができなくなったりすることがあります。このように検察官関与制度は,少年審判を変容させ,少年の立ち直りにも悪影響を及ぼす可能性を内包したものであることは否定できません。私自身は,経験がないのですが,単独犯であっても,また,被害金額が小さくても,被告事実を争ったら,検察官に反論の機会を与えるため,検察官を関与させることが公平であるという話をする裁判官もいるようです。2014年の法改正で,検察官対象事件は大幅に増加しましたが,当該改正は,オレオレ詐欺の否認事件や共犯者がいる恐喝,傷害事件などで共犯者の供述が一致せず,事案の真相が見えにくい事件で適切な事実認定を図ることを目的としたもので,当該改正の趣旨に反した運用がなされているとすれば問題があるといわざるを得ません。

そこで,検察官が,検察官関与の申出をした場合には,付添人の立場から,検察官関与が不相当であるという内容の意見書を提出して,検察官関与決定をさせないような活動をすることがあります。例えば,非行事実について争いがない場合,あるいは,非行事実について争いがあるものの犯罪の成立に影響を及ぼすような重大なものではない等の場合等について,検察官から関与の申出があった場合,このような付添人活動をしていくことになります。

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
     少年事件に強い弁護士

少年事件で保護観察の遵守事項を守らなかったらどうなる?

2015-05-05

 保護観察を受けている少年が遵守事項を守らなかった場合,保護観察所所長が,必要に応じて,少年に対して,警告を発することになっています。それでも,少年が,遵守事項を守らず,しかも,その程度が重いときは,家庭裁判所等に少年院等の施設に送致する決定をするように申請することができます。家庭裁判所は,その申請に基づき,上記要件を満たして,しかも,保護観察を継続することによっては,本人の更生改善を図ることができないと認めるときは,少年院等の施設に送致する決定を行うことになっています。

 

 平成19年の少年法の改正により,新たに,このような規定がもうけられました。なぜ,このような規定がもうけられたのでしょうか(なお,保護観察一般の説明については,保護観察について をご参照ください。)。

 

 少年院から仮退院中にも保護観察に付されることがあります。このような場合,少年が,遵守事項を守らなかったのであれば,少年院に収容することができます。

 しかし,少年法上の保護観察では,このような処理をすることができず,遵守事項の実効性を担保する手段がありませんでした。そこで,平成19年改正前(少年法26条の4の条項ができるまで)は,保護観察中の少年が,遵守事項の違反を繰り返して,保護観察官や保護司の指示を守らない事例が少なくなく,保護観察が機能不全を起こしているといわれていました。

 もちろん,平成19年改正前も,保護観察中の少年の遵守事項違反に対処する手段がなかったわけではありません。遵守事項違反を繰り返す少年に対して,保護観察所所長が,虞犯事由があるとして,家庭裁判所に通告することがありました。遵守事項に違反しているような少年は,虞犯事由があることも多かったので,家庭裁判所としては,審判により少年院等の施設に送致する処分を行うこともできたのです。ただ,保護司さんに寄り付かなくなった少年については,そもそも,虞犯事由があることを確認することも困難ですし,また,虞犯として家庭裁判所に送致するためには,少年法3条1項の要件を充足しなければならないというハードルもあります。虞犯で通告することができたとしても,保護観察の遵守事項の履行の担保を確保するという観点では不十分であることが明らかでした。

 そこで,平成19年改正により,保護観察中の少年が遵守事項の違反を繰り返した場合,上記の手続により,少年院等の施設送致を行うことも可能となったのです(少年法26条の4)。

 この制度については,以下の指摘がされています。

「少年院等への威嚇によって少年に遵守事項を守らせようとするものであり,保護司と対象者との関係や,ケースワーク支えとする保護観察の性格自体を変容させるとの批判もある。しかし,この制度は,担当者と少年の間の信頼関係を基礎として,少年が自ら改善更生に向けた努力を行うという保護観察の基本的な考え方をかえるものではなく,制度の元々の意図は,遵守事項を守らない少年を,そこで規定された手続を踏むことによってその枠内に引き戻し,できるかぎり保護観察によって少年の改善更生を図ることにある。したがって,本制度の導入により保護観察のあり方が変容するかどうかは,その運用にかかっているといえよう。」(少年法・川出敏裕245頁)。

 警告後はもちろん,申請後においても,保護観察所が,家庭裁判所と連携をとりながら,少年に対して,保護観察の枠組みで更生できるように働きかけていくことは当然に可能ですし,実際に,そういった取り組みがされているようです。例えば,改正法が施行された平成19年から平成21年5月までの期間,全国の保護観察所においてなされた警告の総数は,99件であるのに対して,施設送致申請は5件で,その5件のうち実際に施設送致となったのは3件になっていて,警告=施設送致申請=施設送致という処理はされていないようです。特に,警告と施設送致申請の件数に大きな差異があることからすると,警告がなされた段階でどのような対応をとるかが非常に重要になってくるものと思われます。保護観察の遵守事項違反が問題となられている方は,当事務所まで御相談ください(お問合せフォーム)。

 

★以下では,品川総合法律事務所の少年事件の処理方針等を説明しています。
     少年事件に強い弁護士

少年事件における保護観察期間中の遵守事項違反

2015-05-04

少年事件の審判で,少年が保護観察(保護観察の一般的な説明は,「少年事件に強い弁護士」のQ&Aのコーナーや保護観察について(少年事件)をご参照ください。)に付されたとしても,遵守事項を守らない場合,少年院送致の可能性があります。

保護観察に付されると,少年に対して,保護観察期間中,守るべき遵守事項が示されます(少年に対して,内容を記載された書面を交付することによって通知されています。更生保護法54条,55条)。遵守事項には,保護観察に付された少年全員が遵守しなければならない「一般遵守事項」と少年ごとに必要に応じて定められる「特別遵守事項」があります。

一般遵守事項は,更生保護法50条で,
①再犯・再非行しないよう健全な生活態度を保持すること
②保護観察官等の呼出・訪問・面接に応じ,指導監督のため求められた労働・通学状況,収入・支出状況,家庭環境,交友関係等についての申告,資料提出を行い,保護観察官等による史剛監督を誠実に受けていること
③住居を定めて届出をし,その住居に居住すること
④転居・長期旅行をするときはあらかじめ保護観察所所長の許可を受けること
が定められています。

一方,特別遵守事項(更生法51条,52条)は,保護観察所長が,保護観察対象者ごとに,保護観察決定をした家庭裁判所の意見を聴いて定めるものとされています。家庭裁判所は,保護観察所に,特別遵守事項に関する意見を通知することになっています(少年審判規則37条3項)。

保護観察に付された少年が遵守事項に違反した場合,保護観察所所長は,保護警告を発することになり(更生保護法67条1項),警告を発した日から起算して3か月間を「特別観察期間」として,指導監督を強化することになっています。そして,この警告が発せられたにもかかわらず,さらに遵守事項に違反して,その程度が重い時,保護観察所所長は,少年院等に送致する申請を行います。

申請を受けた家庭裁判所は,申請の理由が認められること,さらに,保護観察に付する処分では少年の改善及び更生を図ることができないと認めるときには,少年を少年院等に送致する保護処分をしなければならないとされています。申請があれば当然に少年院等に送致される決定が下されるわけではなく,保護観察に付する処分では少年の改善及び更生を図ることができないと認められるときに,少年院送致の決定が下されます。

保護観察中に再非行,遵守事項違反があったとしても,軽微な事案であれば,家庭裁判所において不処分(別件保護中)決定等で終結する可能性はありますし,前記の保護観察所長の警告(更生保護法67条1項)を受けるにとどまったり,また,少年院送致申請がなされたとしても,家庭裁判所が少年院送致の決定をしないことはあります。要するに,遵守事項違反があったとしても,速やかに,少年が遵守事項を守ることができなかった理由を解明して,保護観察による改善更生を図ることができるか検討したうえで,場合によっては,家庭裁判所等に対して,働きかけ等を行っていく必要があります。

 

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